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必然
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「レナライア王妃の娘と夢を共有しているだと・・・?」
カーマインにしては珍しく、驚きも隠さずにそう聞き返した。
クルテルも、初めて耳にする夢の話に目を丸くして。
アユールの叔父、カーマイン・サリタスの協力を取り付けたところで、まずは情報の共有を、と始まった話の中のひとつだったのだが。
「サーヤ、といったか。その娘の声を聞いたというのだな」
「ああ、夢の中では、ちゃんと話せるんだ。といっても時間にすると数十分ってところだが」
「一体、何の力が作用したのか・・・」
そう呟くと、しばらくの間、顎に手をあてたまま考え込んでいたが、過去の知識ではどれも思い当たらなかったのか、頭を軽く振るとアユールに向かって問いを投げかけた。
「きっかけは何だったんだ?」
「んん? きっかけと言われても・・・」
髪を掻き上げながら、なんかあったっけ、とぶつぶつ考え込むが何も浮かばず。
「・・・いつからだ? 初めて夢を共有したのはいつだった?」
その質問に、一瞬、動きが止まる。
目を大きく見開き、あのときか、という言葉が漏れる。
「俺が自分に解除魔法を施した日だ。そうだ、あの日の夜・・・初めて夢で逢った」
「解除魔法を施した、・・・他には? 他にその日にしたことはないか?」
うーん、と頭を捻るアユールの横で、クルテルが、ぽんと手を叩く。
「あ、師匠がサーヤさんに宝石をプレゼントしました」
「・・・宝石?」
「このっ・・・クルテル、お前・・・!」
「はい。宝石といっても月光石ですが。解除魔法の補助に使用した月光石を見て、サーヤさんがうっとりしてたので、その後、師匠が大きいのを一つプレゼントしてました」
「・・・ただ月光石を渡しただけか?」
「? いえ。そういえば、渡す前に軽く魔力を込めてましたね」
「あ、あ、あれは、あいつが幸せになれるようにって少し念じただけで・・・」
「そうか。そしてその夜から、夢の共有が始まった、と」
慌てるアユールを他所に、淡々とそのときの説明がなされていく。
顎に手を当て、しばし思案していたカーマインが、ふと、何かに気づいたように口を開いた。
「・・・もしや、サーヤという娘は、その月光石を常に持ち歩いてはいないか?」
「え? ああ、その通りですね。もらってすぐに、サーヤさんは小さな袋にその石を入れて、首から下げていました」
「そうか。では恐らく、眠るときも身につけたままだろうな・・・」
「なんだ? 何か思い当たることでもあったのか?」
アユールとクルテルの好奇の目が、カーマインに注がれる。
「まだ仮説にすぎないが・・・お前が魔力を込めたという月光石が媒介となって、夢の中でお前とあの娘を繋いだのかもしれんな」
その説明にアユールが、ふむ、と少しの間考え込む。
「まぁ、確かに、月光石が関係してるのは間違いないな。だが、どうして月光石を介して俺とサーヤは繋がれたんだ?」
「・・・あの娘に軽減魔法を施したのは、私だからな。当然、あの娘の中には、私の魔力が残存している。そして私の魔力経路とお前の魔力経路は血統的に言ってかなり近い。となれば・・・」
アユールが、ぽんと手を打つ。
「月光石を通して、俺の魔力とサーヤの中の叔父貴の魔力とがリンクしたってことか」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
クルテルも思わず、といった感で納得した顏になって。
でも、すぐに首を傾げた。
「・・・あれ、でも、それだけじゃあ、サーヤさんが夢の中で話せる理由にはならないですよね?」
「そうなんだよな。あいつの話じゃ、これまで夢の中で話せたことは一度もなかったらしいから、他にないかあるはずなんだが・・・」
「やはり、月光石が関わっているとすると・・・」
アユールが、はた、とあることに気がついて。
「ああ、そうか。もしや月光石の増幅作用か・・・?」
「うむ、それが最も確率が高いかもしれん。繋がることで増大した魔力が、月光石の増幅作用で更に大きくなり、娘の体内の軽減魔法を強化した。その影響で一時的に亡失を解除出来た可能性話ある」
「・・・理屈は通ってるな」
つまり、ただの月光石じゃ増幅率が足りなかった訳で。
しかも、込めた魔力が俺のじゃなかったら、サーヤの体内の叔父貴の魔力とは繋がらなかった訳で。
そして、それもこれも、軽減魔法の主が俺の叔父貴だったから、可能となった訳で。
「凄い偶然の積み重ねだな・・・。どんだけの確率だよ」
呆然とする俺に、叔父貴は当然といった感でこんな言葉を呟いた。
「必然とは偶然の積み重ねだ。お前たちは、出会うべくして出会ったのだろう」
必然。
そう言いながらも。
もう何も映すことのないその眼は、今も誰かを探しているかのように揺らいでいた。
カーマインにしては珍しく、驚きも隠さずにそう聞き返した。
クルテルも、初めて耳にする夢の話に目を丸くして。
アユールの叔父、カーマイン・サリタスの協力を取り付けたところで、まずは情報の共有を、と始まった話の中のひとつだったのだが。
「サーヤ、といったか。その娘の声を聞いたというのだな」
「ああ、夢の中では、ちゃんと話せるんだ。といっても時間にすると数十分ってところだが」
「一体、何の力が作用したのか・・・」
そう呟くと、しばらくの間、顎に手をあてたまま考え込んでいたが、過去の知識ではどれも思い当たらなかったのか、頭を軽く振るとアユールに向かって問いを投げかけた。
「きっかけは何だったんだ?」
「んん? きっかけと言われても・・・」
髪を掻き上げながら、なんかあったっけ、とぶつぶつ考え込むが何も浮かばず。
「・・・いつからだ? 初めて夢を共有したのはいつだった?」
その質問に、一瞬、動きが止まる。
目を大きく見開き、あのときか、という言葉が漏れる。
「俺が自分に解除魔法を施した日だ。そうだ、あの日の夜・・・初めて夢で逢った」
「解除魔法を施した、・・・他には? 他にその日にしたことはないか?」
うーん、と頭を捻るアユールの横で、クルテルが、ぽんと手を叩く。
「あ、師匠がサーヤさんに宝石をプレゼントしました」
「・・・宝石?」
「このっ・・・クルテル、お前・・・!」
「はい。宝石といっても月光石ですが。解除魔法の補助に使用した月光石を見て、サーヤさんがうっとりしてたので、その後、師匠が大きいのを一つプレゼントしてました」
「・・・ただ月光石を渡しただけか?」
「? いえ。そういえば、渡す前に軽く魔力を込めてましたね」
「あ、あ、あれは、あいつが幸せになれるようにって少し念じただけで・・・」
「そうか。そしてその夜から、夢の共有が始まった、と」
慌てるアユールを他所に、淡々とそのときの説明がなされていく。
顎に手を当て、しばし思案していたカーマインが、ふと、何かに気づいたように口を開いた。
「・・・もしや、サーヤという娘は、その月光石を常に持ち歩いてはいないか?」
「え? ああ、その通りですね。もらってすぐに、サーヤさんは小さな袋にその石を入れて、首から下げていました」
「そうか。では恐らく、眠るときも身につけたままだろうな・・・」
「なんだ? 何か思い当たることでもあったのか?」
アユールとクルテルの好奇の目が、カーマインに注がれる。
「まだ仮説にすぎないが・・・お前が魔力を込めたという月光石が媒介となって、夢の中でお前とあの娘を繋いだのかもしれんな」
その説明にアユールが、ふむ、と少しの間考え込む。
「まぁ、確かに、月光石が関係してるのは間違いないな。だが、どうして月光石を介して俺とサーヤは繋がれたんだ?」
「・・・あの娘に軽減魔法を施したのは、私だからな。当然、あの娘の中には、私の魔力が残存している。そして私の魔力経路とお前の魔力経路は血統的に言ってかなり近い。となれば・・・」
アユールが、ぽんと手を打つ。
「月光石を通して、俺の魔力とサーヤの中の叔父貴の魔力とがリンクしたってことか」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
クルテルも思わず、といった感で納得した顏になって。
でも、すぐに首を傾げた。
「・・・あれ、でも、それだけじゃあ、サーヤさんが夢の中で話せる理由にはならないですよね?」
「そうなんだよな。あいつの話じゃ、これまで夢の中で話せたことは一度もなかったらしいから、他にないかあるはずなんだが・・・」
「やはり、月光石が関わっているとすると・・・」
アユールが、はた、とあることに気がついて。
「ああ、そうか。もしや月光石の増幅作用か・・・?」
「うむ、それが最も確率が高いかもしれん。繋がることで増大した魔力が、月光石の増幅作用で更に大きくなり、娘の体内の軽減魔法を強化した。その影響で一時的に亡失を解除出来た可能性話ある」
「・・・理屈は通ってるな」
つまり、ただの月光石じゃ増幅率が足りなかった訳で。
しかも、込めた魔力が俺のじゃなかったら、サーヤの体内の叔父貴の魔力とは繋がらなかった訳で。
そして、それもこれも、軽減魔法の主が俺の叔父貴だったから、可能となった訳で。
「凄い偶然の積み重ねだな・・・。どんだけの確率だよ」
呆然とする俺に、叔父貴は当然といった感でこんな言葉を呟いた。
「必然とは偶然の積み重ねだ。お前たちは、出会うべくして出会ったのだろう」
必然。
そう言いながらも。
もう何も映すことのないその眼は、今も誰かを探しているかのように揺らいでいた。
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