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特使の帰還
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「ご苦労だった、アデルハイデン卿。無事に帰って来てくれて嬉しいよ」
「恐れ入ります」
ジークヴァイン・アデルハイデンが隠し通路から現れると、カルセイランは彼の手を握り、労いの言葉をかけた。
「早速だが、一緒に来てもらいたい」
「何処へですか?」
「ついて来れば分かる。出来れば、この道も覚えてくれ。こっちだ」
カルセイランは、たった今ジークヴァインが出てきたばかりの隠し通路への扉をくぐり、闇へと消えて行った。慌ててジークヴァインも後を追う。
「こうも頻繁に使うと、もはや王族専用でも何でもないがな。・・・だがこのような時に使わずして何の為のものか、とそう思う」
先を歩くカルセイランから、そんな呟きが漏れた。
「ここだ。入るぞ」
ギ・・・と扉が開き、向こう側から光が漏れる。
眩しさに思わず目を眇めると、ここ一年以上、久しく耳にすることのなかった声が聞こえてきた。
「・・・ジークヴァインか。久しいな」
「陛下・・・」
それはガゼルハイノン王国の王であり、カルセイランの父であるトルストフの声だった。
「さて、ジークヴァイン。事情はカルセイランより聞いている。・・・苦労をさせた」
「いえ・・・。ですが陛下はどうやってあの女の術から・・・?」
「なに、息子に倣っただけのこと」
そう言って、トルストフは腕を掲げた。
「まさか・・・カルセイランさまの様に、御身に傷をつけられたのですか・・・?」
「自らしたことだ。誰も咎められまい?」
す、と腕を下ろす。
「大丈夫だ。これまでのようにあの女の言うことを聞いておけばいいのだろう?」
「・・・陛下」
「なぁに。あと数カ月の辛抱だ。・・・それでジークヴァイン。特使の件はどうなった?」
「はっ。こちらの状況は伝えました。そして助力を約束してくださいましたが・・・その、三つほど条件が」
言い淀んだ様子を見て、あまり望ましくない条件がつけられたのだろうと二人は察したようだ。
「構わないよ、アデルハイデン卿。先方の要求が何であっても、こちらは受け入れるつもりでいる」
カルセイランの静かな、しかし決意を秘めた声に、ジークヴァインがしかし、と顔を上げる。
「いいんだ。今はヴァルハリラの策略を破ることを第一に考えないといけない。そのためにはミネルヴァリハからの助力が不可欠なんだ」
「殿下・・・」
王族としての決意をその目に見たジークヴァインは、懐から書簡を取り出し、二人の前に差し出した。
それを広げ、内容を確認する。
三つ目の条件まで進んだ時、二人の視線がそこで止まった。
「ジークヴァイン」
「はい」
トルストフの声が響く。
「アータザークセス王にはご息女が何人おったか覚えておるか?」
「私の記憶では、確か三人だったと・・・ここ一年、二年の事に関しては定かではありませんが」
「そうか、そうであろうな。いや、すまぬ」
「いえ」
他国からの干渉を嫌ったヴァルハリラにより鎖国に近い政策が取られていた為、ここ数年の諸国家事情に関してはほぼ何の情報も持っていない。
そしてそれは、その間ずっと独房に入れられていたジークヴァインにとっては尚更だった。
「恐らく第一王女が今年で17、第二王女が13、第三王女が8つになるのか・・・?」
記憶を辿り、トルストフが呟く。
「結構。受けましょう」
「殿下・・・」
「良いのか、カルセイラン」
カルセイランは落ち着いていた。
「ことが終わった暁には、真の妃を娶らねばなりません。・・・そしてそこにユリアティエルがいる可能性はないのですから」
静かな、穏やかな声だった。
「そうであるなら、せめて国のためになる相手を選びましょう」
~~~~~
このたび、新連載を始めました。
基本、ほのぼの溺愛ストーリー。(たぶん)
タイトルは『彼女を恋愛脳にする方法』です。
とある事情で恋に臆病になったひとりの令嬢を溺愛する婚約者兼義弟くんのお話。
前向きに頑張る健気な義弟くんが主人公です。
「恐れ入ります」
ジークヴァイン・アデルハイデンが隠し通路から現れると、カルセイランは彼の手を握り、労いの言葉をかけた。
「早速だが、一緒に来てもらいたい」
「何処へですか?」
「ついて来れば分かる。出来れば、この道も覚えてくれ。こっちだ」
カルセイランは、たった今ジークヴァインが出てきたばかりの隠し通路への扉をくぐり、闇へと消えて行った。慌ててジークヴァインも後を追う。
「こうも頻繁に使うと、もはや王族専用でも何でもないがな。・・・だがこのような時に使わずして何の為のものか、とそう思う」
先を歩くカルセイランから、そんな呟きが漏れた。
「ここだ。入るぞ」
ギ・・・と扉が開き、向こう側から光が漏れる。
眩しさに思わず目を眇めると、ここ一年以上、久しく耳にすることのなかった声が聞こえてきた。
「・・・ジークヴァインか。久しいな」
「陛下・・・」
それはガゼルハイノン王国の王であり、カルセイランの父であるトルストフの声だった。
「さて、ジークヴァイン。事情はカルセイランより聞いている。・・・苦労をさせた」
「いえ・・・。ですが陛下はどうやってあの女の術から・・・?」
「なに、息子に倣っただけのこと」
そう言って、トルストフは腕を掲げた。
「まさか・・・カルセイランさまの様に、御身に傷をつけられたのですか・・・?」
「自らしたことだ。誰も咎められまい?」
す、と腕を下ろす。
「大丈夫だ。これまでのようにあの女の言うことを聞いておけばいいのだろう?」
「・・・陛下」
「なぁに。あと数カ月の辛抱だ。・・・それでジークヴァイン。特使の件はどうなった?」
「はっ。こちらの状況は伝えました。そして助力を約束してくださいましたが・・・その、三つほど条件が」
言い淀んだ様子を見て、あまり望ましくない条件がつけられたのだろうと二人は察したようだ。
「構わないよ、アデルハイデン卿。先方の要求が何であっても、こちらは受け入れるつもりでいる」
カルセイランの静かな、しかし決意を秘めた声に、ジークヴァインがしかし、と顔を上げる。
「いいんだ。今はヴァルハリラの策略を破ることを第一に考えないといけない。そのためにはミネルヴァリハからの助力が不可欠なんだ」
「殿下・・・」
王族としての決意をその目に見たジークヴァインは、懐から書簡を取り出し、二人の前に差し出した。
それを広げ、内容を確認する。
三つ目の条件まで進んだ時、二人の視線がそこで止まった。
「ジークヴァイン」
「はい」
トルストフの声が響く。
「アータザークセス王にはご息女が何人おったか覚えておるか?」
「私の記憶では、確か三人だったと・・・ここ一年、二年の事に関しては定かではありませんが」
「そうか、そうであろうな。いや、すまぬ」
「いえ」
他国からの干渉を嫌ったヴァルハリラにより鎖国に近い政策が取られていた為、ここ数年の諸国家事情に関してはほぼ何の情報も持っていない。
そしてそれは、その間ずっと独房に入れられていたジークヴァインにとっては尚更だった。
「恐らく第一王女が今年で17、第二王女が13、第三王女が8つになるのか・・・?」
記憶を辿り、トルストフが呟く。
「結構。受けましょう」
「殿下・・・」
「良いのか、カルセイラン」
カルセイランは落ち着いていた。
「ことが終わった暁には、真の妃を娶らねばなりません。・・・そしてそこにユリアティエルがいる可能性はないのですから」
静かな、穏やかな声だった。
「そうであるなら、せめて国のためになる相手を選びましょう」
~~~~~
このたび、新連載を始めました。
基本、ほのぼの溺愛ストーリー。(たぶん)
タイトルは『彼女を恋愛脳にする方法』です。
とある事情で恋に臆病になったひとりの令嬢を溺愛する婚約者兼義弟くんのお話。
前向きに頑張る健気な義弟くんが主人公です。
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