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それは貴方への贈り物
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「・・・これは何だ? サルトゥリアヌス」
カルセイランの視線は、目の前の男が差し出した小箱に向けられていた。
「貴方さまへの贈り物にございます。私が代わりに持って参りました」
その言葉にカルセイランが怪訝な表情を浮かべる。
「ヴァルハリラ嬢からか・・・? 彼女が贈り物とは、初めてだな。ではこの書類を片付けたら見せてもらうから、そこに置いておいてくれ」
「畏まりました。ではここに」
「うむ」
執務机の横にある小さな棚の上にそれを置くと、サルトゥリアヌスは頭を下げ辞去の挨拶を告げた。
「ヴァルハリラ嬢に礼を言っておいてくれ。心遣いに感謝する、と」
「・・・これはヴァルハリラさまからの贈り物ではございませんよ」
「・・・は?」
「確かに私はヴァルハリラさまからの指示を受けてこれを買い求めましたが、お金を用立てたのは別の方です。・・・ああ、でも、私がこのように申し上げたのは、どうかご内密に」
そう言って、口に人差し指を添えた。
「別の者が金を用意したと・・・? では宰相が? いや、父親であればそれは当然だな、では誰が・・・」
「残念ながら、お名前を申し上げることは出来ません。・・・ですが」
カルセイランは驚いた。
この男、サルトゥリアヌスが柔らかく目を細めるのを初めて見たからだ。
いつも何の感情も籠っていない、無機質で酷薄な笑みしか浮かべない男が。
この男にこんな表情をさせるとは、一体誰なのか。
そんな事を考えながら、続く言葉を待った。
だがそれは、カルセイランにとって意外な言葉で。
いや、或いは、どこかしっくりくる言葉で。
「・・・殿下を心から想う方、その方が全てを賭けた証にございます」
これは何の謎解きか。
サルトゥリアヌスの言葉に、カルセイランは一瞬、そう思った。
そして思わず小棚に置かれた小さな箱に手を伸ばす。
蓋を開け、中を覗き込み、その美しい細工に見惚れ、それから。
・・・その色合いに、どこか懐かしさと切なさを覚えて。
一瞬、頭の中の霧が晴れる。
銀色の髪をなびかせ、紫の美しい瞳を細めて柔らかく笑う女性が脳裏に浮かぶ。
ああ、彼女は・・・。
刹那、その姿はかき消され、頭の中は無に包まれて。
・・・今、私はなにか大切なものを思い出したような・・・。
ぼんやりした思考のまま、再び手元の箱の中に目を落とす。
美しく精巧な銀細工。
そして、その中に嵌め込まれた煌めく紫水晶。
それには同じく銀の鎖が付けられて、首飾りの仕様になっている。
私は懐かしいこの色合いを知っている。
確かに知っている・・・筈なのに。
これ程の愛おしさを感じるのに、何故なにも分からない?
箱から取り出し、首飾りをぐっと握りしめる。
愛おしい、愛おしい、愛おしい。
涙が溢れてくる。心が引きちぎられそうだ。
だが・・・何故?
私は、何を失ったのだ?
「・・・どうか肌身離さず身に付けくださいますよう」
それきり黙りこくってしまった王太子の様子を、暫くの間サルトゥリアヌスは黙って見守っていたが、やがて一言そう告げると、静かに王太子の執務室から出て行った。
カルセイランの視線は、目の前の男が差し出した小箱に向けられていた。
「貴方さまへの贈り物にございます。私が代わりに持って参りました」
その言葉にカルセイランが怪訝な表情を浮かべる。
「ヴァルハリラ嬢からか・・・? 彼女が贈り物とは、初めてだな。ではこの書類を片付けたら見せてもらうから、そこに置いておいてくれ」
「畏まりました。ではここに」
「うむ」
執務机の横にある小さな棚の上にそれを置くと、サルトゥリアヌスは頭を下げ辞去の挨拶を告げた。
「ヴァルハリラ嬢に礼を言っておいてくれ。心遣いに感謝する、と」
「・・・これはヴァルハリラさまからの贈り物ではございませんよ」
「・・・は?」
「確かに私はヴァルハリラさまからの指示を受けてこれを買い求めましたが、お金を用立てたのは別の方です。・・・ああ、でも、私がこのように申し上げたのは、どうかご内密に」
そう言って、口に人差し指を添えた。
「別の者が金を用意したと・・・? では宰相が? いや、父親であればそれは当然だな、では誰が・・・」
「残念ながら、お名前を申し上げることは出来ません。・・・ですが」
カルセイランは驚いた。
この男、サルトゥリアヌスが柔らかく目を細めるのを初めて見たからだ。
いつも何の感情も籠っていない、無機質で酷薄な笑みしか浮かべない男が。
この男にこんな表情をさせるとは、一体誰なのか。
そんな事を考えながら、続く言葉を待った。
だがそれは、カルセイランにとって意外な言葉で。
いや、或いは、どこかしっくりくる言葉で。
「・・・殿下を心から想う方、その方が全てを賭けた証にございます」
これは何の謎解きか。
サルトゥリアヌスの言葉に、カルセイランは一瞬、そう思った。
そして思わず小棚に置かれた小さな箱に手を伸ばす。
蓋を開け、中を覗き込み、その美しい細工に見惚れ、それから。
・・・その色合いに、どこか懐かしさと切なさを覚えて。
一瞬、頭の中の霧が晴れる。
銀色の髪をなびかせ、紫の美しい瞳を細めて柔らかく笑う女性が脳裏に浮かぶ。
ああ、彼女は・・・。
刹那、その姿はかき消され、頭の中は無に包まれて。
・・・今、私はなにか大切なものを思い出したような・・・。
ぼんやりした思考のまま、再び手元の箱の中に目を落とす。
美しく精巧な銀細工。
そして、その中に嵌め込まれた煌めく紫水晶。
それには同じく銀の鎖が付けられて、首飾りの仕様になっている。
私は懐かしいこの色合いを知っている。
確かに知っている・・・筈なのに。
これ程の愛おしさを感じるのに、何故なにも分からない?
箱から取り出し、首飾りをぐっと握りしめる。
愛おしい、愛おしい、愛おしい。
涙が溢れてくる。心が引きちぎられそうだ。
だが・・・何故?
私は、何を失ったのだ?
「・・・どうか肌身離さず身に付けくださいますよう」
それきり黙りこくってしまった王太子の様子を、暫くの間サルトゥリアヌスは黙って見守っていたが、やがて一言そう告げると、静かに王太子の執務室から出て行った。
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