55 / 183
澄んだ夜空 輝く月
しおりを挟む
夜も更けて少々肌寒くなっていたせいだろうか、エイダがふと目を覚ます。
そして、隣で眠っている筈のユリアティエルがいない事に驚き、慌てて跳ね起きたが、窓の手すりに腰掛けて夜空を見上げる姿を見つけ、ほっと安堵の息を吐いた。
真っ暗の闇に包まれ、ほのかに月光が射す窓辺に、ユリアティエルがガラスにもたれかかるように座り夜空を見上げるその姿は、まるで一枚の絵画のようで。
声をかけることも憚られるような、どこか神聖さすら感じるような、そんな厳かな空気に包まれた姿を、エイダはただじっと眺めていると。
やがてその視線に気付いたのだろう、ふと視線をエイダの方へと向ける。
「ごめんなさい、起こしてしまったかしら?」
ふわりと見せた笑みは、どこまでも優しさに溢れているのに、何故かいつも悲しそうで。
それはどうしてなんだろう、と、ずっとエイダは不思議だった。
ユリアティエルの問いに、エイダは黙って首を横に振る。
すると、ユリアティエルはもう一度笑みを溢し、また夜空を見上げた。
・・・寂しそうなお顔。
あんなに優しく笑うのに。
この世の全ての祝福をその身に受けたような美しさをお持ちなのに。
ユリアティエルさまの瞳からは、いつも陰りが消えない。
・・・それは、あの人のせいなんだろうか。
あの日、エイダの前に現れた、自分に似た髪色の男性。
エイダをシェケムたちから解放してくれた人。
ユリアティエルを付け狙ってカサンドロスに襲撃を仕掛けたシャイラックに怒り狂って、その両腕を切り落とした人。
そして、ユリアティエルから、いつも距離を置こうとする人。
エイダは再び横になり、微かに目を眇めながら、眠気に襲われるのを静かに待つ。
目の前の美しい情景を、ただただ眺めながら。
気付いてしまった。
ユリアティエルとノヴァイアスの間に何があったのかなんて、誰もエイダには言わなかったけど。
でも、それでも。
やはり分かってしまう。
言葉の端々に表れる小さな小さな片鱗に、どうしても気がついてしまう。
きっと、ノヴァイアスという人は、ユリアティエルさまを酷く、それはもう酷く、傷つけたのだ。
そしてその事を、当人は、ノヴァイアスという人は、心底悔やんでいる。
心配で、あちこち走り回って、こんなところにまで押しかけて、ユリアティエルさまの安否を確かめるほどに。
ユリアティエルさまのために、自分が奴隷に成り代わると申し出るほどに。
・・・初めは、恋人同士なのかと思った。
明らかに、普通以上の感情をお互いに持っているように見えたから。
でも、ユリアティエルさまは、お慕いしている方がおられると仰った。
それは遠いところにおられる方だと。
きっと、もう二度と会うこともないと。
そう言って、寂しそうに笑った。
ノヴァイアスが急に姿を消してから、既に六日が経つ。
あれからユリアティエルたちは更に移動を重ね、四日前にカサンドロスが用意した館に到着した。
取り敢えず、エイダに関する処遇の決定は保留となっている。
ユリアティエルは、ノヴァイアスの名を口にすることはない。
ただ毎夜、ユリアティエルは月を見上げ、その唇は小さな声で何かを呟いている。
それはまるで、何かを願うように。
それはまるで、何かを問うように。
その光景を見るたび、エイダは胸を締め付けられるような感覚に陥るのだ。
そして、隣で眠っている筈のユリアティエルがいない事に驚き、慌てて跳ね起きたが、窓の手すりに腰掛けて夜空を見上げる姿を見つけ、ほっと安堵の息を吐いた。
真っ暗の闇に包まれ、ほのかに月光が射す窓辺に、ユリアティエルがガラスにもたれかかるように座り夜空を見上げるその姿は、まるで一枚の絵画のようで。
声をかけることも憚られるような、どこか神聖さすら感じるような、そんな厳かな空気に包まれた姿を、エイダはただじっと眺めていると。
やがてその視線に気付いたのだろう、ふと視線をエイダの方へと向ける。
「ごめんなさい、起こしてしまったかしら?」
ふわりと見せた笑みは、どこまでも優しさに溢れているのに、何故かいつも悲しそうで。
それはどうしてなんだろう、と、ずっとエイダは不思議だった。
ユリアティエルの問いに、エイダは黙って首を横に振る。
すると、ユリアティエルはもう一度笑みを溢し、また夜空を見上げた。
・・・寂しそうなお顔。
あんなに優しく笑うのに。
この世の全ての祝福をその身に受けたような美しさをお持ちなのに。
ユリアティエルさまの瞳からは、いつも陰りが消えない。
・・・それは、あの人のせいなんだろうか。
あの日、エイダの前に現れた、自分に似た髪色の男性。
エイダをシェケムたちから解放してくれた人。
ユリアティエルを付け狙ってカサンドロスに襲撃を仕掛けたシャイラックに怒り狂って、その両腕を切り落とした人。
そして、ユリアティエルから、いつも距離を置こうとする人。
エイダは再び横になり、微かに目を眇めながら、眠気に襲われるのを静かに待つ。
目の前の美しい情景を、ただただ眺めながら。
気付いてしまった。
ユリアティエルとノヴァイアスの間に何があったのかなんて、誰もエイダには言わなかったけど。
でも、それでも。
やはり分かってしまう。
言葉の端々に表れる小さな小さな片鱗に、どうしても気がついてしまう。
きっと、ノヴァイアスという人は、ユリアティエルさまを酷く、それはもう酷く、傷つけたのだ。
そしてその事を、当人は、ノヴァイアスという人は、心底悔やんでいる。
心配で、あちこち走り回って、こんなところにまで押しかけて、ユリアティエルさまの安否を確かめるほどに。
ユリアティエルさまのために、自分が奴隷に成り代わると申し出るほどに。
・・・初めは、恋人同士なのかと思った。
明らかに、普通以上の感情をお互いに持っているように見えたから。
でも、ユリアティエルさまは、お慕いしている方がおられると仰った。
それは遠いところにおられる方だと。
きっと、もう二度と会うこともないと。
そう言って、寂しそうに笑った。
ノヴァイアスが急に姿を消してから、既に六日が経つ。
あれからユリアティエルたちは更に移動を重ね、四日前にカサンドロスが用意した館に到着した。
取り敢えず、エイダに関する処遇の決定は保留となっている。
ユリアティエルは、ノヴァイアスの名を口にすることはない。
ただ毎夜、ユリアティエルは月を見上げ、その唇は小さな声で何かを呟いている。
それはまるで、何かを願うように。
それはまるで、何かを問うように。
その光景を見るたび、エイダは胸を締め付けられるような感覚に陥るのだ。
3
お気に入りに追加
1,130
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
望まぬ結婚の、その後で 〜虐げられ続けた少女はそれでも己の人生を生きる〜
レモン🍋
恋愛
家族から虐待され、結婚を機にようやく幸せになれると思った少女、カティア。しかし夫となったレオナルドからは「俺には愛するものがいる。お前を愛することはない。妙な期待はするな」と言われ、新たな家でも冷遇される。これは、夢も希望も砕かれた少女が幸せを求めてもがきながら成長していくお話です。
※本編完結済みです。気ままに番外編を投稿していきます。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる