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完璧な世界
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・・・本当、あの時は大変だったわ。
サルトゥリアヌスがいろいろと屁理屈を捏ね回すものだから、話がなかなか進まなくて。
仮払いが、とか、期限が満了するまでに、とか、出来ても出来なくてもその時には相応の対価を、とか。
もういい加減、面倒になったからハイハイと頷いて終わらせたけど。
大体、契約を結ぶ相手にあんな偉そうにするのはどうかと思うのよ。
だって要はお客さまでしょ?
まぁ、結局、五年後にちゃんと対価を払うってことで契約が成立した途端、いきなり態度が丁寧になったから良いのかしらね?
兎に角、今は何も持ってないから取り立てたくても取りようがないって言うんなら仕方ない。
思いつきで五人全員の命を先に渡しちゃったせいで、死んだ身体が動かせるようになってからも、私に差し出せるものが何も残ってなかったのは本当だ。
お父さまだけでもこちらに残しておけば、侯爵令嬢としての立場や力くらいは手元にあった訳だから、確かにあれは失敗だったわ。
そのままにしておいたら爵位は自動的に叔父さまが継ぐことになってしまうし、身体ひとつ残ったところで何が出来る訳でもない。
もう死んでるから、また死ぬことはないってくらいの程度のもの。
そうよ。お父さまだけでも残しておいたら、屋敷の使用人とか領民とか、対価として出せるものはまだまだあった筈なのに。
今まで通りの生活をするには、そしてそれ以上のものを手にするには、サルトゥリアヌスを通して『傀儡』と『魅了』の力を借りて、周囲を動かさなきゃならなくて。
しかも『傀儡』は誰にでも使えるけれど、『魅了』は一人にしか使えないとか、サルトゥリアヌスは言いだすし。
要はカルセイランさまを私に振り向かせるだけなら彼を魅了すれば事足りるけど、それだけでは王太子妃の座には就けないから『傀儡』を使って周りを好きなように動かせって事らしい。
まあ、確かにそうするしかないわよね。
カルセイランさまお一人の意見で、ユリアティエルとやらを婚約者の座から落とせる筈がない。
他の誰かから反対意見が出るのも癪だしね。
だって、私は皆から望まれ、祝福されてカルセイランさまの妃になるんだから。
そう、『傀儡』と『魅了』を使って、私は王太子妃になるの。
契約が成立してサルトゥリアヌスが消えた途端、止まっていたもの全てがまた動き始めた。
侍女たちが、私の姿や部屋の血溜まりを見て騒ぎそうになったから、すぐに『傀儡』で大人しくさせ、掃除や湯浴みを言いつける。
うん、これってなかなか便利な力ね。
屋敷中の使用人に『傀儡』をかければ、私以外の侯爵家の人間がいない事など誰も口にすることなく働き続ける。
さぁて、これからどうしようかしら。
まずは屋敷から始めて、そして親族、領民、他の貴族たちへと力を使って私を認めさせてていかないと。
あ、取り敢えず仮の家族とかも作っておいた方がいいかしら?
父親が宰相、なんてのもいいわね。
だって今は確か、あの女の父親がその職に就いてる筈。
そうね、それも奪ってしまいましょう。
まあ、でも、今はまずこの力に慣れないといけないから、おいおいになるけれど・・・。
知らず、笑みが浮かぶ。
今から五年。
まあ、それだけあれば何とかなるでしょ。
サルトゥリアヌスとの話で分かったのは、願いが叶ったときに改めて対価を差し出せばいいってこと。
それから、願いが叶った瞬間にようやく私は生きた人間になれるってこと。
そして、その願いが叶う時っていうのは、式の時ではなく私があの方の妻になる時。
本当の意味であの方のものになった時の事なんだとか。
ふふ、いいじゃない。
あの方に妻として抱かれた瞬間が、そんな劇的な瞬間になるなんて。
最高だわ。
強力な力を五年間、私に貸与する訳だから、かなりの対価を支払うことになるってサルトゥリアヌスは言っていたけど。
わざわざ願いを叶えてくれるんだもの。
勿論ケチったりなんかしないわ。
カルセイランさま以外だったら、何をあげてもいい。
そうね、例えば・・・。
何を渡せばいいものか色々と考えて、そしてふと思いつく。
「・・・王国の民すべて、とかどうかしら?」
ただの思いつきにしては、なかなかいい考えだと我ながら感心する。
そうよ、王族になるんだから、当然、国の民も私に属する訳だもの。
後でその話をしたときのサルトゥリアヌスの眼は、ひやりと冷たく光っていて、見ていてなかなか面白かった。
きっと、あれでいいって事だと思う。
・・・まあ、どうでもいいわ。
私に使える人間を少しばかり残しておいて、後は全員、差し出しちゃえば済むんでしょ?
そうだわ。それでも対価が足りないって言われたら、今度は王さまとか王妃さまとか王弟さまとか、カルセイランさま以外の王族たちも全部差し出せばいい。
王族だもの。きっと価値は高い筈よ。
今度は失敗しない。
まずは価値の低いものから切り捨てていくの。
うん、いいわ。
もの凄くいい考えのような気がする。
カルセイランさまと私。そして後は私たちを世話する者たちが周りにいれば。
他には何もいらない。
他には誰もいらない。
邪魔をする者は許さない。
そうよ、それが完璧な世界なの。
サルトゥリアヌスがいろいろと屁理屈を捏ね回すものだから、話がなかなか進まなくて。
仮払いが、とか、期限が満了するまでに、とか、出来ても出来なくてもその時には相応の対価を、とか。
もういい加減、面倒になったからハイハイと頷いて終わらせたけど。
大体、契約を結ぶ相手にあんな偉そうにするのはどうかと思うのよ。
だって要はお客さまでしょ?
まぁ、結局、五年後にちゃんと対価を払うってことで契約が成立した途端、いきなり態度が丁寧になったから良いのかしらね?
兎に角、今は何も持ってないから取り立てたくても取りようがないって言うんなら仕方ない。
思いつきで五人全員の命を先に渡しちゃったせいで、死んだ身体が動かせるようになってからも、私に差し出せるものが何も残ってなかったのは本当だ。
お父さまだけでもこちらに残しておけば、侯爵令嬢としての立場や力くらいは手元にあった訳だから、確かにあれは失敗だったわ。
そのままにしておいたら爵位は自動的に叔父さまが継ぐことになってしまうし、身体ひとつ残ったところで何が出来る訳でもない。
もう死んでるから、また死ぬことはないってくらいの程度のもの。
そうよ。お父さまだけでも残しておいたら、屋敷の使用人とか領民とか、対価として出せるものはまだまだあった筈なのに。
今まで通りの生活をするには、そしてそれ以上のものを手にするには、サルトゥリアヌスを通して『傀儡』と『魅了』の力を借りて、周囲を動かさなきゃならなくて。
しかも『傀儡』は誰にでも使えるけれど、『魅了』は一人にしか使えないとか、サルトゥリアヌスは言いだすし。
要はカルセイランさまを私に振り向かせるだけなら彼を魅了すれば事足りるけど、それだけでは王太子妃の座には就けないから『傀儡』を使って周りを好きなように動かせって事らしい。
まあ、確かにそうするしかないわよね。
カルセイランさまお一人の意見で、ユリアティエルとやらを婚約者の座から落とせる筈がない。
他の誰かから反対意見が出るのも癪だしね。
だって、私は皆から望まれ、祝福されてカルセイランさまの妃になるんだから。
そう、『傀儡』と『魅了』を使って、私は王太子妃になるの。
契約が成立してサルトゥリアヌスが消えた途端、止まっていたもの全てがまた動き始めた。
侍女たちが、私の姿や部屋の血溜まりを見て騒ぎそうになったから、すぐに『傀儡』で大人しくさせ、掃除や湯浴みを言いつける。
うん、これってなかなか便利な力ね。
屋敷中の使用人に『傀儡』をかければ、私以外の侯爵家の人間がいない事など誰も口にすることなく働き続ける。
さぁて、これからどうしようかしら。
まずは屋敷から始めて、そして親族、領民、他の貴族たちへと力を使って私を認めさせてていかないと。
あ、取り敢えず仮の家族とかも作っておいた方がいいかしら?
父親が宰相、なんてのもいいわね。
だって今は確か、あの女の父親がその職に就いてる筈。
そうね、それも奪ってしまいましょう。
まあ、でも、今はまずこの力に慣れないといけないから、おいおいになるけれど・・・。
知らず、笑みが浮かぶ。
今から五年。
まあ、それだけあれば何とかなるでしょ。
サルトゥリアヌスとの話で分かったのは、願いが叶ったときに改めて対価を差し出せばいいってこと。
それから、願いが叶った瞬間にようやく私は生きた人間になれるってこと。
そして、その願いが叶う時っていうのは、式の時ではなく私があの方の妻になる時。
本当の意味であの方のものになった時の事なんだとか。
ふふ、いいじゃない。
あの方に妻として抱かれた瞬間が、そんな劇的な瞬間になるなんて。
最高だわ。
強力な力を五年間、私に貸与する訳だから、かなりの対価を支払うことになるってサルトゥリアヌスは言っていたけど。
わざわざ願いを叶えてくれるんだもの。
勿論ケチったりなんかしないわ。
カルセイランさま以外だったら、何をあげてもいい。
そうね、例えば・・・。
何を渡せばいいものか色々と考えて、そしてふと思いつく。
「・・・王国の民すべて、とかどうかしら?」
ただの思いつきにしては、なかなかいい考えだと我ながら感心する。
そうよ、王族になるんだから、当然、国の民も私に属する訳だもの。
後でその話をしたときのサルトゥリアヌスの眼は、ひやりと冷たく光っていて、見ていてなかなか面白かった。
きっと、あれでいいって事だと思う。
・・・まあ、どうでもいいわ。
私に使える人間を少しばかり残しておいて、後は全員、差し出しちゃえば済むんでしょ?
そうだわ。それでも対価が足りないって言われたら、今度は王さまとか王妃さまとか王弟さまとか、カルセイランさま以外の王族たちも全部差し出せばいい。
王族だもの。きっと価値は高い筈よ。
今度は失敗しない。
まずは価値の低いものから切り捨てていくの。
うん、いいわ。
もの凄くいい考えのような気がする。
カルセイランさまと私。そして後は私たちを世話する者たちが周りにいれば。
他には何もいらない。
他には誰もいらない。
邪魔をする者は許さない。
そうよ、それが完璧な世界なの。
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