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シャルロッテの決意
しおりを挟む―――治ったらいいのにとは思う。そうは思うんだが、特効薬が手に入った時、今のような気持ちや態度のまま、シャルロッテに接する事が出来るのだろうか―――
「あれはつまり・・・オスカーさまにとって、私の病気が治るのは好ましくないって事よね」
時刻は既に深夜の12時をまわり、シャルロッテはベッドの中。
照明は落とされて真っ暗な室内で、シャルロッテはよく見えもしない天井を見上げながら、ぽそりと呟いた。
昼間、オスカーの執務室の前で漏れ聞こえた言葉が頭にこびりついて離れない。
10時前には就寝したというのに、シャルロッテは未だベッドの中で悶々と寝返りを打ち続けては、どうしようかと頭を悩ませていた。
ミルルペンテを連れて来たイグナートから、薬の存在をオスカーに打ち明けるか匂わせるかした方がいいと忠告された。
アラマキフィリスの薬がすぐに製造可能かどうかは置いておいて、いずれ世に出てくるであろう薬にケイヒル家が関わっている事はすぐに知れる。
今や親族ともなったオスカーが、薬に関する情報を妻や妻の実家以外から知るのは、とても失礼な行為に映るだろう。
シャルロッテを大切にしてくれているからこそ、そんな無礼をしてはいけないとイグナートは言う。
『既に薬を飲んだって事までは言わなくてもいい。あれは確かにタイミングが悪かった。だがせめて、アラマキフィリスの薬がいずれ製造可能になるという情報は伝えておいた方がいい。その為にミルルペンテを連れて来て、オスカー殿にも会わせたんだ』
伝えた時の時の反応で、それ以上を話すかそこで止めるかを決めていいのでは、それがイグナートの主張だった。そして、ケイヒル家の家族もそれに同意していると言う。
シャルロッテはそれを尤もだと思った。
シャルロッテ自身、オスカーに薬の件を黙っている事に良心の呵責を感じていたから。
不安だったら一緒に話しに行ってやるとイグナートは言ってくれたが、言葉が通じないミルルペンテが一緒に来ているのだ。
彼を部屋に残して兄に付き添ってもらうのはさすがに気が引け、シャルロッテは大丈夫と断って、ひとりオスカーに会いに行った。
―――そして、聞いてしまったのだ。
オスカーが苦し気に吐いた、あの言葉を。
「病気だったから、オスカーさまは安心して私に優しくできた・・・病気が治ってしまえば、私はオスカーさまにとって不安を煽る存在でしかない・・・」
それは、この契約の存在意義を危うくするとシャルロッテは思った。というか、そもそもこの契約を結んだ意味がなくなってしまう。
やはり、病気が治らないままのシャルロッテでいなければならない。
「・・・でも、もうこれ以上、オスカーさまに嘘を吐き続けるのは・・・」
―――よくないことだわ。
オスカーの望むように振る舞いたい、そんな気持ちからする行動であっても、きっと事の次第をオスカーが知ったら、不快に、いや裏切られたと感じても仕方ないのだ。
「・・・そっか。前提条件が変わった時点で、この契約結婚は契約としては成り立っていなかったのね・・・」
結婚式が終わった直後で浮かれていて、全くその事に気づいていなかった。
死ぬしかないと思っていた未来が、急にこの後も続くかもしれないという希望に取って代わって、慌てふためいて取り敢えず現状維持を選んだ。
嘘を吐いてでも、オスカーとの結婚生活を維持したくて。
大好きで、大好きで、朝の挨拶ができるだけでも死ぬほど嬉しくて。
そのうち朝の挨拶どころか、お茶とか、デートとか、ダンスの練習とか、夜会の出席とか、たくさんの素敵すぎる思い出をもらって。
「・・・うん。もう十分よね」
―――オスカーの望むシャルロッテのまま、けれどこれ以上オスカーを騙し続ける事はないように。
シャルロッテは一つの結論に行きついた。
本来の契約期間は、あともうふた月ほど後。
だが、シャルロッテは契約の早期終了を決意した。
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