【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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それから

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ぴちゃり


ぴちゃり


ぴちゃり


「・・・」


何もない筈の空間に逆さに吊られ、胸元から首すじを伝い、絶え間なく血が流れて落ちる。


その滴りは血滴となって落ちていき、眼下で根を張る魔樹へと吸い込まれていく。


血が一滴、一滴と滴るたびに、まるで意思でもあるかのように魔樹の葉はふるりと揺れた。


ぴちゃり


ぴちゃり


ぴちゃり



私はどうしてここにいるのだろう。


もう考えるのも面倒くさい。

もうずっと、長いことこうして吊るされて血を注ぎだしている。


なのにこの体は壊れない。

サルトゥリアヌスが胸元に突き刺した何かが突き刺されたまま塞がって。


そこから血が滴り続けている。


それはきっとこれからも。

この先も永遠に。


泣いても何も変わらない。
叫んでも誰にも届かない。


だから、ヴァルハリラはもう随分と前に考えるのを止めていた。

ああでも。


「・・・あの女は殺したかったなぁ・・・」


久しぶりに、本当に久しぶりに、ヴァルハリラが出した声は、こんな呟きだった。



ぴちゃり


ぴちゃり



どうして上手くいかなかったんだろう。


ヴァルハリラは目を閉じた。

それから二度と開けなかった。


だから気がつかなかった。

魔樹の根元にサルトゥリアヌスが来ていたことに。


サルトゥリアヌスが小さな声で呟いた声も、ヴァルハリラには届かない。


だが、たとえ届いても呪いの言葉を吐くだけだったろう。


カルセイランとユリアティエルの結婚を伝える言葉など。


ぴちゃり


ぴちゃり


ぴちゃり


この先、サルトゥリアヌスの主が贄を求めることはない。


人間に過分な力を与えることも。
ヴァルハリラのような人間が現れることもない。


もう干渉する理由も必要もないのだ。

永遠に魔樹にその血を流し続ける贄が、確保できたのだから。








カルセイラン・ストラスバウムは、その後も臣下として忠実に王国に仕えた。

後のアーサフィルドの治世においては、ジークヴァインの後任として宰相の立場に就き、弟の執政をよく支えたとガゼルハイノン王国史には記録されている。


同じ記録によると、二年ほど剣の修行に出ていたリュクスは、その後、再び騎士団長に任命され、後継の育成指導に熱心に当たった。

その努力は実を結び、優秀な剣士が数多く生まれたという。

ジークヴァイン・アデルハイデンは、長く宰相として国王トルストフに仕えたが、アーサフィルドの即位に伴い、その職責をカルセイランに譲る。

その後はアデルハイデン領に戻り、自領の繁栄に尽力した。

カサンドロスはユリアティエルの保護に尽力した功績で多額の報奨金を王家から賜り、同時に王家から先行交渉権を公的に与えられた。
これにより、カサンドロスの商会は更なる発展を遂げていく。


だが、ただ一人、ショルスンク侯爵家に庶子として生まれながらも、カルセイラン王子にその才を見出され、後にその側近、および懐刀と称され、将来を嘱望されていたノヴァイアス・ショルスンクに関しては、王国史に何の記録も残されてはいない。


ただ、ストラスバウム公爵家の子どもたちの世話役の一人にノブという男性がいたという記述は夫人の日記に残されている。


そのノブという男性は、多くの世話役たちの中でも特に子どもたちに好かれ、元気な子どもたちに追いかけられてはもみくちゃにされる光景をよく見かけた、と。






【 完 】


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