【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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逃亡と追跡

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別邸へと向かったユリアティエルは、足取りを辿られないように馬車をいくつも乗り換え、五日ほどかけて到着した。

隔離された場所であるこの別邸には、王都での出来事などは一切、伝わってこない。

居場所を悟られないようにするため、ジークヴァインとの接触も極力控えている。

元々この別邸を管理していた老夫婦が、今はユリアティエルの身の回りの世話や雑用をしてくれることになった。

「お嬢さま、そのような事は私がやりますから・・・」

野菜の皮むきを手伝おうとナイフを手にしたユリアティエルを慌てて止めようとしたのは妻の方のエイドリアンだ。

「やらせてちょうだい。もしもの事を考えてなるべく自分で出来るようにしておきたいの」

何度もお願いした結果、エイドリアンはユリアティエルの希望を尊重し、そのおぼつかない手つきにハラハラしつつも一つずつ丁寧に家事を教えてくれる。

元来、ユリアティエルはかなりの努力家だった事もあり、少しずつ一通りの家事をこなせるようになっていった。

夫のハンクスは野草や木の実には詳しく、よくユリアティエルを山や森に連れて行っては、見分け方や食べ方などを教えてくれた。

カルセイランを思い出さない日はなかったが、優しく親切な管理人夫婦のお陰で、王都で受けたショックから少しずつ回復しつつあった。

そんな穏やかな日々も、続いたのはたったの半年だった。

それまで何か所かを経由して届いていた父からの手紙が、三か月を過ぎたあたりからぱったりと来なくなったのは、その兆しだったのだろうか。

不安を覚えながらも、こちらから連絡を取ることは出来ない。
それは他ならぬ父から、厳しく止められていたから。

最近の情勢が全くわからないこともあって、不安ばかりが募る毎日が続いた。

そんなある日のこと。
部屋をノックする音がした。
扉を開ければ、エイドリアンが緊張した面持ちで立っている。

「お客さまがいらしています。・・・お嬢さまに会いたいと」

思わず息を呑み、自分の喉からひゅっと音が聞こえた。
知らず、身体が震える。

客ですって? 一体、誰が?
この場所は、王宮も把握していない場所。
しかも、私がここにいることはお父さましか知らない筈なのに。

そのまま黙りこくったユリアティエルを、エイドリアンは心配そうに見つめる。
深い事情は知らせていないが、エイドリアンも突然の来客に戸惑っている様だ。

「・・・その客人は、今どちらに?」

やっとの思いで振り絞った声は震えている。

「中に入れていいものかどうか迷いましたので、玄関先にてお待ち頂いています」
「そう・・・ありがとう。今行くわ」

生憎、ハンクスは買い出しで麓の町に降りている。
この屋敷には今、ユリアティエルとエイドリアンしかいないのだ。

来客とは、一体誰なのか。
ユリアティエルは、震える足取りで玄関へと進んだ。

果たして、玄関先で佇んでいたのは、ユリアティエルにとって意外な人物で。
或いは、このような状況でなければ、意外でもなんでもなかった人物で。

彼はユリアティエルの姿を認めると、ぱあっと光が射したかのように優しげに笑う。
その爽やかな笑顔を縁取るように、艶やかな群青の長い髪が風でさらりと揺れる。

カルセイランの親友で、幼い時から彼に仕えていた腹心の部下で。
カルセイランが信を置き、気兼ねなく話すことが出来る大切な幼なじみ。

「・・・ノヴァイアスさま」

ユリアティエルの口が彼の名を呼ぶと、ノヴァイアスの口元は嬉しそうに綻んだ。

「ユリアティエルさま。お久しぶりでございます」

そうして彼はゆっくりとユリアティエルに近づいた。

「王太子殿下からの大事な言伝を預かっておりまして。こうして急ぎやって来た次第にございます」






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