【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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助かったとはまだ言えない

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何が起こっているの?

ユリアティエルは、自分を取り巻く状況を理解できずにいた。

だって目の前には。

ユリアティエルの目の前では、彼女が想像もしていなかった人物が暴れている。

・・・どうして?
どうしてシャイラックがここに?

両腕を失ったその姿も衝撃的ではあった。
だがそれ以上に、彼がここに、この時に登場する理由が分からなくて。

中でも、最もユリアティエルを困惑させたのはある一つの事実、それは。

・・・扉が破られた時、なぜ私は。

私は・・・ノヴァイアスが来てくれたと思ったのかしら。


シャイラックはナハムを蹴りつけ、罵声を浴びせている。
名も知らぬ男たちは剣を振るい、家の中の物を次々と略奪して行く。
ナハムは泣き喚き、人形だけは壊さないでくれ、奪わないでくれ、と懇願して。

・・・これは何? 一体なんなの?

ここまででも既に理解は追いついていなかった。
もう十分、混乱していたのに。

目まぐるしく変わる状況にも。
自分の思考にも。

・・・もう何も分からなくて。






ユリアティエルは、ナハムによって身体を清められ、それから美しい服を着せられていた。

それから、ナハム自身の手によって髪が結い上げられ、化粧を施される。

そうやって完成した姿を、ナハムは恍惚の表情でうっとりとただ眺めていた。

かなりの時間を眺め続けて、やっと満足したのだろうか、ナハムは漸く口を開いた。

「君のために特別なケースを作ったんだよ。鑑賞用も兼ねた保存ケースだ。ねぇ、こっちの部屋にあるから来て」

誘いの言葉をかけつつも、ナハムはユリアティエルの意思など尊重しない。

だから、返事を待たずに腕を掴んだ。

連れて行かれた先の部屋には、大きな透明の入れ物が、ナハムが言うところの保存ケースが置いてあった。

そのケースの向こうに、何か大きな機械のようなものがあるのは何に使うのだろう。

気にはなるが、はっきりと聞くのは怖かった。
それはきっと、既にその答えに対する予感めいた確信があったから。

彼がここで何をするつもりでいるか、自分の身に何が起こるか、という事を。



「この大きさなら十分入るよね」

・・・何が?

「とっても嬉しいよ。本当の人間で出来た人形なんて僕も生まれて初めて持つからね」

・・・人間で出来た人形って何のこと?

「大丈夫。痛くなんかないからね。まあ、僕はやった事ないけど、前に猫で試した時はうまくいったし。その時も痛そうにも見えなかったしね」

・・・猫で何を試したの?

答えは分かってる。
何も聞かなくても、彼が今からやろうとしていることは。

・・・私はこんなところで死ぬのね。

カルセイランさまにお会い出来ないまま。
ヴァルハリラの陰謀に関わってすらいない、全く別の異常者の手によって。

なんて下らない結末。
なんて惨めな。
なんて意味のない終わり方なの。

どうせ死ぬのならば、貴方の手で殺して欲しかった。

そうすれば。
そうすれば、きっと。
きっと痛くない筈。私は笑って死ねた筈。

それに、きっと貴方も。
貴方も安心して、心おきなく自分を憎めたでしょうから。

なのに、こんな・・・こんな会ったこともない異常者の手にかかったと知ったら、そうよ、知れば貴方はきっと。

・・・きっと貴方は、また泣くわ。
きっと、ずっと泣き続けるわ。

私がこんなところで、無機質な入れ物の中に詰め込まれて死んだと知ったら。

・・・貴方は。

だから。

駄目なの。
私はここで死んでは駄目なの。

お願い、助けて。
助けて、ノヴァイアス。

そう思った時。

扉が蹴破られて、シャイラックたちが乱入したのだ。

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