【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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ロクタン除け

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「へええ、ここが姉ちゃんのコンヤクシャの家かぁ。思ってたほど大きくないな」


ヘレナの上の弟の無遠慮な発言に、背後からぺしりと音がした。


兄弟の中で一番落ち着きのある下の弟が、すかさず兄の後頭部を叩いたのだ。


すみませんと謝る父の見慣れた姿、けれど今となっては懐かしいそれに、ヘレナの口元は綻んだ。


「もう、アストロったら相変わらずデリカシーがないわねぇ」

「なんだよ。そういう姉ちゃんだって、どうせ相変わらず地味なカッコ・・・あれ、してない・・・?」

「うわ、姉ちゃんが可愛くなってる」

「あらあらまあまあ、ヘレナったらユスターシュさまに可愛がっていただいてるのね」


ひと月ぶりのレウエル家の家族との再会。
嬉しさのあまり、ちょっとばかり張り切っておめかししたヘレナが大好きな家族を出迎えると、そんな誉め言葉が降り注いだ。

いつもは生意気な口しかきかない上の弟は、綺麗なワンピース姿のヘレナを見て、ぽかんと口を開けたまま絶句した。



さて、本日はヘレナの生家の者たちがユスターシュの屋敷に招待されている。

父オーウェン、母レナリア、長男アストロ、次男カイオス。
この4人にヘレナが揃えば、久しぶりのレウエル子爵家の勢ぞろいである。

病弱なレナリアはユスターシュの派遣した医師のおかげで体調がだいぶ良くなったものの、本当のところはまだ万全と言い難い。
だが、今日はただの団欒ではなく特別な事情があっての屋敷への招待だ。そのため短時間の訪問という形で、レナリアもここに来てもらった。


きっかけはヘレナのこんな発言。


「そういえば、どうしてロクタンはお城には突撃してるのに、こっちには来ないんでしょうね」


飽きもせず、今も意味のない午後からのお城突撃訪問を繰り返すロクタンの話を聞いて、ヘレナがふと思った疑問だった。
そうなのだ。実はロクタンは、まだユスターシュの執務室にやって来ているのだ。

最初こそロクタンの対応に疲弊していたユスターシュだったが、どうやら彼もコツを掴んだらしく、最近は30分ほど一緒にお茶をして円満にお帰り頂いているらしい。

怪我の功名というか何というか、そのために流行りのお茶や人気のスイーツにも詳しくなったユスターシュだ。
おかげでヘレナもちょくちょくお土産でケーキなどを買ってもらえたりする。そのせいだろうか、最近少しぷくぷくしてきた気がするけれど。


さて、話がそれてしまったが、なぜロクタンがこの屋敷に突撃してこないかと言うと、その理由はこの屋敷の仕組みにあった。


「登録した人しかこの家を認識できない・・・・?」

「そう。あと登録した人が同伴した人物も、その時だけは識別できる様になってるよ。ヘレナがここに最初に私と一緒に来た時みたいにね」


平和な頭のヘレナには考えもつかないが、どうやら裁定者の命を狙う者や身柄を拘束しようと企む者などは一定数いるらしい。それを防ぐために昔から王家にのみ伝わる防衛システムなんだとか。

つまり、ロクタンはユスターシュの屋敷には来たくても来れない。
認識出来ない、要は見えないのだ。それで毎日、お城に来ては玉砕していたのだろう。


「一度登録したら、後はこちらから解除しない限りここに来ることができるよ・・・ああ、そうだ。あなたの家族も登録しておかないとね。緊急事態とかの際、いざ会おうとして会えなかったりしたら困るでしょ」


そういう訳で、ある週末の爽やかな青空の下、オーウェンたちはやって来た。
ちなみに、来るときは屋敷の執事が迎えに行った。執事はもちろん登録済みだが、馬車そのものも登録してあるため、それに乗って屋敷の門をくぐるという裏ルート(どこがだ)もアリらしい。

いつもなら家で休みながら家族の帰りを待つレナリアも今日ここに来たのは、その為だった。


「手続きは簡単だよ。ここに手をかざしてくれれば良いんだ」


門のすぐ横と、屋敷の入り口のすぐ隣、その二か所に認証システムが組み込まれた小さな石柱が立っている。

一か所だけ淡く光る灰色の石がはめ込まれていて、そこに登録したい人物が手をかざす。
それを後で屋敷の主であるユスターシュが正式に認証したら、登録完了だ。


「良いなぁ、カッコ良いなぁ。登録した人しかこの家を見つけられないとか、どんだけだよ」


どうやら子どもには堪らなく格好よく映るらしいこのシステム。

アストロとカイオスは、目をキラキラさせながら石柱を見つめていた。

しかし、意外にもここにもう一人。
子どもでもないのに、キラキラした・・・いやよく見ると全然キラキラしていない。
死んだ魚の様な光の消えた目で石柱を見ている人物がいた。


「羨ましい・・・家にも、こんな認証システム欲しい・・・っ」

「お父さま・・・」


言っている事はアストロたちとほぼ同じ。
だが、切実さがひしひしと伝わって来るのは何故なのか。


「家にもこれがあれば・・・これがあれば・・・ロクタン除けになるのにぃぃぃ・・・っ!」

「・・・」


ヘレナは、傍に立つ下の弟カイオスにこう尋ねた。


「もしかして・・・ロクタンって家にも押しかけて来てるの?」

「うん、夕方近くに毎日」


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