【完結】あなたと結ぶ半年間の契約結婚〜私の最後のお願いを叶えてくれますか

冬馬亮

文字の大きさ
上 下
39 / 54

シャルロッテの決意

しおりを挟む



 ―――治ったらいいのにとは思う。そうは思うんだが、特効薬が手に入った時、今のような気持ちや態度のまま、シャルロッテに接する事が出来るのだろうか―――






「あれはつまり・・・オスカーさまにとって、私の病気が治るのは好ましくないって事よね」



 時刻は既に深夜の12時をまわり、シャルロッテはベッドの中。

 照明は落とされて真っ暗な室内で、シャルロッテはよく見えもしない天井を見上げながら、ぽそりと呟いた。


 昼間、オスカーの執務室の前で漏れ聞こえた言葉が頭にこびりついて離れない。

 10時前には就寝したというのに、シャルロッテは未だベッドの中で悶々と寝返りを打ち続けては、どうしようかと頭を悩ませていた。


 ミルルペンテを連れて来たイグナートから、薬の存在をオスカーに打ち明けるか匂わせるかした方がいいと忠告された。

 アラマキフィリスの薬がすぐに製造可能かどうかは置いておいて、いずれ世に出てくるであろう薬にケイヒル家が関わっている事はすぐに知れる。

 今や親族ともなったオスカーが、薬に関する情報を妻や妻の実家以外から知るのは、とても失礼な行為に映るだろう。


 シャルロッテを大切にしてくれているからこそ、そんな無礼をしてはいけないとイグナートは言う。


『既に薬を飲んだって事までは言わなくてもいい。あれは確かにタイミングが悪かった。だがせめて、アラマキフィリスの薬がいずれ製造可能になるという情報は伝えておいた方がいい。その為にミルルペンテを連れて来て、オスカー殿にも会わせたんだ』


 伝えた時の時の反応で、それ以上を話すかそこで止めるかを決めていいのでは、それがイグナートの主張だった。そして、ケイヒル家の家族もそれに同意していると言う。


 シャルロッテはそれを尤もだと思った。

 シャルロッテ自身、オスカーに薬の件を黙っている事に良心の呵責を感じていたから。


 不安だったら一緒に話しに行ってやるとイグナートは言ってくれたが、言葉が通じないミルルペンテが一緒に来ているのだ。
 彼を部屋に残して兄に付き添ってもらうのはさすがに気が引け、シャルロッテは大丈夫と断って、ひとりオスカーに会いに行った。


 ―――そして、聞いてしまったのだ。


 オスカーが苦し気に吐いた、あの言葉を。



「病気だったから、オスカーさまは安心して私に優しくできた・・・病気が治ってしまえば、私はオスカーさまにとって不安を煽る存在でしかない・・・」


 それは、この契約の存在意義を危うくするとシャルロッテは思った。というか、そもそもこの契約を結んだ意味がなくなってしまう。


 やはり、病気が治らないままのシャルロッテでいなければならない。


「・・・でも、もうこれ以上、オスカーさまに嘘を吐き続けるのは・・・」



 ―――よくないことだわ。


 オスカーの望むように振る舞いたい、そんな気持ちからする行動であっても、きっと事の次第をオスカーが知ったら、不快に、いや裏切られたと感じても仕方ないのだ。



「・・・そっか。前提条件が変わった時点で、この契約結婚は契約としては成り立っていなかったのね・・・」


 結婚式が終わった直後で浮かれていて、全くその事に気づいていなかった。

 死ぬしかないと思っていた未来が、急にこの後も続くかもしれないという希望に取って代わって、慌てふためいて取り敢えず現状維持を選んだ。


 嘘を吐いてでも、オスカーとの結婚生活を維持したくて。

 大好きで、大好きで、朝の挨拶ができるだけでも死ぬほど嬉しくて。

 そのうち朝の挨拶どころか、お茶とか、デートとか、ダンスの練習とか、夜会の出席とか、たくさんの素敵すぎる思い出をもらって。


「・・・うん。もう十分よね」


 ―――オスカーの望むシャルロッテのまま、けれどこれ以上オスカーを騙し続ける事はないように。


 シャルロッテは一つの結論に行きついた。





 本来の契約期間は、あともうふた月ほど後。


 だが、シャルロッテは契約の早期終了を決意した。







しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...