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答え合わせをしよう

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 オスカーの腕の中、シャルロッテは顔を上げた。


「何回も・・・こちらに・・・?」


 恥ずかしいとか嬉しいとか、久しぶりに顔が見られたとか、そもそも何故ここにとか、私たしか死んだ事になってる筈とか、思うところは多々あれど、まず一番に引っ掛かった事を口にしてみる。


 オスカーは、シャルロッテを抱く腕の力を緩めることなく、ああ、と頷いた。


「あの支店にはもう5回行ってる。いや、回数だけならもう少し多くなるな。8日前にも行って出張でいないとまた・・言われて。今回宿泊日程を調整して、帰国する前にもう一度ここに来てみた。そしたら通りがかった公園で、木の上にいるシャルロッテを見つけて」

「え?」



 ―――何か色々とツッコミをいれたい発言が聞こえた気が・・・?



「あの、オスカーさま・・・?」

「なあ、シャルロッテ」



 2人同時に言葉が重なり、暫しの沈黙の後にオスカーが先を続けた。



「答え合わせをしようか」








 という訳で、先ほどまでシャルロッテが座っていたベンチに、2人は腰を下ろした。


 そうは言っても隣同士で横並びに座っている訳ではない。ベンチに座っているのがオスカーで、シャルロッテは彼の膝の上で横抱きにされている。


 シャルロッテは真っ赤な顔で抗議したのだが、オスカーが頑なに下ろそうとしないからだ。


「ようやく捕まえたのに、また逃げられたら困る」

「っ、だって、オスカーさまは・・・」


 ―――病気が治った私では扱いに困ると言っていたから。


「・・・なんでもないです」

 口から出かかって、けれど結局言わないまま胸の内に収め、シャルロッテは俯いた。


 そんなシャルロッテを、オスカーは少し高い位置から見下ろしながら、口を開いた。


「・・・シャルロッテ、まず、これだけは言わせてくれ」

「・・・はい」

「君が生きていてくれて嬉しい。薬が間に合って・・・アラマキフィリスが治って、本当によかった」

「・・・えっ?」


 驚いたシャルロッテが顔を上げた。見下ろしていたオスカーと視線が合う。オスカーは悲し気に眉根を寄せ、シャルロッテをじっと見下ろしている。


「俺が馬鹿で、臆病なせいで、君を傷つけた。治った事を嫌がられるなんて、考えただけでも辛かったろうに」


 そう言うと、オスカーはシャルロッテの髪に顔を埋め、小さな声で「すまない」と言った。





「・・・いつ、気がついたんですか?」


 暫しの沈黙の後、シャルロッテが口を開いた。


「ケイヒル伯爵たちが、君が亡くなったと話しに屋敷に来た時だ」


 気づくきっかけは、ミルルペンテだったとオスカーは言った。

 彼は薬師で、アラマキフィリスの特効薬のレシピを持っていて、けれど言葉が通じないからイグナートの通訳で薬草名などの解読が進められている聞いた時、何かが引っかかったそうだ。


 そして思い出した。シャルロッテがミルルペンテの手を握っていたのは、漂着したイグナートを助けたから。

 つまり、イグナートはミルルペンテに先んじて会っていた。


「おかしいだろう? 君の為に国を飛び出して薬を探しに行ったイグナート殿が、アラマキフィリスの特効薬を作れる薬師に出会っていながら手ぶらで帰るなんて」


 そして冷静になってから改めて思い返して、気がついた。ミルルペンテの手を握っていた時のシャルロッテが、手袋を外していた事を。ちらっと見えたその爪の色は―――


「悋気で別な事に気を取られ、その時は気づかなかった」


 苦笑するオスカーに、シャルロッテは「黙っていてごめんなさい」と言うと、オスカーは緩く首を横に振った。


「言いづらくさせたのは俺だ」


 オスカーは続けた。

 気づいてすぐにケイヒル伯爵家に向かったこと。
 辿りついた結論を話し、シャルロッテと会わせてくれるように頼んだこと。
 すると、シャルロッテがもうこの国にいないと告げられたこと。
 驚き理由を問えば、執務室でオスカーがこぼした呟きを聞いてしまい、彼の意に沿う為に死を偽装する決意をしたこと。


「薬の事を打ち明ける決意をして、執務室まで来てくれたと聞いた。なのに俺は・・・」



 シャルロッテは、ゆるゆると首を振った。そもそも病気前提で契約を提案したのはシャルロッテなのだ。


「伯爵が来て、シャルロッテが亡くなったと言った時、目の前が真っ暗になった。アラマキフィリスで、いつかこんな日が来ると分かっていたのに、いざ告げられて信じられなかった・・・信じたくなかった。君にずっと生きていてほしいと思った。その時になって、ようやく自分の気持ちに気づいたんだ・・・君が好きだと」


 目を見開くシャルロッテを前に、オスカーは続けた。


「だから、君が生きていると気づいた時、ケイヒル伯爵家に行って、会わせてほしいと頼んだ―――遅いと言われたが」


 病気が契約の前提だったとはいえ、シャルロッテが傷ついた事をケイヒル伯爵家の面々は静かに怒っていた。


 だから、彼らはシャルロッテが国から出て行った事だけを告げ、それ以上の詳細については口を噤んだ。


 本当にシャルロッテを望むのなら、自力で探し出し、きちんと気持ちを伝えるようにと。



「マンスフィールド公爵家の力をフルに使って、やっとトーベアナ王国の支店にまで行きついたのが君が出国してから4か月後。すぐに予定を調整して、船に乗って君に会いに来たのだが・・・」


 あいにくの出張でシャルロッテはいなかった。


 無理に開けたスケジュールでの中、滞在を伸ばすことは難しく、その時は大人しく出直す事にして。


 けれど2度目も会えず、3度目も空振り。


 こうも続くと、何か意図的なものを感じてしまうが、本店の商会頭であるケイヒル伯爵がこの件に関してオスカーに思うところがあるのは承知している為、大人しく出直し続けた。



 ―――もしかして、最初は事務方で働く予定だったのが買い付け担当になったのって・・・



 オスカーの独白を聞いて、シャルロッテもまたある結論に達する。だが、敢えて口には出さず、心の中に留めた。



「・・・答え合わせしたい事は、実はもう一つあるんだ。シャルロッテは、幼い頃に俺に出会ったと言っていたが」

「へ?」

「一つ、思い当たる記憶があった。池に飛び込んだ俺を助けると言って、俺の背中にダイブした面白い女の子、君はあの時の子か?」


 黒歴史でしかない自分の言動に言及され。


 シャルロッテは、ぎくりと肩を揺らした。








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