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魔法陣

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「・・・それで、あちらにはどうやって受諾の意を伝える事になっているのだ?」

トルストフからの問いに、ジークヴァインが「こちらを」と懐から一枚の紙を差し出した。

「転移の魔法陣だそうです」

トルストフがそれを受け取り、カルセイランもそれを覗き込む。

「私が彼の国を出立してから二週間後の午前0時までが刻限となっています。それまでにこの魔法陣にある操作を行えば、それを受託の意とみなし、あちらより術師が転移により送られて来るそうです」
「・・・便利なものだな」

感心したように王が呟いた。

「アデルハイデン卿。卿がミネルヴァリハを発ってから何日だ?」

カルセイランからの問いに、ジークヴァインは即答する。

「今日で十一日となります」
「では期限まであと三日か。父上、よろしければすぐにでも魔法陣を作動させたいのですが」
「許可しよう。だがくれぐれも悟られぬよう慎重に動くのだぞ。術師の存在も含め、決してあの女に気取られてはならぬ」

王の言葉に、ジークヴァインは低く頭を垂れた。

カルセイランはジークヴァインへと視線を向ける。

「卿。戻って来たばかりで済まない。今夜は私の部屋でゆっくり休むといい」
「恐れ多いことでございます」
「恐らく今頃はノヴァイアスたちも来ているだろう。彼らにも今のことを伝えてもらいたい」







「殿下・・・っ」

先に部屋に来ていたらしいノヴァイアスとカサンドロスは、隠し通路の扉から姿を現したカルセイランを見て安堵の表情を浮かべた。

「部屋におられないのでどうされたかと心配しておりました」

そして、カルセイランの後ろにジークヴァインの姿を認め、無事に帰国したことを理解した。

だが、そんな喜びの表情も、ミネルヴァリハからの要求事項を耳にして陰りを見せる。

「王太子とミネルヴァリハの王女との婚約、ですか・・・」
「ああ。これから受諾の意を伝えるため、転移魔法陣を有効化させるつもりだ」

淡々とこれから先のことについて話すカルセイランだが、ノヴァイアスの表情は冴えない。

「カルセイランさま・・・」
「言うな、ノヴァイアス」

口を開きかけたノヴァイアスを、カルセイランが遮る。

「王太子として、成さねばならぬ事を成すだけだ」
「・・・はい」
「王太子殿下」

口を閉ざしたノヴァイアスに代わり、カルセイランに呼びかけたのはカサンドロスだ。

「私の記憶では、ミネルヴァリハ国には三人の王女がおられた筈。どちらのお方と縁を結ばれるのですか?」

流石、情報を何よりも第一とする大商人カサンドロスだ。
諸国家の内情も把握済みらしい。

そう感心しながらカルセイランは答える。

「いずれの方かは明記されていない。年の釣り合いから考えて、第一か第二王女になると思うが」
「成程・・・わかりました」

ジークヴァインが感心した様に口を開いた。

「カサンドロス殿は、各国の王族に関しても詳しいのだな」
「いえ、これは偶々と言った方がいいでしょう」

カサンドロスは事もなげに言った。

「私の親族がミネルヴァリハの王族に仕えていますので」

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