【完結】ただあなたを守りたかった

冬馬亮

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星に願いを

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騎士団長の指揮のもと、ライツェンバーグ侯爵の偽証罪について検証が進められた。

それはすなわち、偽証対象であるティターリエ・ライツェンバーグ誘拐事件の調査が、王国騎士団の主導で行われることを意味していた。

王都のライツェンバーグ邸、そしてライツェンバーグ領に王国騎士団から騎士たちが派遣され、領邸内も捜索。

そうしてまず判明したのは、ライツェンバーグ侯爵の報告すべてが偽りだった訳ではないということであった。

ティターリエは、ランドリーメイドのアンナが姿を消した日に、本当にいなくなっていたのである。

だが、そこにはまた新たな偽りがあったことも、同時に判明した。



「・・・まさか、ティターリエ嬢の行方が分からなくなったのが、侯爵の報告よりふた月近く前だったなんて」


国王に呼ばれ、騎士団長から送られた調査報告書に目を通したベネディクトは、そんな呟きをもらした。


ビクターが調べたアンナの退職時期は正しく、侯爵が報告したよりも、ふた月早く無断欠勤を経て辞職として処理されていた。
しかし、アンナが犯人に違いないという侯爵の言葉も、これに限っては嘘ではなく、アンナが姿を消した日に、ティターリエもまたいなくなっていたのだ。これは聴取を受けた領邸の使用人たちから明らかになったことだった。

つまり、ティターリエ・ライツェンバーグは、ベネディクトが婚約を申し込むより前、体調を崩して領地に戻って半月ほど経った頃に、すでに領邸からいなくなっていたのである。

そう、いなくなっていた。騎士たちは領邸内をくまなく探したが、ティターリエの姿はどこにもない。
誘拐事件は、本当に発生していたのである。

狂言であってほしいと思っていたベネディクトは、この報告にひどく落胆した。

では、本当の誘拐が発生したときの捜索はどうなっていたのか。
私兵団の記録を見れば、やはりと言うべきか意外にもと言うべきか、この時点でもティターリエは探されていなかったことが分かった。

領邸の執事から王都にいた侯爵に連絡が行ったが、侯爵は捜索を指示しなかった、というのが執事の弁である。

しかし、私兵団員たちへの詳細な聞き取りをした結果、また別の事実が判明する。

侯爵により、私兵団の幹部にティターリエ捜索の密命が出ていたことが分かったのだ。
密命を受けた幹部は、直属の部下数名と共に、ひと月近くを捜索に当てていた。

問題は、その密命が出た時期であった。
誘拐発生時とズレがある。ティターリエが行方知れずとなってから、ひと月以上経っていたのだ。

ベネディクトの護衛騎士ライルが、以前に私兵団に潜入したときにこの捜索記録を見落としたのは、密命扱いで勤務内容が書き換えられていたことが理由のひとつ。
別の理由は、捜索時期のズレにあった。本当の誘拐発生時とズレていただけでなく、侯爵が報告した偽りの誘拐時期とも違っていたから。偽の時期よりも少し早いのだ。

では、このズレは何を意味しているのか。実際の誘拐が起きたときには何もしなかったのに、どうして後になって私兵たちに捜索をさせたのか。

調査に当たった騎士たちは首を捻ったが、容易にその答えに辿り着いた者がいた。ベネディクトだ。


「この時期は・・・」


報告書に記載された日付を見て、ベネディクトはすぐにその頃に何があったかを思い出す。


――忘れもしない。忘れる筈がない。

このとき、僕は――



「ああ、お前も気づいたか」


ベネディクトの呟きに答えたのは、執務机の前に座っている国王である。
彼もまた、その日付に覚えがあった。なにしろ、ベネディクトに頼まれて書状をしたためたのは国王なのだから。


「はい。父上、これは」

「ああ。侯爵に、お前とティターリエ嬢との婚約を打診した時期だ」

「・・・あのとき、なかなか侯爵から返事が来なくて、僕は期待と不安で一杯の毎日を過ごしていました。僕との婚約を喜んでくれるかなとか、悩ませちゃったのかなとか、最後の頃は悩み過ぎて頭の中がぐるぐるして大変で・・・」


ああ、でも。

そうだったのか、とベネディクトは腑に落ちた。

どうしてすぐに返事が来なかったのか。それは、あのときすでにティターリエがいなくなっていたからだ。

婚約の打診が来て、侯爵は慌ててティターリエを探し始めて。

けれど、しびれを切らした王家から返事の催促をされて。

それで、ティターリエの体調を理由に辞退することにしたのだろう。


「・・・おかしいですよ、こんなの。誘拐されても放ったらかしで、僕との婚約の打診が来て始めてティターリエ嬢を探し始めるなんて・・・っ」


ベネディクトは吐き捨てるように言った。


だって。

だとしたら。

もしベネディクトがティターリエを見初めていなかったら。

もし婚約を申し込んでいなかったら。

それからもずっと、いなくなったティターリエは探されないままだったかも知れないのだ。

いや、きっと侯爵はそうしただろう。ベネディクトは、なんとなくそう思った。


「どうしてそんな対応が出来るのか、理解に苦しみます。まるでティターリエ嬢がいようといまいと、どうでもいいかのよう・・・」


そこまで言いかけて、ベネディクトはハッと口を噤む。


「まさか、そんな理由で・・・?」


ぽつりとそう言ったベネディクトを前にして、国王はこめかみに手を当てる。


「・・・ティターリエ嬢の屋敷内での待遇について、使用人たちに細かな聞き取りをするよう騎士たちに命じよう」


調査は進んでいるように見えて、まだ分からない点は多かった。

なにより、ティターリエもアンナも、行方は未だ掴めていないのだ。


アンナはどこに逃げたのか。

肝心のティターリエはどこにいるのか。


「ティターリエ嬢・・・」


どうか無事で、とベネディクトは毎夜、眠る前に星に願いをかける。

夜毎よごとに繰り返すから、もう何度その願いを口にしたか、ベネディクト本人にも分からない。


けれど、数が分からないほど願いを繰り返していることが。

繰り返し過ぎて、もはやベネディクトの就寝前の習慣のようになってしまったことが。


ベネディクトには、悲しくてたまらないのだ。










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