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惹かれる理由
しおりを挟む・・・やっぱり、どう見ても昨日来たばかりとは思えないわよね。
親子連れと楽しそうに語らうダンの姿を遠目に見て、私はそんな感想を持った。
私はただ今、お食事の真っ最中。
ダンが勧めてくれたレストランの一つに入り、好みドンピシャの味付けを堪能していたところ、窓越しにダンを見つけたのだ。
親子連れの人たちの方から話しかけていたけれど、もしかして昔からの知り合い、とか?
窓の外に視線を向けたまま、そんな事を考えていたら、水のお代わりで来てくれたウェイターが私の様子に気づいて「どうかなさいましたか」と声をかけてきた。
ここの人たちは都会と違って人懐こく話しかけてくれる。
そういうのが苦手という人もいるんだろうけど、私は嬉しがる方のタイプだ。
だから、にっこり笑って窓の外を手で示した。
「大したことじゃないの。知ってる人が見えたから」
「ああ」
ウェイターも窓の外に視線を送り、軽く頷いた。
「レックスさんたちをご存知で?」
「そちらじゃないわ。お一人のかたの方」
「そうですか。この町の人ではなさそうですが・・・ああ、もしかして、あの噂の人かな」
「噂?」
「ええ。何でも記者さんだか何だかの人がロン爺さんの所に取材で来たらしくて」
空のグラスに水を注ぎながら、そんな事を口にした。
記者? 私と同業者じゃなかったの?
「記者が来るのが珍しかったってこと?」
「まあ、それもあるんですけど」
そう言って続いた話は、私も不思議に思っていたことで。
「なんか今日一日だけで、あちこちで町の皆がお世話になってるらしくて。とんでもなく親切な人だって、もう街中の噂になってるんですよ。昨日来たばかりなのに不思議ですよね。そうか、あの人かぁ」
ウェイターもなぜか嬉しそうである。
一体どんな噂がこの町の中を駆け巡っているのだろうか。
「きっとレックスさんたちもあの人に親切にしてもらったんでしょうね。ほら、頭を下げてますもん」
いいなぁ、と羨ましそうにしてるから、このレストランにも来たんでしょう、と返した。
ところが。
「いえ? そんな話は聞いてませんけど」
きょとんとした顔で返され、私も首を傾げた。
「あら、でもこのレストランは彼に勧められて来たのよ? おススメだって」
「本当ですか! じゃあ、僕がいないときだったのかな。あれ、でも今日は、朝からずっとここで働いてたんだけど」
首を捻るウェイターの言葉に、私の中で、また一つダンの不思議が増えていく。
それによく考えてみたら。
ポケットの中のメモをそっと取りだす。
おススメのレストラン、三つ書いてあるのよね。
昨日来たばかりで、私と話したのが今日の午後で、それでお勧めのレストランの名前が三つも書けるものかしら。
しかも、まだまだ他にも名前を出せそうな空気だったし。
・・・まるで、この町にずっと住んでるみたいな。
そんな考えが頭に浮かび、私は軽く頭を振った。
まさかね。
不思議な人なのは確か。
自分が彼に惹かれているのも。
親子連れの人たちがダンと別れて違う方向へと歩いて行く。
お腹の大きなお母さんと手をつないだ女の子は、何度も振り返ってダンに手を振っている。
ダンはニコニコと笑いながら、その度に女の子に手を振り返して。
その優しげな笑顔に、ついうっかり見惚れていたら。
方向を変えて歩き出したダンと、バッチリと目が合った。
・・・え?
焦る私をよそに、くしゃりとダンの顔が綻んだ。
それが、とても、とても嬉しそうな笑顔だったから。
会えて嬉しい、まるでそう言ってもらえたみたいな気がして。
「・・・お客さま?」
私は一人、顔を真っ赤にした。
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