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誘導を
しおりを挟む「民衆まで・・・」
リュクスが呆然と呟く。
「だが、ここはそう簡単に見つかる場所ではない。いくら大挙して探しまわろうとて、結局は・・・」
最悪の予想を口にしようとしたリュクスの言葉を、ノヴァイアスが引き継いだ。
「ええ。結局は、その大半が山中にて遭難し、命を失って終わりでしょう。訓練を受けた騎士たちでさえ、ここに通ずる道を発見出来たのはリュクス殿を含め僅か数名でしたから」
その言葉に納得しながらも、ふと違和感を覚え、リュクスは顔を上げる。
「・・・待て。それでは五名の部下たちに魔道具を渡すのは、暴徒化した民衆を制圧する為ではないと言うのか?」
ノヴァイアスは頷いた。
「寧ろ逆です。リュクス殿およびその部下五名の方々には、我らに加わって頂いた上で、山中を彷徨う者たちを安全に森の外へと誘導して頂きたいのです」
「誘導・・・。ここではなく、森の外へ?」
ここで、ユリアティエルが少し気まずそうに説明に加わった。
「ここの建物は、外からの侵入者に備えて特別に準備したそうです。つまり、ここ以外の家は、術を阻む仕掛けを施してありません。そして、この建物には既に、その・・・相当数の騎士さまが・・・」
「・・・成程。正気に返らせる手段がない以上、こちらに連れて来るのは危険でしかありませんね」
「ええ。我々としては、ある時期まで上手く躱せればそれで良い、そう考えています」
納得したリュクスに、ノヴァイアスは言葉を継いだ。
「そしてもう一つ。実を言いますと、リュクス殿が率いてきた騎士たち全員を保護出来てはいないと思われます。彼らに山中で遭遇した場合を考え、騎士団からも数名同行して頂きたいのです。その方が無用の争いを避けられるかと」
「心遣い痛み入る。では今すぐ、その五名を選抜しよう」
リュクスはノヴァイアスから魔道具を受け取ると直ぐに席を立ち、部下たちが休む部屋へと向かった。
それを見送った後、ノヴァイアスはユリアティエルの方へと顔を向けた。
「先ほど、カサンドロスさまが伝書鳥を放ちました。王都におられるカルセイランさま方にも、直に知らせが届くでしょう」
ユリアティエルは僅かに笑み、頷いた。
だがすぐに、その表情は不安で曇る。
「・・・山に入ったという村人たちが酷い怪我をしていなければ良いのですが」
ノヴァイアスは軽く思案をする。
「・・・シャイラックのいる部隊にさえ遭遇しなければ大丈夫ではないでしょうか」
ノヴァイアスにしてみれば至って真面目な返答だったのだが、ユリアティエルにとっては少しばかり面白く感じたようだ。
くす、と笑って「そうですね」と答えた。
その笑顔に眩しげに目を細めたノヴァイアスは、ふいと目を逸らし窓の外を見つめる。
「・・・ユリアティエルさま。アビエルの月になってから、今日で何日経ったでしょうか」
ユリアティエルは頬に手を当て、僅かに考える。
「九日ですわ。今日はアビエルの第九日です」
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