【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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うっかり親切 ずっと迷惑

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ヘレナとロクタンとの出会いは、街で開催された花祭りの広場だった。

その時、ヘレナは5歳、ロクタンは10歳。


ダンスの最中に派手にすっ転んだロクタンに、うっかり手を差し出してしまったのが始まりだった。




花祭りが最大に盛り上がるのは、正午ちょうどから午後いっぱいまで広場で行われるダンスの時間だ。


この時に踊った恋人たちは、必ず幸せになれると言われていた。


さて、ダンスと言っても手を繋いで踊るものではない。
一人で踊っても何も問題はなく、言い伝えを信じて踊る恋人たちも、向かい合って同じステップを踏むのが普通だった。


そういう訳で、ダンスには大人も子どもも参加する。もちろん恋人のあるなしも関係なく。


更にここ十数年は、このダンスの言い伝えが更に進化して、恋人たちのプロポーズの場ともなっていた。


つまり、ダンスの前にプロポーズをして、言われた方が相手の手を取ると、プロポーズを了承したという事になるのだ。


そんな明るい雰囲気の広場で、ダンスの輪の中に入って来るなり盛大にすっ転んだのがロクタン、10歳であった。


お忍びだったのか、それともはぐれたのか、転んで大泣きするロクタンに、かけ寄る大人はいない。

父親と一緒に祭りを見に来て、同じく踊りの輪に入っていたヘレナは、目の前でギャン泣きするロクタンに「だいじょうぶ?」と声をかけた。


そして手を出して、「ほら、たてる?」と言ったのだ。


「・・・」


ピタリと泣き止んだロクタンは、目の前に差し出された手をしげしげと眺める。


そして、その手を取ると大きな声でこう言った。


「お前の名は何と言うのだ?」


ヘレナとしては立ち上がるのを助ける為に手を伸ばしたのだが、ロクタンはその手を握ったまま座って動こうとしない。


ロクタンの周りで踊っていた人たちは、ちょっと迷惑そうにチラ見しながら、ダンスを続けている。


まだ5歳のヘレナでも空気は読めた。

皆、さっさと立てよと目が言っている。
なのに、ロクタンはじっとしていてまだ動かないのだ。


ヘレナは父と顔を見合わせた。


もういっそ、この場から離れたくなったヘレナだが、ロクタンが手をしっかりと握っているから逃げられない。


「ほら、たって」

「名前は何だと聞いている」

「・・・ヘレナだよ」

「そうか、ヘレナか。僕はロクタンだ」


ここでようやく、ロクタンは立ち上がる。


ホッとしたヘレナが、手を離そうとしたら。


「・・・いた・・・っ!」


更に強く握りしめられた。


そして、とんでもない言葉が聞こえてきたのだ。


「良いだろう。プロポーズを受けてやる。ヘレナを僕の奥さんにしてやろう」

「「・・・へ?」」


ヘレナと、ヘレナの父の声がキレイに重なる。

だが、目の前で驚く親子の姿に全く気づいていないロクタンは、得意げにこう続けたのだ。


「伯爵家の僕に結婚を申し込むとは、身の程知らずな女だな。一生ありがたがって僕を大切にするんだぞ」

「申し込んでませんから!」

「ませんから!」


再び親子の声がハモったが、ご存知のようにこの日のロクタンの勘違いはその後も続く。


「照れなくても良い。さあ、夫婦の誓いのちゅーをしようではないか」

「「しませんってば!」」


すぐさま、ヘレナの父オーウェンが娘を抱えて大急ぎで走り去った事は言うまでもない。



知らない人にうっかり親切にするものではないとヘレナが学んだ日だった。






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