【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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選んだ先にある未来

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ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・



王国暦943年、テルルの月の第十五日。

大聖堂の鐘が鳴り響き、婚姻の時が来たことを告げ知らせる。


前王太子カルセイランと、かつて悪女ダスダイダンにより仲を引き裂かれながらもその真実の愛を貫いた公爵令嬢ユリアティエル・アデルハイデンとの婚姻の時を告げる鐘の音が。


真っ白な礼服に身を包んだカルセイランは、輝くばかりの美しさを放ち、民衆を魅了する。

その隣に立つ、同じく真っ白のドレス姿のユリアティエルは、女神と見紛うほどの気高さを纏い、皆は溜息を漏らした。


『暗黒期』とも揶揄されるヴァルハリラ・ダスダイダンの暗躍の記憶は、まだ民にとって過去にすらなっていない。

その恐怖は色濃く残っていた。

そして、その最たる犠牲者が今日の主役である新郎新婦の二人なのだ。


その二人は今、穏やかな笑みをたたえ、大聖堂の祭壇に祭司の前に立っている。


民はその幸せそうな姿に歓声をあげた。





濃紫の敷布の上を歩きながら、ユリアティエルは思い返す。


あの、国境近くの最果ての村でカルセイランが告げた言葉を。


「・・・君が望むなら、もう一度この人生を選ぶ事が出来る。二年前からこの村で暮らし始めたユリアとして、今まで通りの生活を」


カルセイランは、あくまでもユリアティエルの意思を尊重したいと言う。


「もう一つ、ユリアティエル・アデルハイデンとしての人生に戻るという道もある。これまでの全てを抱え、それと共に生きる道を」


カルセイランは静かに言葉を紡ぐ。


「どちらを選ぶとしても、私は君の選択を尊重する・・・だが、私が君の側にいることを、どうか許して欲しい」


そんな優しさがユリアティエルは嬉しかった。


「カルセイランさま。わたくしは貴方のお側にいても良いのでしょうか・・・? それを・・・望んでも良い、と・・・?」


カルセイランは大きく頷く。


「君以外はいらない。君とでなければ、私は生きていけない。だから、どちらの生き方を選ぶとしても、私は君の側にいたいと願っている・・・それこそ、死が二人を分かつまで、ずっと」
「・・・っ」


ユリアティエルは、カルセイランの胸の中に飛び込む。


カルセイランはユリアティエルを受け止め、その髪を優しく撫でた。


そして、自分の腕の中にすっぽりと収まった愛しい人を見つめる。


「答えを聞かせてくれないか、私のユリア」
「・・・はい」


ユリアティエルは大きく息を吸い込んだ。

そして。


「わたくしは・・・ユリアティエル・アデルハイデンとして・・・貴方と共に生きることを選びます」


そう答えた。

そのまま、ぎゅっと温かい腕に抱きしめられていると、ユリアティエルの頭の中に一つの言葉が響いた。



--- 聞き届けた ---


そう告げる声が。



その後。


ダスダイダン事件の際に重い怪我を負い、療養中とされていた前王太子カルセイランの快癒、および新たな婚約の締結が発表された。


婚約の相手は、同じくダスダイダン事件の解決に大きく貢献したアデルハイデン公爵家の娘であり、かつてヴァルハリラの術によりカルセイランとの仲を引き裂かれた悲劇の令嬢ユリアティエル。

彼女もまた、ヴァルハリラと対峙した影響で体調を崩していたが、二年間の領地療養の後に回復したと公表された。


その後、臣下降籍を求めるカルセイランの願いが認められ、カルセイランは国王より公爵位を賜り、新たにストラスバウム公爵家を興す。

それから約一年後、カルセイラン・ストラスバウムとユリアティエル・アデルハイデンは今日のこの日を、結婚式の日を迎えた。

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