【完結】ただあなたを守りたかった

冬馬亮

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追い込み

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「やあ、ベネディクト、ヘタレ息子よ。初恋を諦めたらしいお前に渡すものがあるのだが」


そう言うと、国王はちらりと後ろの侍従に視線を向けた。

その視線を受けて侍従がすっと前に出て、ベネディクトとアレクシス、ユストクスが囲むテーブルの上に、手に持っていた書類や巻き物を置いていく。


「父上、これはなんですか?」


兄二人が興味深げに覗き込んで言った。

それにつられ、ベネディクトも前かがみになって置かれた書類と巻き物に手を伸ばしかけるが、国王の次の言葉に注意が逸れた。


「ティターリエ嬢から謁見の申請があった。保護期間がもうすぐ終わるから、その挨拶だろう。明日の午後に彼女と会う」

「・・・そうですか」


少しの間の後、ベネディクトは心なしか元気のない声で言葉を返した。
それを横目で見ていたアレクシスが、向かい側の席から父王に向かって口を開いた。


「城を出た後のティターリエ嬢の行き先は決まったのですか?」

「まだ聞いておらん。恐らく、明日はその話も出るだろうな」

「そうですか。謁見は父上と母上が?」

「その予定だ」


――そうか、ティターリエ嬢は行ってしまうのか。


父と兄の遣り取りを聞きながら、ベネディクトはぼんやりとティターリエのことを思った。


ベネディクトは、王城に戻ってからティターリエと会っていない。

正確に言えば、グスタフの裁きのときに同じ場にいたから顔は合わせているが、遠目に見ただけで言葉は交わしていない。

家族揃ってベネディクトをヘタレと連呼するのは、告白だけして返事をいらないと言ったこともだが、その後もこんな風になんだかんだと逃げ回っているからだろう。


でも、とベネディクトは思う。

これはヘタレとは違う。

たぶん違う。


・・・きっと、違う。


執務で忙しい国王は、ベネディクトの心を微妙に騒がせた後、すぐに執務室へと戻って行った。

たったこれだけでわざわざ来たのか、とベネディクトが思ったのは、少し八つ当たりが入っていたかもしれない。


もうティターリエの意思を無視して彼女を追いかけてはいけないと、ベネディクトはあの日、自身に戒めをかけた。

でも、王妃曰く猪突猛進なベネディクトは、やっぱり今でもティターリエに会いたくて仕方ないのだ。

それでも、自分の想いが必ずしも相手の為になるとは限らないと、ベネディクトは知ってしまったから。

だから、求められていないのに求めてはいけないと、懸命に自身を律している。


――そう。


だから、これはヘタレじゃない。


ティターリエ嬢の気持ちを尊重したいから、決めたことだ――





「これ、釣り書きじゃないか」


次兄ユストクスの声で、ベネディクトは我に帰った。

見れば、ユストクスが侍従が置いていった書類をぱらぱらとめくっている。


「こっちは絵姿だな」


長兄アレクシスは、巻き物を開いて呟いた。

絵姿は全部で八枚あった。恐らく釣り書きも同数あるのだろう。


「八人なんて、いつの間に集めたんだよ。いくらなんでも早すぎないか」

「・・・いや」


呆れた声のユストクスに、顎に手を当てたアレクシスが答える。


「わざわざ集めたものではないのだろう。父上は、ベネディクトの相手探しを中断したことを正式に発表なさっていた。
恐らく、発表後も変わらず、釣り書きを送り続けてきた者たちがいたのだろうな。これは、その一部に違いない」

「うわ。なかなか強引だな。俺はそういうタイプは好きじゃない」

「私もだよ、ユストクス」


アレクシスとユストクスは、テーブルの上に釣り書きと絵姿を戻しながら話を続ける。


「だが、地位も財力もある家の令嬢ばかりだ。政略結婚も厭わぬとベネディクトが言うのなら、この中から選んでも問題ないだろう」

「・・・」

 
アレクシスの言葉を、向かいの椅子に座るベネディクトはただ黙って聞いていた。


――少し俯き加減で。


その後、アレクシスもユストクスも、ベネディクトの部屋を辞したのだが。


「母上も父上も兄上も、皆、追い込み方がえげつない・・・」


ぽそり、とユストクスがそう呟いたとか、呟かなかったとか。







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