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お前は
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目の前で起きている事が信じられず、シャイラックは、これは夢かと何度も疑った。
畜生、畜生、畜生。
なんだ、何が起こってるんだ?
どうしてこんなに兵士がいるんだ?
一体、どこに隠れてやがった?
カサンドロスめ、奴隷を奪い返しに来ることを見越してやがったのか。
くそっ、こんな事ならやっぱりあの後、無理矢理にでも犯しておけばよかった。
・・・親父の野郎、自分一人だけスッキリして帰って来やがって。
売る前に傷を付けたら儲け話が消えちまう。
売った後なら好きにしていい、と。
あの男が払った金を、あの男を殺すのに使え、と。
カサンドロスを殺して、有り金を全部奪って、俺の奴隷を取り返せばいい、と。
そう言ってたくせに。
全然上手くいかねぇじゃねぇか。
畜生、やっぱり親父の言うことなんて聞かなきゃよかった。
俺は待つのが嫌いなのに。
今すぐ、俺の奴隷を手に入れたいのに。
ひゅ、という音と共に、シャイラックの頬を矢が掠める。
頬から薄らと血が滲む。
その血をぐっと服の袖で拭い、周囲を見回した。
くそっ、傭兵どもは何をやってるんだ。
三十人も雇ったんだぞ?
たんまり金も払ったよな?
任せろ、と大口叩いてたよな?
自分らにも俺の自慢の奴隷を味見させてくれって笑ってたよな?
・・・ふざけんな、
この役立たずどもが。
シャイラックは乗っていた馬の方向を変え、戦いの場から離脱する。
仕切り直しだ。
明日、もっと大人数の兵士を雇ってやる。
五十・・・いや、百か。
なんなら二百だっていい。
金ならいくらでもある。
全部使っちまったとしても、カサンドロスから奪えばいいんだ。
あの奴隷は必ず取り戻す。
あれは俺の奴隷だ。
俺の・・・玩具だ。
縛って、殴って、泣かせて、首を締めて、痣だらけに・・・そうだ、傷だらけにしてやる。
あの綺麗な顔が苦痛に歪むところが見たい。
苦しんで泣く顔が、見たくて見たくて堪らない。
「・・・お前がシャイラックか?」
剣と剣がぶつかり合う音、戦いの怒号。
それらから少しは離れる事が出来たか、と、そう安堵した時。
前方から地を這うような低い声が響いた。
・・・なんで前から?
行手を塞ぐように、馬に跨った男が道の中央に現れた。
呆然とするシャイラックの目の前で、声の主は剣をすらりと抜き放つ。
「え・・・なんだよ、誰だよ、お前・・・」
逃げ道を探そうと、シャイラックは辺りを見回す。
だが、そんな姿を嘲笑うかのように、背後からも一頭の馬の蹄の音が近づいてきた。
「くそっ・・・!」
シャイラックは剣の柄を握り直す。
逃げ道を塞がれ、自棄になったシャイラックは、前方の男の方へと退路を定め、「どけっ!」と叫びながら馬を突進させる。
だがその男は、その場から動こうともしない。
ただシャイラックを鋭い目で見据えて、剣を勢いよく振り上げた。
「・・・ユリアティエルさまの髪を掴んだのはその腕か? 身体を痣だらけにしたのは、服を引き裂いたのはその腕か?」
静かな声だった。
「こうして態々新しい所有者を追いかけてまで、あの方を奪い、殴りながら犯そうとしているのは、その腕なのか?」
・・・ユリアティエル? 誰だそれは?
この男は、一体・・・?
そうシャイラックが考える事が出来たのは、ほんの一瞬。
その一瞬の間の後。
シャイラックの両腕からは血飛沫が上がった。
畜生、畜生、畜生。
なんだ、何が起こってるんだ?
どうしてこんなに兵士がいるんだ?
一体、どこに隠れてやがった?
カサンドロスめ、奴隷を奪い返しに来ることを見越してやがったのか。
くそっ、こんな事ならやっぱりあの後、無理矢理にでも犯しておけばよかった。
・・・親父の野郎、自分一人だけスッキリして帰って来やがって。
売る前に傷を付けたら儲け話が消えちまう。
売った後なら好きにしていい、と。
あの男が払った金を、あの男を殺すのに使え、と。
カサンドロスを殺して、有り金を全部奪って、俺の奴隷を取り返せばいい、と。
そう言ってたくせに。
全然上手くいかねぇじゃねぇか。
畜生、やっぱり親父の言うことなんて聞かなきゃよかった。
俺は待つのが嫌いなのに。
今すぐ、俺の奴隷を手に入れたいのに。
ひゅ、という音と共に、シャイラックの頬を矢が掠める。
頬から薄らと血が滲む。
その血をぐっと服の袖で拭い、周囲を見回した。
くそっ、傭兵どもは何をやってるんだ。
三十人も雇ったんだぞ?
たんまり金も払ったよな?
任せろ、と大口叩いてたよな?
自分らにも俺の自慢の奴隷を味見させてくれって笑ってたよな?
・・・ふざけんな、
この役立たずどもが。
シャイラックは乗っていた馬の方向を変え、戦いの場から離脱する。
仕切り直しだ。
明日、もっと大人数の兵士を雇ってやる。
五十・・・いや、百か。
なんなら二百だっていい。
金ならいくらでもある。
全部使っちまったとしても、カサンドロスから奪えばいいんだ。
あの奴隷は必ず取り戻す。
あれは俺の奴隷だ。
俺の・・・玩具だ。
縛って、殴って、泣かせて、首を締めて、痣だらけに・・・そうだ、傷だらけにしてやる。
あの綺麗な顔が苦痛に歪むところが見たい。
苦しんで泣く顔が、見たくて見たくて堪らない。
「・・・お前がシャイラックか?」
剣と剣がぶつかり合う音、戦いの怒号。
それらから少しは離れる事が出来たか、と、そう安堵した時。
前方から地を這うような低い声が響いた。
・・・なんで前から?
行手を塞ぐように、馬に跨った男が道の中央に現れた。
呆然とするシャイラックの目の前で、声の主は剣をすらりと抜き放つ。
「え・・・なんだよ、誰だよ、お前・・・」
逃げ道を探そうと、シャイラックは辺りを見回す。
だが、そんな姿を嘲笑うかのように、背後からも一頭の馬の蹄の音が近づいてきた。
「くそっ・・・!」
シャイラックは剣の柄を握り直す。
逃げ道を塞がれ、自棄になったシャイラックは、前方の男の方へと退路を定め、「どけっ!」と叫びながら馬を突進させる。
だがその男は、その場から動こうともしない。
ただシャイラックを鋭い目で見据えて、剣を勢いよく振り上げた。
「・・・ユリアティエルさまの髪を掴んだのはその腕か? 身体を痣だらけにしたのは、服を引き裂いたのはその腕か?」
静かな声だった。
「こうして態々新しい所有者を追いかけてまで、あの方を奪い、殴りながら犯そうとしているのは、その腕なのか?」
・・・ユリアティエル? 誰だそれは?
この男は、一体・・・?
そうシャイラックが考える事が出来たのは、ほんの一瞬。
その一瞬の間の後。
シャイラックの両腕からは血飛沫が上がった。
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