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一波乱のその後は
しおりを挟むキャンデール子爵家は、爵位を子爵位から男爵位へと降爵した後に縁戚の者が継承する事になった。
元キャンデール子爵一家は平民に落とされた。夫人は実家に戻ろうとしたが拒否された為、夫と運命を共にするしか道はない。
下位の子爵とはいえ貴族は貴族。しかも、悪どい手口を使う事を厭わない性格ゆえに、それなりに高収入で贅沢な暮らしを満喫していた。そんな彼らの先行きは暗澹たるものだ。
馬鹿なそんな筈はと現実逃避する元子爵、誰かに助けてもらう気満々で自分で何かするつもりは更々ない元子爵夫人、『あの時に手を引いておけば』と項垂れる嫡男と、そして未だ現状を把握していない腹ペコぷくぷく娘。
財産と地位を失い、身一つになった今、彼らが生き延びる道は、とんでもなく険しい。一番お金を稼げるであろう嫡男ヒクソンが、家族を見限って姿を消す日も、きっとそう遠くないだろう。
だが、彼らが今後どうなろうと、あるいは何をしようと、ラエラに危害を加えようとしない限りヨルンは手を出さない。もちろん監視は続けるけれど、それだけだ。
「・・・あの時わたくしの目の前で大事件が起きていたのよね。最初に受け取った飲み物の中に薬が入っていたのでしょう? 殿下が迅速に行動して下さったお陰ですぐに解決したけれど、下手をしたらヨルンさまがその媚薬入りワインを飲んでいたかもしれないと思うと、何だか恐ろしくて・・・」
件の夜会から二週間後。
ヨルンに媚薬を盛って既成事実を作るというキャンデール子爵家の奸計は、他でもないそのヨルンによって、いともあっさりと破られたが、ラエラはその事を知らない。
媚薬を盛られたとされる第三王子のすぐ隣にヨルンはいた。そういう段取りだったから当たり前なのだが、裏事情を知らないラエラは、ヨルンに何事もなくてよかったと心の底から安堵する。そんなラエラが愛しくて、ヨルンは優しい視線を注ぐ。
アッシュの婚約者としてしっかりしなくては、と常に気を張っていた頃と違い、今のラエラのなんと気の抜けていることか。自分はこんなに甘ったれた性格だったろうかと、時折りラエラ自身が不思議に思ってしまうくらいヨルンに頼り、安心しきっている。
そして、そんなラエラを、ヨルンは愛情たっぷりの瞳で見つめるのだ。
「僕の心配をしてくれるなんて嬉しいです。でも大丈夫ですよ。あの件は、トライスルフ殿下がしっかり対応してくださいましたからね。薬の取り締まりも強化されるそうですし、これからはそう簡単に媚薬を入手できなくなる筈ですよ」
そう話すヨルンは、明日の爵位継承式をもって勤務先が変わる。
財務管理部から、第三王子の側近へと抜擢されたのだ。ラエラが聞いた話では、今回の媚薬の件で第三王子と共に行動し、その働きを高く評価されたのだとか。
ヨルンの能力の高さはラエラも認めるところで、それが他の、特に王族に評価されたのはとても喜ばしい事だ。
ただ、きっとこれからは忙しい日々が待っているのだろうと思うと、少し複雑な気持ちになる。
ただでさえ、明日からはロンド伯爵としての社交も始まるのだ。そこに、第三王子の側近という新しく重要な仕事が加わる。流石に優秀なヨルンでも、大変ではないだろうか。
だって、これでもヨルンは18歳になったばかりなのだ。
そう、ヨルンは今日―――
「ラエラさま? どうしました?」
考えこむラエラの前で、ヨルンが首を傾げた。
「なんでもありませんわ。ヨルンさま、あの、こちらを受け取ってくださいますか?」
ラエラは軽く頭を振ると、にっこり笑って持っていた包みを手渡した。
「これは」
「わたくしが内緒で商会に頼んでいた、ヨルンさまへの贈り物ですわ」
そう、今日はヨルンの18歳の誕生日。
もう、いつ渡せるか分からない贈り物が年々増えていく事はない。
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