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シャルロッテは、いつだってシャルロッテ

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 ―――あの時の面白い女の子か?


 ぎくり


 思わず揺れた肩を見て、答えを察したのだろう、オスカーは「やはり」と笑った。


「シャルロッテは子どもの時から面白かったのだな」

「子どもの時から・・・って、今の私も面白いって事ですか?」

「だいぶ面白いな。いきなり契約結婚を申し込んだり、死んだフリして逃げようとしたり、追いかけてもなかなか捕まえられないし、やっと見つけたと思ったら木の上だし」

「っ、あ、あれはガトちゃんが・・・」


 思わず上げかけた反論の声は、中途半端に終わった。


 シャルロッテを抱きしめるオスカーの腕により力が籠もり、ぎゅうと胸元に顔が押し付けられて、それ以上は言えなかったからだ。


「・・・ちゃんと受け止められてよかった。目の前でが怪我をするところは見たくない」

「えと、あの、ゴメンナサイ・・・」


 頑張って隙間を作って、シャルロッテが謝罪の言葉を口にすると、オスカーは聞こえているのかいないのか、ぽつりと呟いた。


「女性には、昔から嫌な思いをさせられてきた」

「・・・へ?」

「1番古い記憶は、乳母の娘だ。『オスカーはアタシのもの』とか言って俺を独占したがって、嫉妬しては周りを牽制して、まるで俺がそいつに好意を持ってるみたいに吹聴して回って・・・乳母本人に問題行動はなかったが、早々に解雇して屋敷を去らせざるを得なかった。俺が8歳の時だ」

「8歳・・・そんな時から」

「メイドだって、何人解雇させたか分からない。茶会では令嬢たちに囲まれ騒ぎを起こされるし、だんだん手口は悪質になっていくし・・・媚薬も何度盛られそうになったことか」


 突然に始まった昔語りに、シャルロッテは戸惑いつつも相槌を打つ。


 やがてオスカーの話は、シャルロッテが初めて彼と出会ったあの公園での事になった。


 その日、オスカーは家族と避暑に来てまだ3日目だったと言う。

 だが街に到着した日に既に、同じホテルに宿泊していた貴族家の令嬢にロックオンされてしまい、翌日からどうやっているのか知らないが、オスカーの行く先々で遭遇するようになる。


 公園でも、偶然を装ってオスカーに近づき、一緒に散策しましょうと腕に手を絡めようとしてきた。


 最初から氷対応のオスカーだったが、いい加減に頭に来ていた事もあり、いつもよりも乱暴な言い方で断ったところ、あの時の行動に至ったらしい。


 オスカーにとっても一瞬のことで、一体何が自分の横を飛んで行って池ポチャしたのか分からなかったが、ベンチに座っていた女の子が、自分の胸元を呆然と見下ろし、それから慌てて池に向かって走って来たから、恐らくブローチなどの装飾品の類だろうと考えた。

 それをやった当人である令嬢は公園から立ち去ろうとしており、女の子は今にも池に飛び込みそうで。


 オスカーもまた被害者であるが、女の子に対して責任を感じた事もあり、すぐに池に入って探すことにした。


 そうしたら、だ。


『おにいちゃんっ、まってて、いま、たすけてあげるっ!』



 ―――は?


 そう思った時には、背中にどしんと衝撃が走った。そう、女の子がダイブしてきたのだ。


 衝撃で、ぐんっとオスカーの上半身が池の底に沈む。

 そのお陰とは言いたくないが、池の底に光る小さなブローチが視界に入った。


 見つけた、と思い、潜ってブローチを手に取って水面に顔を出せば。


『たすけてあげ・・・ぐばばっ、ごぼっごぼぼっ』


 目の前で女の子が溺れていた。








「うう・・・なんかもう・・・色々とスミマセン・・・」


 オスカーの回想を聞いたシャルロッテは羞恥で顔が真っ赤である。オスカーの腕の中に拘束されていなければ、両手で顔を覆いたいところだ。しかし残念かつ嬉しい事に今も絶賛抱っこ中である。


「いいんだ。背中は痛かったし、少し痣になったし、ちょっとばかり池の水も飲んだけど、シャルロッテの気持ちは嬉しかった。あんな風に、何の計算もなく俺に好意を示してくれる子は初めてだったから」


 その言葉に、え、と顔を上げると、オスカーと視線が合った。


「シャルロッテは大きくなってもシャルロッテだった。自分が死んだ事にしてまで俺のもとから去ったのも、君が俺から何の見返りも得る気がなかったから。それだけ純粋に俺を想ってくれてたから」


 オスカーにじっと見つめられ、シャルロッテの口から「ひょえ」と変な声が上がる。だがオスカーは意に介することなく、微笑みを浮かべながら「口づけても?」と尋ねた。


 けれど、聞いておきながら、返事をするより前に唇が降ってきて。



 ちゅ、と軽いリップ音の後、離れていった美しい顔は、嬉しそうに笑った。



「カイラン王国に・・・マンスフィールド公爵家の屋敷に、戻ってきてほしい。俺の愛しい奥さん」


 なんだかもう、色々といっぱいいっぱいだったシャルロッテは、ただコクコクと頷くしかできなかった。





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