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何か足りない
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ーーー 夕食はハンバーグに ーーー
ちょうど食べたかったものをユスターシュがドンピシャでリクエストしてくれた事もあり、ヘレナは昼間からずっと夕食の時間が楽しみで仕方なかった。
テオに許可をもらった区画を鍬で耕している時も。
庭師のおじいちゃんに野菜の苗の相談をした時も。
昼から王城に出かけたユスターシュをエントランスで見送った時も。
そう、ずっとウキウキしていたのだ。
だが、楽しみな事がある時ほど、それを邪魔する事も同時に起こるもので。
「・・・まだ帰って来られないのね・・・」
予定外の事が起きて帰宅の時間が遅れる ーーー そんな知らせが届いたのが午後遅くになってからのこと。
それでも、陽が沈んでからはずっとソワソワしながら馬車が戻るのを待っていた。
けれど、いつまで待っても、ユスターシュが帰って来る気配はなく。
とうとう夕食の時間になってしまう。
食事の時間を1時間遅らせてもらって。それから更に30分遅らせてもらって。
けれど、ユスターシュはまだ帰って来ない。
これ以上は、とテオからも勧められ、ヘレナはひとり食卓に着く。
・・・ユスターシュは裁定者だもの。そりゃあ忙しいわよね。
フォークでハンバーグをちょんちょんと突きながら、ヘレナはそんな事を考える。
分かってる。自分は屋敷で好きなことをしながら待っていただけだ。
だから、遅いとか待ってるのにとか文句を言ってはいけない。ユスターシュだって、好きで仕事に行っている訳ではないのだから。
・・・いや、その実もしかして。
・・・好きで行ってたりして。
・・・まさかのワーカホリックだったりして。
ヘレナの脳裏に、高笑いをしながら書類に押印するユスターシュの姿が浮かんだ。
処理し終えた書類を手に取り、床一面にばら撒くと、こう叫ぶのだ。
「こんな枚数では足りぬ! もっとだ! もっと仕事を寄越せぇっ!」
・・・
ふう、とヘレナは溜息を吐いた。
本当なら、ここでユスターシュの突っ込みが入るのだ。
もともと一人で妄想していたのだ。ここで誰からも突っ込まれないのが当たり前なのだが、なんだろう、たった1日かそこらで突っ込みが入ることに慣れてしまったのだろうか。
「美味しい筈なのに・・・ひとりじゃ何だか味気ない・・・」
待ちに待ったハンバーグ。朝はあんなに楽しみだったのに。
肉汁ブシャーで、チーズかけのデミグラスソース。とても美味しく出来ている。
けれど、ユスターシュがいないだけで3割くらい味が落ちたように感じるのは何故なのか。
コックに申し訳ないと思いながら、最後の一口を食べ終わると。
「・・・ん?」
遠くから、微かに聞こえてきた馬の蹄の音。
ヘレナは慌ててナプキンで口を拭き、席から立ち上がる。
走らない様に気をつけてエントランスまで早歩きで出てみると。
外の馬車寄せで、ちょうど馬車から降りる所のユスターシュを見つける。
「ユスターシュさま」
少しくたびれた顔のユスターシュは、すぐにヘレナに気づき、手をひらひらと振る。
「ごめんね、遅くなって。ちょっと予定外の用事が・・・」
分かってます。
書類を床にばら撒いて高笑いする程、仕事が好きなんですよね。
「いや、だからなんで高笑い?」
ヘレナはにっこりと微笑む。
・・・ああ。
その突っ込みが欲しかったんです。
お帰りなさい、ユスターシュさま。
ちょうど食べたかったものをユスターシュがドンピシャでリクエストしてくれた事もあり、ヘレナは昼間からずっと夕食の時間が楽しみで仕方なかった。
テオに許可をもらった区画を鍬で耕している時も。
庭師のおじいちゃんに野菜の苗の相談をした時も。
昼から王城に出かけたユスターシュをエントランスで見送った時も。
そう、ずっとウキウキしていたのだ。
だが、楽しみな事がある時ほど、それを邪魔する事も同時に起こるもので。
「・・・まだ帰って来られないのね・・・」
予定外の事が起きて帰宅の時間が遅れる ーーー そんな知らせが届いたのが午後遅くになってからのこと。
それでも、陽が沈んでからはずっとソワソワしながら馬車が戻るのを待っていた。
けれど、いつまで待っても、ユスターシュが帰って来る気配はなく。
とうとう夕食の時間になってしまう。
食事の時間を1時間遅らせてもらって。それから更に30分遅らせてもらって。
けれど、ユスターシュはまだ帰って来ない。
これ以上は、とテオからも勧められ、ヘレナはひとり食卓に着く。
・・・ユスターシュは裁定者だもの。そりゃあ忙しいわよね。
フォークでハンバーグをちょんちょんと突きながら、ヘレナはそんな事を考える。
分かってる。自分は屋敷で好きなことをしながら待っていただけだ。
だから、遅いとか待ってるのにとか文句を言ってはいけない。ユスターシュだって、好きで仕事に行っている訳ではないのだから。
・・・いや、その実もしかして。
・・・好きで行ってたりして。
・・・まさかのワーカホリックだったりして。
ヘレナの脳裏に、高笑いをしながら書類に押印するユスターシュの姿が浮かんだ。
処理し終えた書類を手に取り、床一面にばら撒くと、こう叫ぶのだ。
「こんな枚数では足りぬ! もっとだ! もっと仕事を寄越せぇっ!」
・・・
ふう、とヘレナは溜息を吐いた。
本当なら、ここでユスターシュの突っ込みが入るのだ。
もともと一人で妄想していたのだ。ここで誰からも突っ込まれないのが当たり前なのだが、なんだろう、たった1日かそこらで突っ込みが入ることに慣れてしまったのだろうか。
「美味しい筈なのに・・・ひとりじゃ何だか味気ない・・・」
待ちに待ったハンバーグ。朝はあんなに楽しみだったのに。
肉汁ブシャーで、チーズかけのデミグラスソース。とても美味しく出来ている。
けれど、ユスターシュがいないだけで3割くらい味が落ちたように感じるのは何故なのか。
コックに申し訳ないと思いながら、最後の一口を食べ終わると。
「・・・ん?」
遠くから、微かに聞こえてきた馬の蹄の音。
ヘレナは慌ててナプキンで口を拭き、席から立ち上がる。
走らない様に気をつけてエントランスまで早歩きで出てみると。
外の馬車寄せで、ちょうど馬車から降りる所のユスターシュを見つける。
「ユスターシュさま」
少しくたびれた顔のユスターシュは、すぐにヘレナに気づき、手をひらひらと振る。
「ごめんね、遅くなって。ちょっと予定外の用事が・・・」
分かってます。
書類を床にばら撒いて高笑いする程、仕事が好きなんですよね。
「いや、だからなんで高笑い?」
ヘレナはにっこりと微笑む。
・・・ああ。
その突っ込みが欲しかったんです。
お帰りなさい、ユスターシュさま。
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