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あなたの責任
しおりを挟む「リベットがすまなかったね。オスカー、奥さんとダンスに行ってくるといい。後は私がやっておくから」
王太子アレックスは、リベットの手を押さえたままオスカーたちの方に顔を向け、微笑みながら顎でフロアをしゃくった。
国王夫妻には3人の子がいる。
第一王女カサンドラ、そのすぐ後に生まれた第一王子アレックス、そして第二王女リベットだ。
カサンドラは既に他国に嫁いでここにはいない。
アレックスは立太子してこの国の公爵令嬢と婚姻し、昨年には2人目の男児が生まれている。
カサンドラとアレックスは年子、そしてアレックスから6つ離れて生まれた末娘がリベットだった。
国王夫妻は、長女のカサンドラと次期国王となるアレックスには王族として厳しい教育を課した。だがリベットには甘かった。
上の2人がしっかり立派に育っていたから、気を抜いてしまったのかもしれない。
それでもまだ、その頃の甘やかしは許容範囲内だった。
カサンドラは14で嫁いだ。その後、国王夫妻のリベットへの甘やかしは少しずつエスカレートしていった。
そうしてリベットが20歳になった現在、元気に我が儘継続中の第二王女殿下が出来上がった訳である。
そのリベットは、今も手を押さえつける兄アレックスをきっと睨みつけていた。
「手を放してちょうだい、お兄さま」
「放したら何をする気だい? 言っておくけどね、オスカーの言った事は間違ってないよ。結婚して初めて出席した夜会なのに、ファーストダンスを妻でない女性と踊るなんて、醜聞以外の何物でもない」
「あら、醜聞なんて、そんな筈はないわ。王女であるわたくしがお祝いに踊ってあげるだけだもの。それを断ろうとするあの男が悪いのよ。不敬だわ」
王太子に諫められているというのに、リベットは鼻で笑う。
だが、アレックスはそれも折りこみ済みなのだろう、気にせず続けた。
「ドレスも飾りも、全てオスカーの色で揃えて登場しておいて、よくもまあ恥ずかしげもなく吠えるものだ。リベット、父上と母上がお前を馬鹿に育てたのだからある意味仕方ないのだけれど、もうこれ以上、自分の馬鹿さ加減を晒すのはおよし。お前はもう、今日の役目はちゃんと果たしてくれた。あまりにも呆気なく予想通りに進むものだから、こちらが驚いているよ」
「何の話よ?」
「なんでもないよ、お前はこのまま部屋にさがりなさい」
「嫌よ、わたくしはオスカーとダンスを・・・」
「あいつはもう行ってしまったよ」
そう言って、アレックスが向けた視線の先、フロアの中央にはオスカーとシャルロッテが向かい合い、曲の開始を待っていた。
リベットになど目もくれず、少し恥ずかしそうに互いを見つめて。
リベットは視線を兄へと戻し、きっと睨みあげた。
「いくらお兄さまでも、わたくしの邪魔をした事は許さないわよ。お父さまとお母さまに言いつけてやるんだから!」
「そうか、私も父上と母上に言いたい事がある。丁度いいから一緒に行こう」
辺りは人集りが出来ていた。
オスカーへの恋情をあからさまに表したリベット第二王女の衣装と、宣戦布告にも思えるダンスの誘い。
それを断った公爵に激昂した王女。それを止めた王太子は、今も妹の手を押さえつけたまま。
王太子アレックスは、ちらりと壇上へ視線を向けた。
ダンスを終え、席に戻ったであろう国王夫妻は、自分たちの溺愛する娘が騒ぎを起こした事にはもう気づいているようだ。
国王夫妻の表情は困惑しつつも、リベットを心配する様子が見て取れて。
心配するものへの優先順位がおかしいだろうとアレックスは溜め息を吐く。
「こうなったのは誰の責任か分かっているのかな、あの人たちは。もういい加減、責任を取ってもらわないとね」
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