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来訪者
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互いに同じ夢を共有していることに気づいてから数日経った、ある日のお昼過ぎ。
扉をノックする音がして。
皆の目に警戒の色が浮かんだ。
アユールが、クルテルに視線を送る。
それを受けて、クルテルが扉近くの窓から、外を確認する。
「・・・商人のようですが、どうします?」
「商人? あら、もしかして、ランドルさんかしら」
商人、という言葉に、レーナ母娘が反応する。
「ランドル? 知り合いか?」
「時々この家に寄ってくれる商人さんよ。・・・ああ、やっぱりそうだわ。あの人なら大丈夫。サーヤ、お願い」
サーヤが、ぱたぱたと走って扉を開ける。
外に立っていたのは、人の好さそうな笑みを浮かべた白髪まじりの長身の男だった。
「こんにちは、サーヤちゃん。レーナさんは元気にしてるかい?」
日除けの被り物を頭から外し、ランドルはニコニコと挨拶する。
「こんにちは、ランドルさん。また寄ってくれて嬉しいわ。今回はどこを回ってきたのかしら? うちで何か交換出来るものがあるといいんだけど」
明るい声で玄関まで出てきたレーナに、ランドルは温かい笑顔を向ける。
「レーナさんとこの薬草は、なかなか評判が良くてねぇ。量次第では、お好きな物と交換させてもらいますよ。うちの品を見てみるかい?」
いつものように、家の中で荷物を広げるつもりなのだろう。
レーナに確認の声をかける。
ふと、アユールとクルテルのことを考えたレーナは、ええと、と言い淀みながら後ろを振り返る。
すると、つい先ほどまで部屋にいた2人が、どこにも見当たらないことに気づいて。
それだけじゃなく、あれこれ広げられていた薬瓶やら鍋やらの一切合切が、綺麗さっぱり無くなっているのだ。
うわぁ、魔法って便利。
サーヤのそんな感想は、きっとレーナも思った筈。
一瞬、驚いて目を瞠ったものの、すぐに気を取り直してランドルを中へ招き入れた。
床の上にずらりと並べられる品々。
包丁などの台所用品や、歯磨き粉などの衛生品、動きやすそうな服、針と糸など、どれも森の中では手に入らないものばかり。
家に貯蔵してある薬草の束を取り出して、ランドルに渡す。
「ああ、これだけあると助かるよ。何せこれは黒の森でしか取れない薬草だからね。需要はあるんだが、誰も怖がって森の奥までは行かないから、なかなか手に入りにくくてね」
そう言って、広げた商品の中から、好きなものを選ばせてくれた。
お茶を飲みながら、ひとしきり世間話に花を咲かせた後、商品を荷台に積み直して町へと出発するランドルはを見送った。
「今回も色々もらえて助かったわね。・・・って、あら? アユールさんたちはどこ行っちゃったのかしら?」
サーヤと家中を見て回っても。
部屋にも、台所にも、姿が見当たらない。
「また何か道具でも取りに、あっちに帰ったのかしら・・・?」
サーヤとレーナは、互いの顔を見合わせた。
◇◇◇
ラルバに荷台を引かせながら、ガタゴトとその振動に身を任せ、ゆったりと移動していたランドルの前に、森の中から一人の男が姿を現した。
ランドルの顔に警戒の色が浮かぶ。
「・・・よう、ランドルフ」
その人物がアユールであることを認めると、ランドルはホッと安堵の息を漏らした。
「アユールさま・・・? どうしてここに・・・」
「そりゃ、こっちの台詞だ。声を聞いて、まさかとは思ったんだが」
そう言って、じろりとランドルフを睨みつける。
「・・・お前、行商人の振りなんかしてあの家に出入りして。一体どういうつもりだ?」
「・・・っ!」
ランドルフは、真意を測るようにじっとアユールを見つめた。
「あの家・・・とは、どこのことでしょう? 今は移動中でして、何のことやら分かりかねますが・・・」
「じゃあ、はっきり言ってやろうか。レーナとサーヤの家だ」
二人の名前を明確に告げられ、ランドルフの顔色が変わる。
「なぜ、二人の名を・・・」
「いいから答えろ。あの家に何しに来た?」
しばしの逡巡の後、ランドルフはアユールの表情を伺いながら口を開く。
「・・・以前、道に迷った時に世話になったことがありまして。それから時々、様子を見に行くように・・・」
「ふーん。・・・それを俺が信じると思ってるのか?」
「・・・アユールさまこそ、どうしてあの母娘を・・・?」
「俺は、単純に世話になったからな」
「は?」
「あの母娘は、俺の命の恩人なんだ」
「・・・命の恩人・・?」
ランドルフは、顎に手をあて、しばしの間黙り込んだ。
言葉の真偽を確かめるように、アユールの表情をじっと観察する。
「・・・嘘じゃない。数週間前、俺が瀕死の状態になっていたところを、あの家の娘が助けてくれてな」
「瀕死? それはまた・・・」
「王城に誘い出されて、サルマンの攻撃を受けたんだ。逃げる途中で倒れてしまったところを、拾って看病してくれたんだ」
「・・・」
「あの母娘には、借りがある。・・・もし、お前が、あの母娘に何か仇なすことを考えているようなら、いくら叔父の家に仕える者とはいえ容赦せんぞ」
「め、滅相もございません! 私は、ただ・・・!」
「ただ?」
「・・・ただ、様子を、見に行っていただけでございます。・・・無事に過ごせているかどうかと」
アユールの眉が、ぴくりと動く。
「・・・どういうことだ。説明してもらおうか」
扉をノックする音がして。
皆の目に警戒の色が浮かんだ。
アユールが、クルテルに視線を送る。
それを受けて、クルテルが扉近くの窓から、外を確認する。
「・・・商人のようですが、どうします?」
「商人? あら、もしかして、ランドルさんかしら」
商人、という言葉に、レーナ母娘が反応する。
「ランドル? 知り合いか?」
「時々この家に寄ってくれる商人さんよ。・・・ああ、やっぱりそうだわ。あの人なら大丈夫。サーヤ、お願い」
サーヤが、ぱたぱたと走って扉を開ける。
外に立っていたのは、人の好さそうな笑みを浮かべた白髪まじりの長身の男だった。
「こんにちは、サーヤちゃん。レーナさんは元気にしてるかい?」
日除けの被り物を頭から外し、ランドルはニコニコと挨拶する。
「こんにちは、ランドルさん。また寄ってくれて嬉しいわ。今回はどこを回ってきたのかしら? うちで何か交換出来るものがあるといいんだけど」
明るい声で玄関まで出てきたレーナに、ランドルは温かい笑顔を向ける。
「レーナさんとこの薬草は、なかなか評判が良くてねぇ。量次第では、お好きな物と交換させてもらいますよ。うちの品を見てみるかい?」
いつものように、家の中で荷物を広げるつもりなのだろう。
レーナに確認の声をかける。
ふと、アユールとクルテルのことを考えたレーナは、ええと、と言い淀みながら後ろを振り返る。
すると、つい先ほどまで部屋にいた2人が、どこにも見当たらないことに気づいて。
それだけじゃなく、あれこれ広げられていた薬瓶やら鍋やらの一切合切が、綺麗さっぱり無くなっているのだ。
うわぁ、魔法って便利。
サーヤのそんな感想は、きっとレーナも思った筈。
一瞬、驚いて目を瞠ったものの、すぐに気を取り直してランドルを中へ招き入れた。
床の上にずらりと並べられる品々。
包丁などの台所用品や、歯磨き粉などの衛生品、動きやすそうな服、針と糸など、どれも森の中では手に入らないものばかり。
家に貯蔵してある薬草の束を取り出して、ランドルに渡す。
「ああ、これだけあると助かるよ。何せこれは黒の森でしか取れない薬草だからね。需要はあるんだが、誰も怖がって森の奥までは行かないから、なかなか手に入りにくくてね」
そう言って、広げた商品の中から、好きなものを選ばせてくれた。
お茶を飲みながら、ひとしきり世間話に花を咲かせた後、商品を荷台に積み直して町へと出発するランドルはを見送った。
「今回も色々もらえて助かったわね。・・・って、あら? アユールさんたちはどこ行っちゃったのかしら?」
サーヤと家中を見て回っても。
部屋にも、台所にも、姿が見当たらない。
「また何か道具でも取りに、あっちに帰ったのかしら・・・?」
サーヤとレーナは、互いの顔を見合わせた。
◇◇◇
ラルバに荷台を引かせながら、ガタゴトとその振動に身を任せ、ゆったりと移動していたランドルの前に、森の中から一人の男が姿を現した。
ランドルの顔に警戒の色が浮かぶ。
「・・・よう、ランドルフ」
その人物がアユールであることを認めると、ランドルはホッと安堵の息を漏らした。
「アユールさま・・・? どうしてここに・・・」
「そりゃ、こっちの台詞だ。声を聞いて、まさかとは思ったんだが」
そう言って、じろりとランドルフを睨みつける。
「・・・お前、行商人の振りなんかしてあの家に出入りして。一体どういうつもりだ?」
「・・・っ!」
ランドルフは、真意を測るようにじっとアユールを見つめた。
「あの家・・・とは、どこのことでしょう? 今は移動中でして、何のことやら分かりかねますが・・・」
「じゃあ、はっきり言ってやろうか。レーナとサーヤの家だ」
二人の名前を明確に告げられ、ランドルフの顔色が変わる。
「なぜ、二人の名を・・・」
「いいから答えろ。あの家に何しに来た?」
しばしの逡巡の後、ランドルフはアユールの表情を伺いながら口を開く。
「・・・以前、道に迷った時に世話になったことがありまして。それから時々、様子を見に行くように・・・」
「ふーん。・・・それを俺が信じると思ってるのか?」
「・・・アユールさまこそ、どうしてあの母娘を・・・?」
「俺は、単純に世話になったからな」
「は?」
「あの母娘は、俺の命の恩人なんだ」
「・・・命の恩人・・?」
ランドルフは、顎に手をあて、しばしの間黙り込んだ。
言葉の真偽を確かめるように、アユールの表情をじっと観察する。
「・・・嘘じゃない。数週間前、俺が瀕死の状態になっていたところを、あの家の娘が助けてくれてな」
「瀕死? それはまた・・・」
「王城に誘い出されて、サルマンの攻撃を受けたんだ。逃げる途中で倒れてしまったところを、拾って看病してくれたんだ」
「・・・」
「あの母娘には、借りがある。・・・もし、お前が、あの母娘に何か仇なすことを考えているようなら、いくら叔父の家に仕える者とはいえ容赦せんぞ」
「め、滅相もございません! 私は、ただ・・・!」
「ただ?」
「・・・ただ、様子を、見に行っていただけでございます。・・・無事に過ごせているかどうかと」
アユールの眉が、ぴくりと動く。
「・・・どういうことだ。説明してもらおうか」
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