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ヴァルハリラ
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「ああ、おかしい。あんなに慌てちゃって」
ヴァルハリラは口を抑えてくすくすと笑う。
ノヴァイアスは既に屋敷を出て、馬に乗ったようだ。
「今更、急いでも無駄なのに」
遠ざかる蹄の音を聞きながら呆れたように呟いた。
「そんなに簡単に諦められないみたいね。まあ、能力はある男だから何とか出来ると思いたいのかしら」
窓辺に目を向け、眩しそうに目を細める。
「普通は一日半かかる距離を半日で来たくらいだものね。同じくらいかかるとして、あの屋敷に着くのは夜の筈だわ。さあて、待ち人はまだいるかしら?」
楽しげな笑みを浮かべながら椅子から立ち上がると、サイドテーブルに置いてあったベルを鳴らした。
現れたメイドに、外出のための準備をするよう言いつける。
「下らない用事も済んだことだし、気分転換に愛しい方のお顔を見てくるわ。着替えを準備して」
あの憎い女に少しは痛い目を見させられたかと思うと、自然と心が高揚する。
豪奢なドレスに身を包み、綺麗に髪型を整えてもらううちに自然と鼻歌を口ずさんでいる。
結婚式まであと少し。
あと少しで、あの方が手に入る。
幼い時から憧れていた貴方。
貴方の隣に立つのは自分だとずっと言い聞かせてきた。
なのに、病弱だからと候補にも挙げてもらえず、あの泥棒猫に掻っ攫われる形になって。
私、とても悲しかったの。
悲しくて悲しくて、死にかけたくらい。
あら? 本当に死んじゃってたかしら?
五年という期限つきでチャンスが与えられた時は上手くいくかどうか心配したけれど。
契約に伴い、少しばかり力を分けてもらったお陰で、思っていたよりもすんなりと事が運んだわ。
あとは。
あとは初夜を待つだけ。
あの方の精をこの身に受ける日をただ待つだけ。
そうすれば私の願いは全て叶う。
ああ、楽しい。
真実の愛がやっと実るんですもの。
ねぇ、そうでしょ?
愛しい私の婚約者さま。
執務中だという警護の者の声も無視して扉をノックする。
相手の返事が来る前に扉に手をかけ大きく開けば、目の前にある執務机には書類の山に囲まれている愛しい婚約者の姿があった。
「ご機嫌よう、カルセイランさま」
「・・・ああ、君か」
ヴァルハリラを見上げる王太子の眼は、どろんと濁って光がない。
「お仕事、ご苦労様です。そろそろ休憩しません? わたくし、カルセイランさまとお茶が飲みたいわ」
「・・・見て分かると思うが、今日はいつにも増して忙しい。悪いが茶を飲む時間は・・・」
カルセイランの昏い眼差しにも頓着せず、歌うように朗らかに、ヴァルハリラは王太子の言葉を遮った。
「あら、だったら益々ちゃんと休憩しないといけませんわ。体を壊したりしたら大変」
「・・・執務中に突然来られるのは困ると前も言った筈だが」
「ご遠慮なさらないで。大丈夫、貴方のお気持ちはちゃんとわかっておりますから」
カルセイランには『傀儡』に加えて『魅了』もかけてある。
だけど何故だか『魅了』は効果がすぐに弱まるから、こうして会いに来ては重ねがけをしなくてはならない。
魔力を持っていないのに、耐性はこんなにあるなんて、本当に凄いお方。
感心してしまうわ。
そんな事を考えながら、ヴァルハリラは借りた力を使って『魅了』を上書きする。
「・・・そうだな。少し休憩しようか」
「嬉しい!」
言を翻して一緒にお茶を飲むことに同意したカルセイランは、しかしそれでも大して嬉しそうには見えない表情で椅子から立ち上がる。
「・・・そういえば、先ほどの書類で興味深い報告があって・・・」
「難しいお話は止めにしましょう? せっかくの休憩ですもの」
カップを手に取りながら、にこやかにカルセイランの話を遮る。
「君の意見を聞きたいと思ったのだが」
「政治の世界に興味はありませんわ。カルセイランさまが良い様になさったらよろしいのでは?」
「・・・そうか」
お茶を口に含みながら、向かいに座る愛する婚約者を上機嫌で眺める。
目を離すと仕事ばかりしてしまう真面目なカルセイランに、こうして現れては休ませるのが、優しくて愛情深い婚約者としての務めだ。
油断すると休憩中も仕事の話をしようとするから、こちらとしても気が抜けない。
だいたい仕事の話なんか持ち出されても、女の自分に分かる筈がないというのに。
ヴァルハリラは、いつも流行りのドレスやアクセサリー、最近できたお店の話などをカルセイランに話して聞かせる。
勿論、これはデートやプレゼントのアピールだ。
忙しいカルセイランは、そんな時間すら取れないようで、今のところそんな機会はないけれど。
「ヴァルハリラ嬢。こうして毎日のよう来られてもそうそう時間は取れない。執務に差し障りが出てしまう」
「まあ、カルセイランさまったら。そんな照れ隠しを仰らなくてもよろしいのですよ。ご安心なさって。ちゃんと明日も参りますからね」
そう言ってヴァルハリラが微笑むと、カルセイランは疲れた表情で笑みを返した。
『魅了』の効果はいつもあまり保たない。
借りている力がそんなに弱い筈もないのに、不思議だわ。
まあ、お陰でこうして毎日のように会いに来れるけどね。
それにしても、本当に真面目なお方。
お茶をさっさと飲んだら、また仕事に戻られてしまったわ。
次はどんな理由を作って休ませてあげようかしら。
私みたいな気配りが出来る女が婚約者になって、きっと良かったと思ってらっしゃるわ。
あの女はこういう気遣いが全然出来ていなかったもの。
お忙しい殿下を捕まえては、一緒になって政務の話なんかしてたって言うじゃない。
ああ、本当に。
殺しても飽き足りないくらい使えない女。
ノヴァイアスの手から取り上げる事にして良かったわ。
この手でとどめを刺せないのは残念だけど。
サルトゥリアヌスなら、上手くやってくれるわよね。
だってアレは人の心など持たない生き物だもの。
ヴァルハリラは口を抑えてくすくすと笑う。
ノヴァイアスは既に屋敷を出て、馬に乗ったようだ。
「今更、急いでも無駄なのに」
遠ざかる蹄の音を聞きながら呆れたように呟いた。
「そんなに簡単に諦められないみたいね。まあ、能力はある男だから何とか出来ると思いたいのかしら」
窓辺に目を向け、眩しそうに目を細める。
「普通は一日半かかる距離を半日で来たくらいだものね。同じくらいかかるとして、あの屋敷に着くのは夜の筈だわ。さあて、待ち人はまだいるかしら?」
楽しげな笑みを浮かべながら椅子から立ち上がると、サイドテーブルに置いてあったベルを鳴らした。
現れたメイドに、外出のための準備をするよう言いつける。
「下らない用事も済んだことだし、気分転換に愛しい方のお顔を見てくるわ。着替えを準備して」
あの憎い女に少しは痛い目を見させられたかと思うと、自然と心が高揚する。
豪奢なドレスに身を包み、綺麗に髪型を整えてもらううちに自然と鼻歌を口ずさんでいる。
結婚式まであと少し。
あと少しで、あの方が手に入る。
幼い時から憧れていた貴方。
貴方の隣に立つのは自分だとずっと言い聞かせてきた。
なのに、病弱だからと候補にも挙げてもらえず、あの泥棒猫に掻っ攫われる形になって。
私、とても悲しかったの。
悲しくて悲しくて、死にかけたくらい。
あら? 本当に死んじゃってたかしら?
五年という期限つきでチャンスが与えられた時は上手くいくかどうか心配したけれど。
契約に伴い、少しばかり力を分けてもらったお陰で、思っていたよりもすんなりと事が運んだわ。
あとは。
あとは初夜を待つだけ。
あの方の精をこの身に受ける日をただ待つだけ。
そうすれば私の願いは全て叶う。
ああ、楽しい。
真実の愛がやっと実るんですもの。
ねぇ、そうでしょ?
愛しい私の婚約者さま。
執務中だという警護の者の声も無視して扉をノックする。
相手の返事が来る前に扉に手をかけ大きく開けば、目の前にある執務机には書類の山に囲まれている愛しい婚約者の姿があった。
「ご機嫌よう、カルセイランさま」
「・・・ああ、君か」
ヴァルハリラを見上げる王太子の眼は、どろんと濁って光がない。
「お仕事、ご苦労様です。そろそろ休憩しません? わたくし、カルセイランさまとお茶が飲みたいわ」
「・・・見て分かると思うが、今日はいつにも増して忙しい。悪いが茶を飲む時間は・・・」
カルセイランの昏い眼差しにも頓着せず、歌うように朗らかに、ヴァルハリラは王太子の言葉を遮った。
「あら、だったら益々ちゃんと休憩しないといけませんわ。体を壊したりしたら大変」
「・・・執務中に突然来られるのは困ると前も言った筈だが」
「ご遠慮なさらないで。大丈夫、貴方のお気持ちはちゃんとわかっておりますから」
カルセイランには『傀儡』に加えて『魅了』もかけてある。
だけど何故だか『魅了』は効果がすぐに弱まるから、こうして会いに来ては重ねがけをしなくてはならない。
魔力を持っていないのに、耐性はこんなにあるなんて、本当に凄いお方。
感心してしまうわ。
そんな事を考えながら、ヴァルハリラは借りた力を使って『魅了』を上書きする。
「・・・そうだな。少し休憩しようか」
「嬉しい!」
言を翻して一緒にお茶を飲むことに同意したカルセイランは、しかしそれでも大して嬉しそうには見えない表情で椅子から立ち上がる。
「・・・そういえば、先ほどの書類で興味深い報告があって・・・」
「難しいお話は止めにしましょう? せっかくの休憩ですもの」
カップを手に取りながら、にこやかにカルセイランの話を遮る。
「君の意見を聞きたいと思ったのだが」
「政治の世界に興味はありませんわ。カルセイランさまが良い様になさったらよろしいのでは?」
「・・・そうか」
お茶を口に含みながら、向かいに座る愛する婚約者を上機嫌で眺める。
目を離すと仕事ばかりしてしまう真面目なカルセイランに、こうして現れては休ませるのが、優しくて愛情深い婚約者としての務めだ。
油断すると休憩中も仕事の話をしようとするから、こちらとしても気が抜けない。
だいたい仕事の話なんか持ち出されても、女の自分に分かる筈がないというのに。
ヴァルハリラは、いつも流行りのドレスやアクセサリー、最近できたお店の話などをカルセイランに話して聞かせる。
勿論、これはデートやプレゼントのアピールだ。
忙しいカルセイランは、そんな時間すら取れないようで、今のところそんな機会はないけれど。
「ヴァルハリラ嬢。こうして毎日のよう来られてもそうそう時間は取れない。執務に差し障りが出てしまう」
「まあ、カルセイランさまったら。そんな照れ隠しを仰らなくてもよろしいのですよ。ご安心なさって。ちゃんと明日も参りますからね」
そう言ってヴァルハリラが微笑むと、カルセイランは疲れた表情で笑みを返した。
『魅了』の効果はいつもあまり保たない。
借りている力がそんなに弱い筈もないのに、不思議だわ。
まあ、お陰でこうして毎日のように会いに来れるけどね。
それにしても、本当に真面目なお方。
お茶をさっさと飲んだら、また仕事に戻られてしまったわ。
次はどんな理由を作って休ませてあげようかしら。
私みたいな気配りが出来る女が婚約者になって、きっと良かったと思ってらっしゃるわ。
あの女はこういう気遣いが全然出来ていなかったもの。
お忙しい殿下を捕まえては、一緒になって政務の話なんかしてたって言うじゃない。
ああ、本当に。
殺しても飽き足りないくらい使えない女。
ノヴァイアスの手から取り上げる事にして良かったわ。
この手でとどめを刺せないのは残念だけど。
サルトゥリアヌスなら、上手くやってくれるわよね。
だってアレは人の心など持たない生き物だもの。
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