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ご褒美
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ご褒美を強請ったのはアユールさんの方なのに。
どうしてそんなに困った顔をするの?
「あ。・・・ご褒美、もしかして、いらなかった?」
不安になって、首を傾げて確認してみる。
アユールさんはその質問にぎょっとして、慌てて両手をバタバタと左右に振って、違う違う、と大声で言った。
「そっか。よかった。もういらないって言われちゃうかと思った」
そう言って笑ったら、アユールさんが頭を抱えてその場に座り込んだ。
「うわ・・・。そういう所は似てないって思ってたんだけど、やっぱりお前ってレーナの子なんだな」
どういう意味?
母さんの子どもに決まってるじゃない。
「アユールさん?」
「お前の場合は無自覚なんだろうけどさ、翻弄される側としてはたまんないよ。いやもう、ホント、勘弁して」
「え? なに? 何の話?」
翻弄って、どういうこと?
「参ったなぁ。叔父貴はこれを毎回くらってたのかぁ・・・」
「えーと、アユールさん? 話が見えないんだけど・・・」
ぶつぶつと呟くアユールさんの肩に、そっと触れる。
一緒になってしゃがみ込んで、顏を覗き込む。
「ねぇ、大丈夫?」
「大丈夫。・・・いや、大丈夫じゃない、かも」
大丈夫って言ってたのに、目と目が合った瞬間、大丈夫じゃないって、視線を逸らされた。
一体、どうしたのかな。
「あー、もう。サーヤ、お前なぁ」
「うん?」
「無自覚の無防備ってホント・・。いや、もういいや。もらう。もらうよ、お前からのご褒美」
そう言って、いきなりずいっと身体を寄せてきた。
さっきまでもじもじしてたくせに、急に表情が大人に戻るんだもの。
そんな顔を見たら、今度はこっちがドキドキしてしまう。
「こら、逃げるな」
無意識に一歩後ずさったところを、ぎゅっと捕まえられて。
腕の中に閉じ込められる。
「ア、アユールさん・・・」
「ご褒美、くれるんだろ?」
「あ、あげる・・・けど」
「ありがと」
抱きかかえられた頭の上で、ふっと笑みが漏れる気配がした。
「・・・じゃあ、いただきます」
掌で私の頬を包むと、アユールさんの顔がゆっくりと近づいてくる。
金色の眼が、真っ直ぐに私を射抜く。
黒い睫毛が目元をくっきりと縁取って。
うわぁ、睫毛が長い。
なんて、逃避してみても現実は変わらない。
アユールさんの顔が、唇が、近づいてくる。
「ま、待って!」
「・・・」
思わず、掌でアユールさんの口元を抑えてしまった。
じろり、と、恨めしそうに私を睨む。
「あ、あの、いや、違うの。嫌がってるとかじゃなくて!」
「じゃあ何なの」
掌を退かした口が、不機嫌そうに呟いた。
「・・・何なんでしょうね?」
自分でも訳が分からなくて、あはは、と、笑ってみせたけど。
当然ながら、そんな事で誤魔化される筈もなく。
ど、どうしよう。
キスしたくない訳じゃないのに、恥ずかしくて、いっぱいいっぱいだよ。
困ってしまって、ちら、とアユールさんを見上げると、困ったように溜息を吐いて、ぼそっと口を動かした。
「目、瞑って」
「へ?」
「恥ずかしいんだろ? 目、瞑って」
「は、はい!」
言われてそのまま目を瞑る。
「もう、待ちくたびれたから。これ以上のお預けはなしで」
そんな言葉と共に、顔に息がかかって。
柔らかいものが、唇に触れた。
そして少しだけ離れて、また触れる。
またすぐに離れて、アユールさんの口から、はぁ、と吐息が溢れる。
「・・・柔らかくて、あったかい・・・」
目を優しく細めて、そう呟いた。
「サーヤ。帰って・・・来たんだな、本当に・・・」
そう言うと、また唇を重ねた。
ゆっくりと、何度も、何度も、優しく唇を重ねて。
まるで、私がここにいるのを確かめるように。
長く、ゆっくりと、何度も唇を重ねるうちに頭がぼうっとしてきて。
アユールさんの背中に回した腕も、力が入らなくなってきた。
そんな私を見て、アユールさんが嬉しそうに笑う。
「お前はホントに可愛いな」
そんな言葉を耳元で囁きながら。
嬉しそうに、楽しそうに、キスを重ねる。
それから最後にもう一度、私をぎゅっと抱きしめてから腕の力を緩めて。
「よし、充填完了。ご馳走さま。ご褒美、美味しくいただきました」
そう言って、悪戯っぽく笑った。
どうしてそんなに困った顔をするの?
「あ。・・・ご褒美、もしかして、いらなかった?」
不安になって、首を傾げて確認してみる。
アユールさんはその質問にぎょっとして、慌てて両手をバタバタと左右に振って、違う違う、と大声で言った。
「そっか。よかった。もういらないって言われちゃうかと思った」
そう言って笑ったら、アユールさんが頭を抱えてその場に座り込んだ。
「うわ・・・。そういう所は似てないって思ってたんだけど、やっぱりお前ってレーナの子なんだな」
どういう意味?
母さんの子どもに決まってるじゃない。
「アユールさん?」
「お前の場合は無自覚なんだろうけどさ、翻弄される側としてはたまんないよ。いやもう、ホント、勘弁して」
「え? なに? 何の話?」
翻弄って、どういうこと?
「参ったなぁ。叔父貴はこれを毎回くらってたのかぁ・・・」
「えーと、アユールさん? 話が見えないんだけど・・・」
ぶつぶつと呟くアユールさんの肩に、そっと触れる。
一緒になってしゃがみ込んで、顏を覗き込む。
「ねぇ、大丈夫?」
「大丈夫。・・・いや、大丈夫じゃない、かも」
大丈夫って言ってたのに、目と目が合った瞬間、大丈夫じゃないって、視線を逸らされた。
一体、どうしたのかな。
「あー、もう。サーヤ、お前なぁ」
「うん?」
「無自覚の無防備ってホント・・。いや、もういいや。もらう。もらうよ、お前からのご褒美」
そう言って、いきなりずいっと身体を寄せてきた。
さっきまでもじもじしてたくせに、急に表情が大人に戻るんだもの。
そんな顔を見たら、今度はこっちがドキドキしてしまう。
「こら、逃げるな」
無意識に一歩後ずさったところを、ぎゅっと捕まえられて。
腕の中に閉じ込められる。
「ア、アユールさん・・・」
「ご褒美、くれるんだろ?」
「あ、あげる・・・けど」
「ありがと」
抱きかかえられた頭の上で、ふっと笑みが漏れる気配がした。
「・・・じゃあ、いただきます」
掌で私の頬を包むと、アユールさんの顔がゆっくりと近づいてくる。
金色の眼が、真っ直ぐに私を射抜く。
黒い睫毛が目元をくっきりと縁取って。
うわぁ、睫毛が長い。
なんて、逃避してみても現実は変わらない。
アユールさんの顔が、唇が、近づいてくる。
「ま、待って!」
「・・・」
思わず、掌でアユールさんの口元を抑えてしまった。
じろり、と、恨めしそうに私を睨む。
「あ、あの、いや、違うの。嫌がってるとかじゃなくて!」
「じゃあ何なの」
掌を退かした口が、不機嫌そうに呟いた。
「・・・何なんでしょうね?」
自分でも訳が分からなくて、あはは、と、笑ってみせたけど。
当然ながら、そんな事で誤魔化される筈もなく。
ど、どうしよう。
キスしたくない訳じゃないのに、恥ずかしくて、いっぱいいっぱいだよ。
困ってしまって、ちら、とアユールさんを見上げると、困ったように溜息を吐いて、ぼそっと口を動かした。
「目、瞑って」
「へ?」
「恥ずかしいんだろ? 目、瞑って」
「は、はい!」
言われてそのまま目を瞑る。
「もう、待ちくたびれたから。これ以上のお預けはなしで」
そんな言葉と共に、顔に息がかかって。
柔らかいものが、唇に触れた。
そして少しだけ離れて、また触れる。
またすぐに離れて、アユールさんの口から、はぁ、と吐息が溢れる。
「・・・柔らかくて、あったかい・・・」
目を優しく細めて、そう呟いた。
「サーヤ。帰って・・・来たんだな、本当に・・・」
そう言うと、また唇を重ねた。
ゆっくりと、何度も、何度も、優しく唇を重ねて。
まるで、私がここにいるのを確かめるように。
長く、ゆっくりと、何度も唇を重ねるうちに頭がぼうっとしてきて。
アユールさんの背中に回した腕も、力が入らなくなってきた。
そんな私を見て、アユールさんが嬉しそうに笑う。
「お前はホントに可愛いな」
そんな言葉を耳元で囁きながら。
嬉しそうに、楽しそうに、キスを重ねる。
それから最後にもう一度、私をぎゅっと抱きしめてから腕の力を緩めて。
「よし、充填完了。ご馳走さま。ご褒美、美味しくいただきました」
そう言って、悪戯っぽく笑った。
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