【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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それはいつの日の姿

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ここは国境付近にぽつんと一つだけある非常に辺ぴな村だ。

だから基本的に周囲の風景はどこもかしこも森、森、森。


それでも村には、一箇所だけ少し視点を変えた風景が楽しめる場所がある。


それは村の入り口とは正反対の位置、もっとも奥まった所にある崖から眺める光景だ。


守りが厳重なこの村は、周囲をぐるりと柵で囲まれているが、それが途切れるのがこの切り立った崖の部分だった。


ユリアは、この崖の上から一面に広がる森を見るのが好きだった。


どの時間帯に来ても気持ちが安らぐ。


朝は露で湿った木々の葉が微かに煌めく様が。


昼は太陽の光を生き生きと反射する景色が。


夕は沈む夕日に照らされて森が茜色に染まる姿が。


いつ来ても、つい時間を忘れる程に眺めてしまうのだ。





「・・・見つけた、ユリア。やっぱりここにいたね」


だから、こんな風に後ろから声をかけられることも実はよくあること。


「セイ?」


ユリアは名前を呼ばれて振りかえった。


今は正午近く。

日射しが明るく降り注ぎ、周囲の木々の緑までもが眩しく光を反射している。



「・・・っ」


ユリアは一瞬、自分の目を疑った。


煌めく陽光がセイの金色の髪の上にも降り注いで。

その眩しさにユリアが思わず目を眇めた、その時。


ユリアの脳裏に残像のような何かが浮かび上がったのだ。



・・・あれは。


あれは、セイ・・・?


眩しいばかりに凛々しい姿の。

頭上には輝く・・・が・・・。



「・・・」


・・・なに?


今、浮かんだ光景は・・・なに・・・?



「・・・ユリア?」
「あ・・・セイ・・・」


思わず頭を押さえると、心配そうな表情のセイが早足で近づいてきた。


「具合が悪いのかい?」


不安げな瞳で覗きこむセイに、ユリアは緩く首を振る。


「大丈夫。なんでもないわ」
「本当に? 今日は日射しが強いからね。そろそろ日陰に入った方がいいかもしれないよ」
「・・・そうね」


買い物や仕事帰り、それから他に用事がない時でも、ユリアはよくこの場所に来る。


眼下の風景を時間も忘れて眺めては、よく心配したセイが迎えに来るのだ。


「熱はないかい?」


そう言ってユリアの額に当てた手は、少しひやりとしていて心地よい。


ユリアはふふ、と微笑んだ。


「少し体に熱が籠ってしまったのかもしれないわ」
「そうだね、今日は暑いからね」


ユリアは頷く。


「こんなに日射しが強い日だとノブさんたちも大変ね。村の入り口に立って、ずっと見張ってくれているのですもの」
「ああ、そうだね。確かに夏場はキツイと思うよ。それに冬の雪や寒さもね。でも、ノブやリューは普段から鍛えてるから少しくらい無理もきくけど、ユリアは違う。君はか弱い女性なんだよ。こんな日はあまり無茶しないで、出歩くにしてももう少し陽が落ちてからにしないと」


まるで父親のような口ぶりのセイに、ユリアが思わず笑みを零す。


それに気付いたセイが、じとりとした目で見つめてきた。


「ユリア? 私は心配してるんだよ?」
「ふふ、分かりました。これからは気をつけます」
「よし。いい子だね」


そう言って頭を撫でる姿はいつもの優しいセイだ。



・・・だから。


きっと、気のせい。

さっき頭に浮かんだ光景は、きっと。



「・・・ユリア? 行こう」
「・・・ええ」


二人はそっと手をつないで歩き出す。


「ユリア? どうかした?」
「・・・なんでもないわ」


だって、そんな筈ないもの。


セイがあまりに素敵で優しくて、王子さまみたいに格好いいから、だから。


だから光を反射する金色の髪に錯覚したの。

ただそれだけ。

そう、それだけなの。


きっと、口にしたら笑われてしまう。


私の家の隣に住んでいるセイが。


そう、セイが冠を被っている様に見えたなんて。


そんなことを言ったら、きっと。


あり得ないよって、きっとセイは笑うわ。




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