【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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馬鹿らしい話

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ノヴァイアスと別れてから、カサンドロスの一行が館に戻るまでにさらに三日を要した。

その間、移動する時は常にカサンドロスがユリアティエルを馬に乗せていた。

一応、問うてはみるのだ。
カサンドロスとスラヴァとどちらの馬に乗るか、と。

それに困ったような顔をするユリアティエルと、即座に辞退するスラヴァとがいて。
そうして、カサンドロスの馬にユリアティエルが乗ることになる。

一日中、己の腕の中に、ユリアティエルを大事に抱えて運び、夕刻の宿営を張る時分になると、抑えきれない衝動を誤魔化すために近くの町に出かけては女を買う。

カサンドロスは、なんとも馬鹿らしいことをしていると我ながら思っている。
自分がこんな滑稽な男になり下がるとは、夢想だにしなかったから。

一日ユリアティエルを腕の中に抱きながら馬に揺られていると、宿営地で下馬する頃には、彼の一物は欲望を孕んですっかり固くそそり立っている。
流石にユリアティエルはそのことについて何も言いはしないが、きっと、いや確実に気付いているだろう。

それでも、翌朝になれば、また同じようにして自分の馬に乗せようとするのだ。
愚かだと、醜態を晒していると分かっていながら、止められない。

視線を少し落とすだけで目に入る真っ白なうなじと華奢な肩。
さらさらとした美しい髪は、馬の歩みで起こる僅かな風でも柔らかくそよぎ、カサンドロスの腕に胸にと悪戯に触れてくる。

何度、そのうなじに口づけたいと思ったことか。
強引にこちらを向かせて唇を貪りたいと思ったか。
強く、強く抱きしめて、身動きを取れなくしてやりたいと、どれだけ葛藤したことか。

そうして一日の終わりには欲望をたぎらせてどうしようもなくなって、結局は欲を吐き出しに町へと向かうのだ。

なのに、どうしてなのか。いざ買った女を前にすると、己の中にあった熱が急速に冷えていき、一度欲を吐き出せば、それで事足りてしまう。

なんとも不思議で、なんとも愚かしく、なんとも馬鹿馬鹿しい己の行動に思わず乾いた笑いが零れた。

夜道を帰りながら、ふと空を見上げる。

・・・そう言えば、あいつが言っていたな。

ユリアティエルは月だ、と。
そして自分はその光を遮る仄暗い雲だ、と。

ならば私は何だろう。
さながら、遠くで見れば月と触れているかのように映る一本の大木か。
それとも、月がかかる山間か。

・・・いずれにせよ、手が届かない事には変わりがないな。

こんな、如何にも感傷に浸るような考えこそ、およそ自分らしくないのに、本当にどうかしている。

ノヴァイアス、お前は今頃どこを走っているだろうか。

ああ。
お前の事を、馬鹿だ馬鹿だと言い続けてきたというのに。

決して叶うことのない淡い夢を抱き続ける愚か者は、お前ひとりではなかったようだぞ。
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