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夜毎の攻防

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見世物用の檻に身体を強かに打ち付けたユリアティエルは、その後、やはりと言おうか、身体の広範囲に青黒い痣が浮き上がった。

そのお陰と言うのも可笑しな話なのだが、ユリアティエルはその痣が完全に消えるまで、商品として見世物に出されることは控えられた。

室内の檻か屋外の檻かの違いだが、そうして痣が消えるまでの一週間ほど、あの好奇と劣情と品定めの視線とが混在する視線から逃れられた事に安堵した。

ただ、やはり。
残念な事に、エイダの懸念は的中して。

シャイラックは執拗にユリアティエルの収容されている檻に近づこうと試みていた。

痣を作る原因となった彼は、その事で父親から手酷く懲らしめられたようで、最初の一週間はユリアティエルの前に顔を見せる事もなく、安心していたのだが。

痣が殆ど消えた頃から、毎夜シャイラックは現れるようになった。

・・・エイダの言うことを聞いて、見張りを頼んでおいて良かった。

ユリアティエルは心からそう思った。

今夜も檻の向こう、ユリアティエルからも見える距離で、見張りとシャイラックとが争っている。

連日起こるこの騒ぎのせいで、ユリアティエルの収容場所は最奥の頑丈な檻へと変更された。

だがそれでもやはりシャイラックはやって来る。
毎夜、侵入を試みては取り押さえられ、引き摺り出されるのだ。

もし見張りがいなかったら、自分は今頃どうなっていたのだろう。
そう考えただけで背筋が粟立った。

散々ノヴァイアスに嬲られた身体だ。
サルトゥリアヌスにも抱かれている。
今更、貞操がどうとか、そんな事を言うつもりもない。

もはや清い身ではなく、男の肌を知らないわけでもないのに。

なのに、何故かあの男は怖くて堪らないのだ。

だがやがて、シェケムの思惑通りユリアティエルを巡って十日間に渡る大々的な競りが行われ、奴隷売買史上、最高額を提示した豪商カサンドロスがユリアティエルの正式な所有者となることが決まる。

ここに売られてから、一月と二日ほど後のことだった。

そして、いよいよ明日、代金と引き換えに正式に商品として受け渡されると決まった夜のこと。
シャイラックは強硬手段に出た。



ゴツッ

鈍く、大きな音が室内に響く。
と同時に、呻き声を上げながら頭を押さえた見張りの男が、地面に倒れ込んだ。

血のついた大きな釘打ち棒を手にしたまま、シャイラックは笑う。

「・・・よう。やっと会えたな」

嬉しそうに笑うその顔には、見張りの男を殴った際についたのであろう返り血がべっとりと、頬に、額に、唇に、貼りついて。

その光景に、ユリアティエルは声も出ない。

「ちょっと待ってろ。こいつのポケットに鍵がある筈だから・・・」

そう言って、シャイラックは屈みこみ、既に動かなくなった見張りのズボンのポケットをまさぐった。

「ああ、これだ」

嬉しそうに呟きながら手にした鍵が、しゃらり、と音を立てる。

シャイラックはゆっくりと檻の正面、その入口の前に来た。
手にした鍵を顏の高さにまで上げると、見せびらかすかのように、しゃりんしゃりんと鳴らした。

「待たせたな。お前が恋しくて死ぬかと思ったぜ。・・・俺の奴隷ちゃん」

鍵を錠に差し込む音が聞こえる。
ユリアティエルの身体は恐怖で凍りついた。
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