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不思議な人

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・・・この人、もしかしてプロなのかしら?


スケッチをする筈だった私の手は、完全に動きが止まっていた。


砂で城を作ると言い出したその人は、目をキラキラさせてバケツを取ってきた男の子と一緒に、大きな砂の塊を何個も作っている最中だ。


「いいか。まずはたっぷりと水を含んだ砂を固めていくんだ」


腕まくりをして、ズボンの裾も折り曲げて。


小さな子どもと一緒になって真剣に砂の塊を形成する姿は、無邪気で、少し子どもっぽいくらいなのに。

言ってることや、やってることがいちいち専門家のようで、どうにも目が離せない。


「よし。土台はこのくらいにして。じゃあ形を作ってくぞ」


浜辺の砂遊びの域を超えてるわ。
これは、れっきとしたサンドアートよ。


海岸に打ち上げられていた木片や石を使って、ダンは器用に砂の塊を彫っていく。


細かい作業はダンが担当しつつ、外壁周りの堀や城壁など、子どもが出来そうな箇所はロイにもやり方を教えながら一緒に楽しんで。


・・・もしかして同業者だったのかしら。

それで、私の職業や名前を知っていた?


「あまり凝ると時間がかかっちまうからな。普通のデザインにするぞ」


窓やバルコニー、尖塔、緩やかな螺旋スロープなど、細かに彫り込みで装飾した見事な城が出来上がっていく様子を観察していたロクサーヌは、ダンが発したその言葉に驚きを隠せなかった。


これで普通?

この完成度で?


明らかに素人の域を超えるその作品に、ロクサーヌは口を開きかけて、だが再び閉じて。


まあいいか、どんな人でも。

優しい人なのは間違いないもの。


出来上がっていく見事な城に目を輝かせるロイを見て、そしてそんなロイに優しく笑いかけるダンを見て。


ロクサーヌは疑問を呑み込んだ。


それから小一時間ほど経っただろうか。


完成した城は、それはそれは見事なものだった。


ダンは大喜びのロイの頭をくしゃくしゃと撫で、バケツありがとな、と手渡した。


「ままにみせたい!」


そう言って、家に向かって駆け出したロイを見送ったダンは、黙ってその様子を見守っていたロクサーヌの方を振り向いた。


「・・・っ!」


理由もなく、とくんと心臓が跳ねる。


「腹、減らない?」

「・・・え?」

「もう夕方近いけど、お腹、減ってない? 良かったらいい店教えてあげるけど」

「・・・」


まただ。

昨日来たばかりって言ってるのに、まるで地元の人みたいにこの町のことを話して。


・・・本当に、不思議な人。


「・・・うん。じゃあ教えてもらおうかな」

「どんなのが食べたい? 何か希望はある?」

「・・・あ。先に荷物をホテルに置いてこないと。駅でタクシーに乗って、そのままここに来ちゃったから」

「この辺りじゃタクシーはつかまらないと思うな。あの通りまで行けば、流しのタクシーもそこそこ通ってるから、取り敢えずあそこまで行こうか」


そう言って、手を差し出される。


彼と話せば話すほど、不思議な感覚に襲われる。

だけど。


不思議と、その手を取ることに不安はなかった。

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