78 / 183
助かったとはまだ言えない
しおりを挟む
何が起こっているの?
ユリアティエルは、自分を取り巻く状況を理解できずにいた。
だって目の前には。
ユリアティエルの目の前では、彼女が想像もしていなかった人物が暴れている。
・・・どうして?
どうしてシャイラックがここに?
両腕を失ったその姿も衝撃的ではあった。
だがそれ以上に、彼がここに、この時に登場する理由が分からなくて。
中でも、最もユリアティエルを困惑させたのはある一つの事実、それは。
・・・扉が破られた時、なぜ私は。
私は・・・ノヴァイアスが来てくれたと思ったのかしら。
シャイラックはナハムを蹴りつけ、罵声を浴びせている。
名も知らぬ男たちは剣を振るい、家の中の物を次々と略奪して行く。
ナハムは泣き喚き、人形だけは壊さないでくれ、奪わないでくれ、と懇願して。
・・・これは何? 一体なんなの?
ここまででも既に理解は追いついていなかった。
もう十分、混乱していたのに。
目まぐるしく変わる状況にも。
自分の思考にも。
・・・もう何も分からなくて。
ユリアティエルは、ナハムによって身体を清められ、それから美しい服を着せられていた。
それから、ナハム自身の手によって髪が結い上げられ、化粧を施される。
そうやって完成した姿を、ナハムは恍惚の表情でうっとりとただ眺めていた。
かなりの時間を眺め続けて、やっと満足したのだろうか、ナハムは漸く口を開いた。
「君のために特別なケースを作ったんだよ。鑑賞用も兼ねた保存ケースだ。ねぇ、こっちの部屋にあるから来て」
誘いの言葉をかけつつも、ナハムはユリアティエルの意思など尊重しない。
だから、返事を待たずに腕を掴んだ。
連れて行かれた先の部屋には、大きな透明の入れ物が、ナハムが言うところの保存ケースが置いてあった。
そのケースの向こうに、何か大きな機械のようなものがあるのは何に使うのだろう。
気にはなるが、はっきりと聞くのは怖かった。
それはきっと、既にその答えに対する予感めいた確信があったから。
彼がここで何をするつもりでいるか、自分の身に何が起こるか、という事を。
「この大きさなら十分入るよね」
・・・何が?
「とっても嬉しいよ。本当の人間で出来た人形なんて僕も生まれて初めて持つからね」
・・・人間で出来た人形って何のこと?
「大丈夫。痛くなんかないからね。まあ、僕はやった事ないけど、前に猫で試した時はうまくいったし。その時も痛そうにも見えなかったしね」
・・・猫で何を試したの?
答えは分かってる。
何も聞かなくても、彼が今からやろうとしていることは。
・・・私はこんなところで死ぬのね。
カルセイランさまにお会い出来ないまま。
ヴァルハリラの陰謀に関わってすらいない、全く別の異常者の手によって。
なんて下らない結末。
なんて惨めな。
なんて意味のない終わり方なの。
どうせ死ぬのならば、貴方の手で殺して欲しかった。
そうすれば。
そうすれば、きっと。
きっと痛くない筈。私は笑って死ねた筈。
それに、きっと貴方も。
貴方も安心して、心おきなく自分を憎めたでしょうから。
なのに、こんな・・・こんな会ったこともない異常者の手にかかったと知ったら、そうよ、知れば貴方はきっと。
・・・きっと貴方は、また泣くわ。
きっと、ずっと泣き続けるわ。
私がこんなところで、無機質な入れ物の中に詰め込まれて死んだと知ったら。
・・・貴方は。
だから。
駄目なの。
私はここで死んでは駄目なの。
お願い、助けて。
助けて、ノヴァイアス。
そう思った時。
扉が蹴破られて、シャイラックたちが乱入したのだ。
ユリアティエルは、自分を取り巻く状況を理解できずにいた。
だって目の前には。
ユリアティエルの目の前では、彼女が想像もしていなかった人物が暴れている。
・・・どうして?
どうしてシャイラックがここに?
両腕を失ったその姿も衝撃的ではあった。
だがそれ以上に、彼がここに、この時に登場する理由が分からなくて。
中でも、最もユリアティエルを困惑させたのはある一つの事実、それは。
・・・扉が破られた時、なぜ私は。
私は・・・ノヴァイアスが来てくれたと思ったのかしら。
シャイラックはナハムを蹴りつけ、罵声を浴びせている。
名も知らぬ男たちは剣を振るい、家の中の物を次々と略奪して行く。
ナハムは泣き喚き、人形だけは壊さないでくれ、奪わないでくれ、と懇願して。
・・・これは何? 一体なんなの?
ここまででも既に理解は追いついていなかった。
もう十分、混乱していたのに。
目まぐるしく変わる状況にも。
自分の思考にも。
・・・もう何も分からなくて。
ユリアティエルは、ナハムによって身体を清められ、それから美しい服を着せられていた。
それから、ナハム自身の手によって髪が結い上げられ、化粧を施される。
そうやって完成した姿を、ナハムは恍惚の表情でうっとりとただ眺めていた。
かなりの時間を眺め続けて、やっと満足したのだろうか、ナハムは漸く口を開いた。
「君のために特別なケースを作ったんだよ。鑑賞用も兼ねた保存ケースだ。ねぇ、こっちの部屋にあるから来て」
誘いの言葉をかけつつも、ナハムはユリアティエルの意思など尊重しない。
だから、返事を待たずに腕を掴んだ。
連れて行かれた先の部屋には、大きな透明の入れ物が、ナハムが言うところの保存ケースが置いてあった。
そのケースの向こうに、何か大きな機械のようなものがあるのは何に使うのだろう。
気にはなるが、はっきりと聞くのは怖かった。
それはきっと、既にその答えに対する予感めいた確信があったから。
彼がここで何をするつもりでいるか、自分の身に何が起こるか、という事を。
「この大きさなら十分入るよね」
・・・何が?
「とっても嬉しいよ。本当の人間で出来た人形なんて僕も生まれて初めて持つからね」
・・・人間で出来た人形って何のこと?
「大丈夫。痛くなんかないからね。まあ、僕はやった事ないけど、前に猫で試した時はうまくいったし。その時も痛そうにも見えなかったしね」
・・・猫で何を試したの?
答えは分かってる。
何も聞かなくても、彼が今からやろうとしていることは。
・・・私はこんなところで死ぬのね。
カルセイランさまにお会い出来ないまま。
ヴァルハリラの陰謀に関わってすらいない、全く別の異常者の手によって。
なんて下らない結末。
なんて惨めな。
なんて意味のない終わり方なの。
どうせ死ぬのならば、貴方の手で殺して欲しかった。
そうすれば。
そうすれば、きっと。
きっと痛くない筈。私は笑って死ねた筈。
それに、きっと貴方も。
貴方も安心して、心おきなく自分を憎めたでしょうから。
なのに、こんな・・・こんな会ったこともない異常者の手にかかったと知ったら、そうよ、知れば貴方はきっと。
・・・きっと貴方は、また泣くわ。
きっと、ずっと泣き続けるわ。
私がこんなところで、無機質な入れ物の中に詰め込まれて死んだと知ったら。
・・・貴方は。
だから。
駄目なの。
私はここで死んでは駄目なの。
お願い、助けて。
助けて、ノヴァイアス。
そう思った時。
扉が蹴破られて、シャイラックたちが乱入したのだ。
11
お気に入りに追加
1,141
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる