【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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警告をひとつ

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「私はなかなか微妙な立ち位置におりましてね」

困った事ですが、と続けながらも、薄い笑みはサルトゥリアヌスの顔に貼り付けたままだ。

「あの女を担当するよう我が主から申しつけられていますので、契約者であるあの女から何か言いつけられれば、その通りに行わねばならない、契約者の不利益となる行為をしてはいけないのですよ・・・本来ならば」

そう言って首を傾けると、髪がひと筋はらりと目にかかる。

「ですから、あまり多くのことを私に望まない方が賢明です。既に随分と貴方がたを贔屓してしまいましたからね・・・まぁ、我が主は喜びこそすれ、お怒りにはならないでしょうが」

それから、カルセイランの前にすっと人差し指を立てた。

「とはいえ、貴方がたは私のお気に入りですからね。今日のところはあとひとつ、お伝えしておくとしましょう」

サルトゥリアヌスの顔から、薄い笑みが消える。

この男の真顔は珍しい。

「王太子殿下。貴方はこの事を覚えておかねばなりません。抗うと決意した三月の間、思う通りにいかない事に腹を立てたあの女が、貴方の愛しい存在に再び悪意を向ける可能性があることを」

ひゅっと息を呑む音。
まるで雷で打たれたように、カルセイランは硬直した。

だがサルトゥリアヌスは、それを気にすることなく話を続ける。

「今は注意が逸れていますが、元来、八つ当たりの権化のようなものですからね、アレは」

その言葉に、カルセイランは我に返り、ぐっと拳を握りしめた。

「・・・上手くご自分に注意を引き続けることです・・・最後までずっと、ね」

囁きのように静かな声なのに、脳内に力強く響き渡る。

「・・・期待していますよ。高貴なる我が同士殿」

そう言い残すと、サルトゥリアヌスは去っていった。

そうして中庭に残されたのは、怒りと焦りに打ち震えるカルセイランただひとり。

暫くの間、そのまま立ち尽くすだけだったが、やがて、カルセイランは大きく息を吐く。
何度も、何度も、自らを宥めるように。

・・・落ち着け。
やるべき事は変わらない。

この国の民を守るのだ。
そしてあの女自身を対価としてサルトゥリアヌスの主とやらに取らせてみせる。

心臓の鼓動が早鐘のようだ。
まるで、全身の血が逆流したかのような、激しい、激しい怒りが身を包む。

それにしても、サルトゥリアヌスめ。
実に回りくどい喝の入れ方をする。 

ああ、分かっているさ。
よく分かったとも。

たとえ選択肢が二つあるとしても、選べる道までもが二つある訳ではない。

そうだ。

道は二つではない。
これからもこの先も、望むものは常にひとつ。

ただひとつだけだ。
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