上 下
22 / 22

エピローグ

しおりを挟む


「んふふ、ケーキショップのオーナーの夫がいるって最高ね」


セシリエは、ご機嫌に新作のケーキをパクりと頬張った。


結婚式を挙げてからふた月。

新妻となったセシリエは、元々の清楚さに色っぽさが加わり、更に魅力を増した。

そんな女性がケーキを食しながら、ほう、と溜め息を吐くのは、なかなかに悩ましい光景である。


そこに、別の皿を手にしたエーリッヒが現れ、愛する妻に声をかける。


「お味はどうですか、奥さま?」

「たいへん美味しゅうございますわ、旦那さま」

「実はもう一皿あるのですが、こちらも試してみますか?」

「喜んで!」


セシリエがいるのは夫エーリッヒのケーキショップ。
そう、エーリッヒが考案した倉庫改装型ショッピングモールの一画に潜りこませてもらった(挙句2年分のテナント料をタダにしてもらった)例の店だ。


本当は普通に街中で店を構えるつもりだったエーリッヒは、その時のシュミレーションもしっかりやっていて、諸経費とか予想売り上げ額とか、あれこれと算出していた。

その時はじき出した利益予想額と比べると、今は桁違いの売り上げを出しているという。

ショッピングモール内にある唯一のケーキショップという要素は過分に影響しているだろう。
けれど、エーリッヒの営業努力も大きいとセシリエは思っている。


定番のケーキに加え、季節ごとの味を作り出して特別感を演出したり、今日の様に新作の研究も怠らない。


さすが「食べる専門」を自称するだけの事はある。

こんなの食べてみたい、こんな形のケーキがあったらな、とケーキへの思いは尽きる事なくあるエーリッヒは、自分が見込んで頭を下げまくってリクルートしたパティシエに、それらの要望を余すところなく伝える。

そしてそのパティシエは、無茶振りが過ぎると苦笑しながらも彼の要望に応えようと頑張るのだ。

結果、他所ではないオリジナルのケーキも多く並ぶようになり、それが更に話題を呼ぶ。
この店のケーキに惚れ込んで、弟子入り希望者まで現れ始めているとか。


そんな大人気のケーキショップの新製品をいち早く、しかも列に並ぶ事もなく食せるのは、やはりオーナーの妻の特権だろう。


「うふふ、幸せ」


蕩ける様な笑顔でケーキを味わう妻、それを見る夫の笑顔もまた、甘く優しく蕩けている。


「僕も。すっごく、すっごく幸せ」

「あら、私の方がもっと幸せよ。だって、あなたみたいな素敵な人と結婚できたんだもの」

「いえいえ、それを言うなら、セシを妻にできた僕の方がもっとずっと・・・」




―――甘いもの好きが集まるケーキショップで、この時だけブラックコーヒーを頼む客が続出した理由は・・・言わずもがな。









【完】


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
しおり、お気に入り登録、エール、本当に嬉しくありがたく、毎日喜んでおりました。

話数サギ、温かく許していただき感謝です。結局、2話越えてしまいましたが、頑張ってまとめました。

また別作品でお会いできますことを。

冬馬亮









しおりを挟む
感想 147

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(147件)

あましょく
2023.05.05 あましょく

主人公の行く末よりネグレクトの被害者だった元婚約者の再生物語にハラハラワクワクしてしまった・・・じーんとくる良いお話しでした。
生物学上のクズ両親は報いを受けたし、順風満帆とは行かなくとも明るい未来であると良いな。

冬馬亮
2023.05.05 冬馬亮

温かい目で登場人物を見守ってくださり、ありがとうございます。

普通なら、平民落ちの上に船に乗せられるって、それなりのざまぁになる筈が、イアーゴの場合は解放になりました。

この後、彼にも幸せが待ってると思いたいですね。

解除
太真
2023.05.01 太真

エピローグ 完結おめでとうございます😉👍🎶楽しく拝読しました😃イアーゴは親の犠牲者かも😓良くも悪くも子供って周囲の影響を受けて育つ。大人が善悪や常識や倫理観を教えないと楽な方へ転がりがち➰➰⚾コロコロ良いお手本に習って報いのある人生を送って欲しいな~(* ̄∇ ̄*)楽しいお話しをありがとうございます😃。

冬馬亮
2023.05.01 冬馬亮

こちらこそ最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

親ガチャで言うと、イアーゴはかなりのハズレを引いてしまいましたね。きっとこの後に幸せを掴んでくれると思います。

解除
お祭り気分
2023.04.30 お祭り気分

完結おめでとうございます。㊗️💐🎊
イアーゴ、仕事だけでなく、恋愛して家庭を持ってほしい。
今のイアーゴなら魅力的に感じます。☺️
ケーキ屋さんなんですが、アレは甘すぎです、ケーキよりブラックコーヒーが馬鹿売れしますよ!😄☕☕☕

面白かったです。😃
また次回作を楽しみにしています。🍰🧋

冬馬亮
2023.04.30 冬馬亮

こちらこそ最後までお付き合いいただき、ありがとうございました♪

イアーゴ、きっとあの後に幸せをつかめたでしょうね。

エーリッヒの店では、ケーキよりもブラックコーヒーの方が売れた・・・?

解除

あなたにおすすめの小説

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。 伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。 「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」 「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」 しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。 微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。 ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。 「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」 彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。 ※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。