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最後の確認

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「・・・済まなかったな、突然。王都からは距離がありすぎて、知らせを出すよりも来る方が早いものだから」


フードを外し、輝く金髪を顕にした壮年の男性は、開口一番に、しかし大して悪びれもせずにそう告げた。


それに対して、セイは呆れたように軽く肩を竦める。


「転移魔法陣をあまり頻繁に使うとストックがなくなってしまいますよ。いくらアルパクシャドが、あの時大量に作ってくれたものが残っていると言っても」

「父上を許してあげて下さい、兄上。もうすぐ約束の二年になるので、兄上の意思を自ら確認したいと、そう仰って」


もう一人のフードを被っていた少年は、父や兄と同じ輝く金髪を覗かせた。


まだ声は高いまま。

だが二年前よりも格段に身長が伸びた。


アーサフィルドも、今は王太子として政務にも関わり始めていた。


もとより落ち着いた雰囲気ではあったが、王族の重責を肩に背負う物としての風格が表れつつある弟は、軽く肩を竦めた。


「かくいう僕も、兄上に会いたくて仕方なかった人の一人ですけど」
「・・・アーサー」
「こうして魔法陣を使って、たまにお忍びで会うくらいしか出来ないのです。しかももうすぐ兄上は公式に僕の兄ではなくなってしまう・・・このくらいの我が儘は大目に見て下さい」


柔らかい笑みを浮かべつつも、その瞳は寂しさが宿っている。

もとより、父王も弟王子も、カルセイランがこの村でユリアティエルと共に過ごすために沢山の無理を聞いてくれたのだ。


隣国との政略結婚もしかりだ。

王太子としてアーサフィルドが受けてくれている。


王族で、しかも王位継承権を第一位に持ちながら、こうして辺境の地で平民に身をやつしていられる事こそ、あり得ないというのに。


「・・・すまない」


卑怯だと知りつつ、謝罪の言葉を述べた。


ただ愛する人の側にいたいと、望まれてもいないのに勝手にそう願って、生まれながらに負っていた立場と責務を投げ捨てた。


もし記憶を失っていなければ、きっとユリアティエルは今の自分を見て怒るだろう。

いや、失望の方が正しいだろうか。


王族としての責務より、個人としての願いを優先させたのだから。


だが、それでも。


それでも私は、君に償いがしたいのだ。


国のためにその身にあるすべてを犠牲にした君を、ただ私が恋した相手だというだけで狙われた君を。


一生をかけてでも償いたかった。


・・・記憶がない今、償いという言葉自体が彼女にとって無意味だとは分かっていても。


唇を噛み、俯いたカルセイランに、王は労わりの言葉をかける。


「・・・お前が謝ることではない。カルセイラン、お前はあの女の捻れた執着と真っ向から闘ったではないか」
「そうです、兄上。今こうしてこの国の皆が平和に暮らせるのも、兄上やユリアティエルさまの献身があったからこそなのです・・・あの時、僕は何も出来なかった。ただ皆から守られていただけでした。ですから、どうか」


アーサフィルドはそっとカルセイランの手を握った。


「どうか、僕にも何かをさせてください。兄上のために・・・ユリアティエルさまのために」


カルセイランもまた、弟の手を握り返す。


「・・・ありがとう、アーサー。私はお前に何もかもを背負わせてしまったのに」


アーサーは首を横に振った。


「何もかもではありません。あの女がもたらそうとした災厄は兄上たちのお陰で背負わずに済みました。今の王国で王太子として立つのは、兄上がそうされていた時よりも難しくはありません」


それに父王が言葉を加える。


「大丈夫だ、カルセイラン。アーサーは立派にやってくれている。ミネルヴァリハとの縁談も、彼方が薦める第三王女と年齢が釣り合うのはアーサーの方だと分かった事だし。この子が王として成る時には、これ迄にない程の平和と繁栄があるだろう」


父王の言葉に、カルセイランは深く頷いた。


「この子ならば当然です・・・きっと立派な王になる」


王もまた、それに同意を返す。


それから、この訪問の本当の目的であった問いを王は口にした。

どうしても、直接に訪ねて確認したかった問いを。


「カルセイラン。最後の確認でここに来た。かねてより話し合っていた通り、一週間後に発表するつもりでいるが・・・お前はそれで良いか?」
「ええ」


カルセイランは静かに、穏やかに答えた。


「どうか私の死を・・・怪我で療養中の前王太子、カルセイラン・ドウ・ダイラ・ガゼルハイノンは、治療も虚しく命を落とした、と王国全土に触れをお出しください」



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