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介入の範疇
しおりを挟む「・・・どういうこと?」
ヴァルハリラの声は低く、険しかった。
「ですから、ユリアティエルの居場所特定までが私の出来る範囲ですと申し上げました。始末を、という事であれば別に対価をいただきます。まあ、今の貴女にそれが払えるとも思えませんが」
「・・・払えないなんて、何を根拠にそんな・・・」
「根拠、ですか?」
サルトゥリアヌスの目が、すっと細められる。
「では、どんな対価を差し出せると言うのでしょう?」
ヴァルハリラはぐっと言葉に詰まった。
もとより、勢いで返事しただけだ。何も考えてなどいない。
「それは・・・」
「よろしいですか、ヴァルハリラさま」
サルトゥリアヌスは、ヴァルハリラの言葉を皆まで言わせない。
「ご自身に属するものでなければ対価として差し出す事は出来ない、その事は既にご説明しました」
「・・・分かってるわよ」
それでも意見を翻さない様子に、サルトゥリアヌスは嘆息しながら説明を続けた。
「貴女のご家族は、既にこの5年分の命の対価として支払い済み。そして貸し与えた力の対価は、貴女の願いが叶って名実共に王太子の妻と成った時に、この国民をもって支払うと仰いました。・・・他に、今の貴女は何を我が主に対価として差し出せると?」
ヴァルハリラを見据える目は、いつもと違って剣呑さを帯びている。
人間に対してはほぼ万能と言える程の圧倒的支配力を借り受けたヴァルハリラだったが、それがこの男に通用する筈もない事は、流石にヴァルハリラでも理解している。
「・・・分かったわよ。じゃあ探すだけでいいわ。あの女がどこに売られて今どこにいるのか、それを調べてきてちょうだい。それならタダでしょ? あとは私が別に手配するから」
これで話は終わりかと思いきや、サルトゥリアヌスは再び口を開いた。
「そうすれば、王太子殿下のお気持ちが貴女に向くと、そうお思いなのですか?」
「・・・気持ちが、向く?」
ヴァルハリラは呆れたような顔をすると、ぷっと吹き出した。
「気持ちが向くとか向かないとか、そんなのどうでもいい事じゃない」
その答えにサルトゥリアヌスの片眉が僅かに上がった。
「・・・どうでも、いいと?」
「ええ。どうでもいいわ。別にカルセイランさまがどう思っていようとわたくしには何の関係もないし、何の役にもたたない。ただ、精を注げないのは困ってるけどね。そういう意味であの女が目障りなだけ」
ヴァルハリラの口が歪み、大きく開いた。
「あの女がいるから、カルセイランさまの気が散ってわたくしに精が注げないのかもしれないじゃない? もう邪魔なの、面倒なの、存在そのものが不愉快で仕方ないの。あの女は生きてちゃいけないのよ」
「・・・」
「一度は見逃してあげようかとも思ったけど、やっぱりアレはこの世界に要らないわ。アレがこの世から消えれば、カルセイランさまに更に強く『傀儡』を重ねがけすればどうにかなるんじゃないかしら」
だからお願いね、と嬉しそうに笑う。
「・・・分かりました。では失礼します」
そうしてサルトゥリアヌスを見送った後、ヴァルハリラはドサリとソファに座り込んだ。
「さて・・・いつまでに探して来てくれるかしら」
少し予定外の事が起きたけど、きっと大丈夫、上手くいく。
サルトゥリアヌスが初めてヴァルハリラの前に現れ、彼を通して主とやらから力を借り受けて、やっとここまで来たのだ。
最初に5年と提示された時は、それだけあれは十分だと、寧ろ長すぎるくらいだと思っていた。
だが、ヴァルハリラが思っていたよりも貸与された力を使いこなすのには時間がかかった。
ひとりを支配しても、他の者に気取られては疑念を持たれる。
周囲からの意識の齟齬なく力を行使出来る様になるまで、数か月かかった。
それからダスダイダン領全体に『傀儡』の術を浸透させるまでに一年。
対面や物品を通してではなく、気を通じて術を施せる事に気づき、王国全体にその力を行き渡らせる迄には更に二年が経過していた。
残りあと二年と言う段になって、漸く国王を術下に置き、あの女をカルセイランの婚約者の座から引きずり下ろす事が出来たのだ。
・・・カルセイランさまが、予想以上に抵抗したけれどね。
あの時も・・・今も。
それでもまだ、時間に余裕があるとたかを括っていた。
それがこの様だ。
ヴァルハリラの口が弧を描く。
邪魔なものは全て潰してやるわ。
要らないものは全部踏みにじってやる。
これまでずっと、そうしてきた様に。
跡形もなく、粉々に。
「ふっ・・・くくっ・・・あははっ」
笑いが止まらない。
居場所が分かったら騎士たちでも送り込んでやればいいかしら。
そうすればきっと、カルセイランさまの未練も消えるでしょう。
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