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計画通り
しおりを挟むそれまで何もなかったところに新しく村を一つ作る。
誰も知らない、普段なら人が分け入ることもない、山の山、その奥のまた奥に。
そこには確かに、その場所を誰にも知られたくないというカサンドロスの思惑が透けていたのだが、事ここに来て、それが想定した以上の効果を発揮した。
差し向けられた騎士たちが、なかなかその村が見つけられないでいるのだ。
周囲に何か目印になるものが存在する訳でもない。
目指す村そのものの規模も決して大きくはない。
更に指示された場所の正確な座標も教えられてはいない。
もとより、大木に辺りを囲まれ視界も限られる中、ただでさえ方向感覚が乱されやすい場所だった。
山中を走っても、走っても、騎士たちが目にするのは、ただひたすらに高くそびえ立つ木々の幹だけ。
結果、彼らは行っては戻り、探しては迷い、山中をただ彷徨い続けた。
迷いなく着けるとしたら約10日の距離の筈だった。
だが既に二週間が経過した今も、彼らは山中をただただ彷徨っている。
それでも、ヴァルハリラの『傀儡』の術中にある彼らに士気が衰えることはない。
兵糧が尽きかけた今も、そして身体が疲労の限界に達していても、闘志だけは依然として沸き立ち、猛り狂ったままだった。
ここで騎士団長は一つの決定を下す。
一度、山中から麓の町に下り、食料を確保すると共に、この辺りの地理に詳しい者を案内人として雇う事を。
出来るならば、こちらの兵力を温存するためにも、自衛出来る者が望ましいと。
そうして彼らは麓に下り、ある町へと辿り着いた。
だがそこで町の者たちに尋ねても、誰一人その奥にあるとされた村の存在を知らない。
皆が一様に、この場所こそが最端の町であり、山々の先には国境まで何もないと告げるのだ。
騎士団長は途方にくれる。
ここで、はいそうですかと帰る訳にはいかない。
これは敬愛する王太子妃殿下から受けた直々の命令なのだ。
その時、団長が泊まっていた部屋に一人の騎士が駆け込んで来た。手がかりを見つけたと言って。
「正確な場所の特定は難航していますが、周期的に山に入る者たちを見たとの証言がありました。皆、同じ方角へ向かうそうです」
「・・・それだ」
団長は急いで支度を整えると、その証言をした者たちに会いに行った。
そしてその翌日、騎士たちはその町を出た。
「案内しろと言われましても・・・ワシらは山に入ってく人影を見かけたってだけなんですが・・・」
恐る恐る口を開いた老人に、団長は手を左右に振る。
「それで構わん。分かるところまででいい。証言した者たちの中には、木こりもいただろう?」
「は、はい。それはオレですが・・・」
「お前がその人影とやらを見かけたという場所まで案内してくれればそれでいい。そこから先は我々だけで進む。この辺りは不案内なのでな。せめてそこまでは案内してもらいたいのだ」
「はあ、分かりました」
男たちは頷くと、山の中へと足を踏み入れ、騎士たちを先導して行った。
「とんだ時間を喰ってしまったな。せめてこの先は、すぐにその逆賊を見つけて成敗出来るといいが・・・」
騎士団長は、迅る気持ちを抑えてそう呟いた。
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