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それは揺り籠にも似た

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ゆら、ゆら、ゆら。

身体全体に感じるのは緩やかな振動。

ああ、でも何だか眠い・・・わ・・・。

ゆら、ゆら、ゆら、ゆら。

あら・・・?
声が、聞こえる・・・?

男の人の声、かしら。
「高価な布なんだ。丁寧に運んでくれよ」って、そう・・・聞こえる。

ああ、布。布ね。
綺麗な布を・・・見せてもらったわ、ね。

宝石や、珍しい布、たくさんのお飾り。
好きなものを買うといいって、そう・・・言われて、私は・・・。

私は・・・?

どうして、こんなに・・・眠い、の・・・?

ゆらゆらと揺れるその振動が、とてもゆっくりしていて。
だからだろうか。
私はまた目を閉じた。




その頃、カサンドロスの館では。
使用人や執事、商会の責任者たちがあちらこちらを走り回り、ユリアティエルを探していた。

「東側の棟にもおられません」
「西は?」
「今、見に行かせています・・・っ」

指示する声と、それに応える声。
そして、それに重なるように辺りを走り回る足音が館内に響いていた。

「地下室は確認したか?」
「ただ今・・・」
「確かに、部外者は出入りしていないのだな?」
「は、はい。品物を入れた箱だけを受け取り、商人たちは外にて待機させていましたので」
「西側の棟にもおられませんでした・・・っ」

館内、そしてその後、捜索範囲を館周辺へと広げて探し回ったものの、結局、ユリアティエルの姿を見つけることは出来ないまま、時間は過ぎていく。

そして、とうとう捜索を諦めた執事長が、王都にいるカサンドロスへと伝書鳥を飛ばしたのは夕刻を過ぎた頃、半日かけて捜索した後のことだった。

カサンドロスの館から王都まで、伝書鳥の速度では到着まで約半日。
カサンドロスが伝文を受け取るのは、早くても明日の朝となる。

そして実際にカサンドロスが文を受け取ったのは、やはり明朝のことで、それはカサンドロスがカルセイランとの対面を果たした次の日であった。



宿場カイコウの一室から、空を飛ぶ鳥の影に気づいたカサンドロスがその文を受け取る。
その内容を一読してカサンドロスの表情に動揺が浮かんだ。
そして彼はその足で、急ぎノヴァイアスのもとへと向かう。

「ユリアティエルさまが・・・いなくなった・・・?」
「外部の出入りはなかったらしい。だが扱っている品物の受け渡しはあったそうだから、もしや荷に紛れて連れ去られたのかもしれん。・・・だが、それをする者に心当たりがない」

言葉を失ったままその場に立ち尽くすノヴァイアスに視線を向けたれまま、カサンドロスは早口で言葉を継ぐ。

「ユリアティエルには、人目を避け、館内で過ごすように伝えてあった。そして実際その通りにしていたと報告されている。使用人を含め、館内の者たちは全員、館で寝泊まりしているし、ユリアティエルが居なくなった後に行方をくらませた者もいない。ユリアティエル以外の者は全員、館内から出ていないのだ」
「・・・」
「ノヴァイアス」

カサンドロスが一歩、ノヴァイアスへと近づき、肩を掴んだ。

「落ち着け、ノヴァイアス」
「・・・カサンドロス、さま・・・」
「王都からその館まで、どれだけ急いでも馬で五日はかかる。その間、常に鳥を飛ばして情報は集め続けるとしても、今はまず動かねばならん」

ノヴァイアスは頷いた。
それを見て、カサンドロスもまた頷きを返す。

「では、急ぎ戻るぞ」


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