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待ち人

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「あ・・・んっ・・・」
「はっ・・・なかなかイイぞ。私の奴隷よ」

カサンドロスは腰を打ちつけながら、ユリアティエルの耳元で囁いた。

「やっ・・・あ・・・」

眼下でよがるユリアティエルの痴態にカサンドロスは目を細める。

「ふ・・・本来であれば王太子妃となる筈だった高貴な姫をこうして手籠に出来るとはな」

その口元は愉悦で弧を描いていた。

「だが睨んでいた通り、お前は既に純潔を奪われていたか。・・・まあ、それも当然だな」
「・・・え・・・?」

カサンドロスが呟いた言葉に、薄れそうな意識が引き戻される。

「お前を王太子妃の座から追い落とした者にとって、未だその座に返り咲きかねない要素がお前に残されているのであれば、即刻お前を殺しているだろう。ここにこうして生きている事も叶わない筈。・・・つまり」

語りかけられる言葉にユリアティエルが意識を向けようとしたその時、突然カサンドロスの腰の動きが激しくなり、ぱん、とユリアティエルの秘部を打ちつける。

「きゃ・・・やっ、あ・・・」
「・・・お前は純潔を奪われたからこそ、まだこうして生きている、という事だ」
「え・・・? あ、そん、な・・・」
「だが、果たしてそれがお前の救いとなったのかどうか。・・・こうして奴隷の身にまで落とされ、異国の商人に辱められているのだからな」

そんな。
そんな筈はない。
陵辱された事実が、私の命を救ったと言うの?

投げかけられた言葉を考えようとするが、更に激しく腰を打ちつけられ、段々と思考もままならなくなっていく。

「・・・何を考えている、誰のことを考えている? お前の純潔を奪ったというノヴァイアスという男のことか? 今お前を抱いているのは、この私だぞ?」

ああ、でもノヴァイアス。
ではノヴァイアス、貴方は。

教えて。
貴方は何故、あのとき私を抱いたの?
あのとき貴方は何を思っていたの?
私がいずれ感謝するとでも?

そう思ったの?
本当に? 

・・・本当に? 


「・・・処女だという触れ込みは、お前を高く売るためにあの奴隷商人が吐いた嘘かと思っていたが、どうやらそれも違ったようだな」
「・・・え?」

薄れそうな意識の中、どこか遠く聞こえるカサンドロスの声に、必死で意識を向ける。

ユリアティエルを見下ろしながら、カサンドロスはふ、と笑った。

「あの奴隷商人の一家には悪い噂が付いて回っていてな。・・・特に息子に関しては、聞くのも耐えかねるほど残虐なものだ」

そう言うと、カサンドロスは人差し指でつ、とユリアティエルの肌をなぞっていく。
傷ひとつなく、柔らかで、雪のように真っ白な肌に、満足そうに頷いた。

「お前の身体に傷ひとつ付いていないという事は、お前があそこにいる時に一度もあの男に抱かれていないという事になる。父親の方はともかく、あの息子が女を抱いて、無傷で終わらせる筈がないからな」
「・・・」

知らずにいた事実を次々と告げられ、ユリアティエルは今が情事の最中であることを一瞬忘れるほどの衝撃を受けた。

カサンドロスの言っている事を、自分は理解しているのだろうか。
シャイラックの話に、何故、こんなに背筋が寒くなるのだろうか。

「お前を売ったという男・・・サルトゥリアヌスと言ったか? 処女というのはそいつが吐いた嘘なのだろう? 敵のような立ち位置にありながら、お前の身体を思い遣るような嘘を残していくとは不思議な男だ。・・・おっと」

カサンドロスが顔を上げ、暫し、耳をすませる。

「やっとのお出ましか」
「え・・・?」
「待ち人が来たようだ。ユリアティエル、なかなか良かったが、今夜はこれで終いだ。・・・いくぞ」

そう言い終わると同時に、再び腰が激しく打ちつけられる。

「やっ、急、に・・・ああっ・・・」

急に与えられた強烈な刺激に頭がついて行かない。
意識が飛びそうだ。

・・・どこか遠くで叫び声が聞こえたような。
金属がぶつかり合う音がするような。

そんな気がする。
そう思ったけど。

ああ、でももう。
何も分からない。

突き上げるような快感に圧倒され、ユリアティエルは意識を手放した。

視界が薄らいでいく中、ユリアティエルの脳裏に最後に浮かんだのは。

カルセイランの優しい眼差しと。

そして。
ノヴァイアスの苦しげに俯いた顔。

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