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本領発揮
しおりを挟むカルセイランの指示を受け、ノヴァイアスはまず伝書鳥を飛ばし、カサンドロスに状況を知らせた。
そしてジークヴァインが王城内、アウンゼンが騎士団内の動きを探る。
カルセイランは王国の地図を広げ、ノヴァイアスにユリアティエルがいる場所を尋ねていた。
「印はつけるな。指で示すだけでいい」
そうしてノヴァイアスが示した場所は、ガゼルハイノン王国とミネルヴァリハ王国との国境付近、地図上では町も集落の一つも記載されていない山間部だった。
「カサンドロスさまがお作りになった村です」
「こんな辺境の地に・・・」
カサンドロスの周到さに、カルセイランは感嘆にも似た声を上げた。
「ユリアティエルさま以外の住人は、全てカサンドロスさまに仕える私兵たちとその家族、もしくは配下の商人たちで構成されています。この村への入り口は一つのみ。また通ずる道も一本しかありませんので、近づく者がいれば遠くからでも直ぐに分かるようになっています」
カルセイランは、それに頷きながら確認を取る。
「その住人たちがヴァルハリラの術に操られる可能性は?」
「全員にあの魔道具を付けさせてあります。ただその数に限界があった為、村へは限られた人数の配属となったようですが」
暫く地図を見ていたカルセイランが、ぽつりと呟いた。
「・・・この場所なら、どれだけ速く馬を走らせても10日はかかるな」
「そうですね。サルトゥリアヌスが手を出さないという事であれば、それより早くあちら方に襲われる心配はありません。所詮は人の成せる速度ですので」
そこに、ノックと共に「失礼します」とアウンゼンが、それからジークヴァインが入ってきた。
「どこにも動きは見られませんでした」
その報告に、カルセイランが思案する。
そして、ふと思いついたように顔を上げた。
「ノヴァイアス。以前、お前はサルトゥリアヌスが意図的にユリアティエルを保護していた時期があったと言っていたな」
その話は初めて聞くのだろう、ジークヴァインやアウンゼンたちの目が大きく開かれる。
「・・・奴隷商に売る前の時期のことでしょうか。期間にして僅か10日ほどだったそうですが」
「そして奴は、その後も度々ユリアティエルや私たちを援護するような動きを見せている。先ほどアウンゼンに情報を漏らしたのもその一つではないかと思う」
三人の注意はカルセイランに向けられ、その言葉の続きを待った。
「サルトゥリアヌスは己の主人とやらの希望に沿って動いているのだろうが、そうであるならば今回の事も我々の方に先に話を持ってきた可能性が高い」
カルセイランはアウンゼンに問いかける。
「サルトゥリアヌスは、ユリアティエルのいる場所を『報告した』とは言わなかったのではないか?」
アウンゼンは少し考え込み、会話の内容を思い出しながら頷いた。
「確かに、言われてみればその通りですが・・・少々希望的観測に過ぎるのではないでしょうか」
カルセイランは少し困ったような笑みを浮かべながら肩を竦めた。
「サルトゥリアヌスは言葉遊びが好きな男だ。いつも回りくどい言い方をしては人を困惑させ煙に巻く」
「では、殿下のお考え通りであれば」
「時間を稼げるかもしれない。恐らく動きがあるのはこれからだ」
その時、再びノックの音が響き、アルパクシャドが入室する。
手には魔法陣が記された紙の束を持っていた。
「殿下、ご用意できました」
「ああ、ありがとう。急な頼み事をして悪かった」
「とんでもありません。私たちはそのためにこの国に来たのですから」
力強い励ましにカルセイランは笑みで応え、それからその場にいる四人に向かって口を開いた。
「転移の魔法陣を書けるだけ書いてもらった。各自、複数枚所持するように」
そう言って、皆の前にその紙束を差し出した。
「ヴァルハリラが動かせる人間と比べれば、私たちは数において遥かに劣る。連絡と情報交換は決して欠かすな。危ないと思った時は直ぐに退き、機を待つように。安易に命を捨てることなど決してあってはならない」
一拍おいて、言葉を継いだ。
「あの女が終わりを迎える日を、私たち全員で見届けるのだ」
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