【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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想定外

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「・・・妃よ、君は自分が何を言っているのか分かっているのか?」


カルセイランは努めて冷静を装ってそう返した。


ヴァルハリラの言葉の意図が分からない以上、迂闊に踏み込んでその罠に嵌りたくはない。


引くべきか、進むべきか、策を講じるとしてもどうするのが正解なのか。

ヴァルハリラの言葉が想定外すぎて、今はどう答えるべきなのか、カルセイランには予測がつけられないでいた。


ヴァルハリラはカルセイランの妻である王太子妃の座を得る為だけに、国全体を巻き込んでユリアティエルを追い落とした女だ。

今もなおユリアティエルを憎み続け、討伐隊まで放つ程に執着を見せる程の。


そんな虚栄心と利己心の塊のような女が、何故。


何故、急に別の女を自分にあてがおうとするのか。


矛盾としか取れない行動に、カルセイランは戸惑いを隠せなかった。


これは・・・どう動く?

どう答えるのが正解なんだ?


一体ヴァルハリラは、何を企んでいる?


カルセイランの額に、じわりと汗が滲む。


そんなカルセイランの焦りなど全く意に解さない二対の瞳が、真っ直ぐにカルセイランを見つめ、返答を待っている。


「さあ、カルセイランさま。どうぞ貴方からの温情をこの娘にお与え下さいませ」


ヴァルハリラは侍女の背中を押し、更に一歩、前に進ませる。


何の感情も映さないその侍女は、ただヴァルハリラの言うがまま、頭を下げている。


「・・・私は君以外と閨を共にするつもりはない」


僅かな時間に考えを巡らせた結果、カルセイランはそう返答した。


取り敢えず猶予が欲しかった。

予想を超えたヴァルハリラの行動の意図を考えるための。


「・・・あら、残念ですわ。この娘はお気に召されませんでしたのね」


意外にも、ヴァルハリラの反応はあっさりとしたものだった。


それに、カルセイランは密かに安堵の息を吐く。


だが、すぐに次の言葉に驚愕することになる。


「仕方ありませんわね。では、次は別の娘を見繕っておきますわ」
「・・・は?」


驚愕で目を見開いたカルセイランに向かって、ヴァルハリラはにっこりと微笑んだ。


「また明日、そうですね、今度は違う娘を連れてきますわ。次はお気に召すといいのですけれど」
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