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何故、この世界は

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ユリアティエルが去った後、エイダは暫くの間、ぴくりとも動こうとしなかった。

ただ見世物用の檻の一番後ろ、自分たちが寝泊りする建物に最も近い左端の最奥に座りこんでぼんやりとして。

その位置にいたからだろう、建物の奥から主人夫婦の笑い声が微かに聞こえる。

聞きたくない、そう思う気持ちとは裏腹に、何故か耳をそばだててしまう。

きっとユリアさまの話をしている。

そう思って。

「こんだけありゃあ、三年は遊んで暮らせるな。まぁ、だからってこの商売を辞めるつもりはねぇけどよ」
「全く笑いが止まらないねぇ。たった一か月と少しあの子を置いといただけでこれだけの金が手に入るなんてさ。まぁ、あれだけとんでもない美人なら、当然なのかねぇ」

聞きたい。
でも聞きたくない。

ユリアティエルを売ったお金で大喜びしている二人の声は、エイダにとっては憎らしいの一言しかなくて。

それでも今は、ユリアティエルの事ならどんなことでも耳にしたくて。

結局、エイダは微かに聞こえる会話に耳をすませた。

「でもよ。まさか、あのカサンドロスが態々出張って来て奴隷女に大金を払うなんて、流石の俺も思いもしなかったがな」

そう言って、はははと笑う。

悔しさと悲しさと思慕の念とをぐっと堪えて聞いていると、やがて二人が不穏な名前を口にした。

・・・シャイラック。

そういえば、あれだけユリアさまに執着していたシャイラックが、今朝の引き渡しに姿を見せなかったのは、シェケムたちが何か対策したから?

それとも。

「まぁ、金を貰っちまえばこっちのもんだ。ちゃんと引き換えに奴隷も渡したしな。いざとなりゃ、見物客も証人になってくれるさ」

・・・え?

「屋敷に帰る途中でどこかの強盗に襲われて何もかも盗られちまっても、俺たちには関係ないってこった」
「そうだよ、あんた。せっかく手に入れた綺麗な奴隷も、普段から持ち歩いてる大金も、ぜーんぶ盗られたって、本人が間抜けだったってだけさね」
「違ぇねぇ」

・・・何を言ってるの。
この屑たちは、何を言ってるの?

「ああでも、あの子には随分と長く我慢させちまったからねぇ。苛々が溜まって、皆殺しとかしちまわないか心配だよ、アタシは」
「あれで我慢したって言えるのかよ? 昨夜は犯す直前まで行ってたんだぞ? 何度言っても聞きゃしねぇから、俺が毎晩どんだけハラハラしてたか、ハイデ、お前知らないだろ」

シェケムが大笑いする声が、エイダの耳に不快な迄に鳴り響く。

「まあ、とにかく。これであの子も暫くは大人しくなるだろうさ。せっかく手に入れた珍しい玩具なんだ。まさかすぐにちまうことはないだろうよ」

・・・嫌、駄目。
あの男は駄目。
あの男だけは。

相手を殴りながら、首を絞めながら、苦痛で呻く声を聞いて笑いながら、女を道具のように犯すあの男だけは。

ユリアさまに触れちゃ駄目。

「今頃もう追いついているかねぇ」
「いやぁ、まだ早いんじゃないか? あいつを部屋から出したのはついさっきだぞ?」

エイダは叫びたい衝動を必死で堪えた。
だがそれでも、身体の震えは止まらない。
爪が掌に食い込むほどに強く拳を握る。

なんで。
なんで、あんな人間がこの世に存在するの?
なんで、あいつらが檻の外で、私は・・・ユリアさまは中なの?

ああ、シャイラックが。

嫌だ。お願い、誰か。
誰か、助けて。

ユリアさまを、あの優しく美しい方を、どうか助けて。

どうか。

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