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煌めく光
しおりを挟む突然の光が、そこに煌めいた。
それは、アルパクシャドから渡された転移受諾門の紋様が描かれた三枚の紙が貼られた場所からだった。
それが意味することはただ一つ。
アルパクシャドが作成した転移魔法陣の紙を持つ者、あるいはアルパクシャド自身が術を行使して送り出した者が来たということ。
さて、現れるのは誰なのか。
煌めく眩い光に眼を細めながら、カサンドロスは考えた。
カサンドロスは、山脈を挟む二つの領地から私兵団が編成されこの村を目指しているという情報をいち早く掴んでいた。
今日でヴァルハリラの契約の期限まではあと4日となる。
ここは広大な山脈の中の小さな村。
地図にも載っていない、カサンドロスが新しく開拓した村だ。
見つけ出すのは至難の業だろう。
だが不可能とは言い切れない。
人の出入りがなかった訳ではない。
建設には、様々な職業の者たちが関わっていた。
たとえそれをカサンドロスの力で最小限に留めたとして、現在防御の魔道具を付けておらず、しかもこの場所について知っている者はいないとは言えなかった。
もし、それらの者たちが一人でも向こうの手に渡っていたら。
・・・領主からの出撃命令が出されて既に3日。
カサンドロスは頭の中で日付を計算する。
遅く見積もれば領境に差し掛かったところか、だが早ければ既に山脈に踏み入ったかもしれない。
建物に入り切らず、山のひと所で待機させている騎士たちもいた。
出来れば回収したかったが、さてどうするか。
「・・・足りないものが多すぎるな」
ぽつりと呟きが溢れた。
闘える騎士たちがいるのに、魔道具の数が足りなくて一つの建物の中に押し込めておくしかない。
村にいる非戦闘要員から腕輪を提供してもらうか。建物内に待機するのは戦えない者だけでいい。
だがそうやってもまだ。
もうあと30は欲しいところだが。
カサンドロスは溜息を吐いた。
「あとは運に任せるしかない。期限までにこの場所が見つからない事に賭けるしか」
いや、もし見つかったとして、それが最後の一日であればもしかして。
「・・・総力戦で当たれば」
被害は相当になるだろうが、それでも。
そんな事を考えていた時だった。
村の東から光が溢れ出した。
「な・・・?」
カサンドロスは眼を凝らす。
あの場所は。
思わず浮かんだ微かな希望を胸に、カサンドロスは地面を蹴る。
同じく光を見たのだろう。
別方向からノヴァイアスが駆けてきた。
その向こうからは、カサンドロスの私兵たちや騎士たちも。
互いに頷きを返し合う。
大丈夫だ。敵ではない。
敵ではないが、今さらこんな死地に飛んできてくれる奇特な人物は誰だろう。
もしや酔狂な従兄弟だろうか。
いやそれとも北方から来た術師か。
どちらにせよ、術師ならば少しは軍勢を押し戻せるかもしれん。
撤退させるのは無理だとしても。
期限までユリアティエルを守れれば。それで。
一足先にカサンドロスが、少し遅れてノヴァイアスが到着した。
その向こうには、リュクスの姿も見える。
そうしてわらわらと人が集まり、皆の視線は自然に眩い光へと向けられた。
やがて光は一際眩しくなり、そして。
爆けるように消えて。
「・・・っ!」
その場にいた者たちは皆、息を呑んだ。
「ど、うして、貴方が・・・」
あり得ない。
目の前に立つ人物が、本物である筈がない。
あってはならない。
「王太子殿下・・・何故、ここに・・・」
絞り出すような掠れた声で問うた。
「何故、だって?」
魔法陣の中から現れた人物がゆっくりと立ち上がる。
「私の民が、私の民を攻めようというのだ。私が止めないで何とする」
緊縛した空気に似つかわしくない柔らかい笑みを浮かべ、その手に大きな荷物を抱えた王太子カルセイランが、そこに立っていた。
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