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たぶん護衛のお助け人
しおりを挟む心を決めてしまえば、もう後は楽だった。
結婚するかしないかではなく、何歳までに結婚するかでもなく。
ラエラが気にかけるのは、誰と結ばれたいのか、なのだ。
そして、もしラエラがその『誰か』と結ばれる日が永遠に来ないというのなら、それは自分ではどうしようもない事で、でもだからと言って『別の誰か』を代わりにするつもりもなくて。
―――その考えに行きつくまであんなに悩むなんて、わたくしは人が思っているより『強い女』ではないのかもね。
そんな事を考えながら、ラエラはいつもの道を歩いていた。
ここ一年、仕事の行き帰りで使う馬車を、帰りだけ途中で降りて、ある区間を歩く事にしている。
馬車は先に進んでもらい、予め決めた場所で止まってラエラを待つ。そこからはまた馬車で屋敷まで帰るのだ。
御者には二度手間をかけてしまうが、社会勉強の為と言って、少しだがお金を渡してお願いを聞いてもらっている。
いつか来るかもしれない自分ひとりだけで生きていく日の為、と言っては大袈裟だし、やっている事が拙すぎるが、これで色々と学べているのも事実で。実際、切られていない丸のままの野菜なんて、ラエラは歩き途中の店先で初めて見たのだ。
働きに出てラエラは自分の無知を知った。
料理洗濯どころか、買い物でお金を自ら渡した事も、お茶を淹れる為にお湯を沸かした事もない。それまで、身の回りの事は全て侍女かメイドがやっていたから。
いつまでも、ただ守られるだけのお嬢さまではいられない。きっと結婚しないであろう自分は、出来る事をひとつでも増やしていかねばならないとラエラは思っている。
社会勉強の為と街中を一人で歩いているが、恐らくは父が付けたのだろう、密かな護衛が少し離れてラエラを見守っている。
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すらっと背が高く、きびきびとした動きをする男性だが、フードを深く被っている為、顔は見ていない。
けれど、困っているといつも必ず現れるお助け人を見るたびに、ラエラは何故かヨルンを思い出した。
ラエラの誕生日に薔薇が届くようになって四年。
ラエラは変わらず前アムナスハルト公爵夫人の世話係として働いていて、時折り訪ねて来てくれるアナベラとの友情も健在だ。
今は侯爵家に嫁いだ彼女は相変わらず華やかで美しく、社交界で聞いた話を世情に疎いラエラに教えてくれる。
暫く社交界から遠ざかっていたロンド伯爵夫妻が、先日、自邸でパーティを主催し、後継者の交代を発表したそうだ。
新しい後継者はもちろんヨルンで、嫡男だったアッシュの病気療養も同時に発表された。
リンダについては、その名前すら出る事はなく、そうなれば当然、あの時彼女のお腹の中にいた子についての言及がある筈もなく。
『まさか赤子ごと処分した・・・なんて事はないわよね』
そんな恐ろしい予想をアナベラが口にした時は、ラエラもつられて青くなっていた。
―――などと物思いに耽っていたからだろうか。
前方の建物の陰に誰かが潜んでいる事に、ラエラは全く気づかなかった。
ぐいっ
建物と建物の隙間から伸びた手がラエラの服を引っ張り、体勢を崩したラエラは、そのまま建物の陰へと倒れ込む。
明るい通りから一転。
暗さに目が慣れず、ラエラを引っ張りこんだ人物がよく見えない。ただ―――
―――小さい?
目の前に立つ黒い影が、座り込んでいるラエラより頭一つくらい高いくらいだ。
「か、金をよこせ・・・っ」
少し震えた幼い声と、微かに光って見えたナイフのような刃。
「き、聞こえないのか。金を、よこせよ。持ってるだろ、ほら、財布とか」
―――ええと、これは、泥棒・・・かしら? 物乞いとは違うわよね。だって何か光るものが・・・
混乱したラエラがどこかズレた事を考えていると、背後からぬっと現れた黒い影が、地面に座り込んでいたラエラの身体を抱き上げた。
―――あ、お助け人さん?
と、思ったと同時。
「―――ラエラさまに何をする」
目の前の小さな影に向かって、お助け人の拳骨が落ちた。
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