19 / 27
なつかしく思う理由
しおりを挟む「・・・」
ぽかんと口を開けて、突然に現れた彼を見上げた。
彼もまた、じっと私を見返す。
初めて彼の顔を間近で見て、まず思ったのは真っ直ぐな視線の人だなぁってことだった。
目を逸らすことも視線を揺らすこともなく、ひたすら真っ直ぐに私を見つめているから。
だから、まるで心の中を覗きこまれたみたいな気分になる。
かといって、不快だった訳ではもちろんなくて。
何て言ったらいいんだろう。
普段だったら誰も気づかない、誰かと共有するのが難しい、心の奥底にある密かな感覚。
それを見透かされたみたいな、ううん、違う。理解してもらえたような、少しくすぐったい気持ち。
上手く言えないのがもどかしいけど。
これまで他の誰にも感じたことのない、特別な感覚をこの人に感じたのは確かだ。
あれ?
でも待って。
この人、さっき「さすが」って言ってなかった?
あれはどうして?
私が絵を仕事にしてるの知ってるの?
それとも、私の絵をどこかで見た?
「・・・あの、貴方は・・・」
「あ~、あさのおじちゃん!」
どこかで会ったことはありますか? そう口にしようとして。
この辺りの子だろうか。
6、7歳くらいの可愛らしい男の子が、彼を指さして大声で叫んだ。
え? でもどうして「おじちゃん」呼び?
そんな年じゃないよね? いや、でも実は年齢より若く見えるタイプで、ああ見えて30超えてるとか・・・
「・・・おじちゃんじゃねぇって」
あ、やっぱり。
「あさは、ばんそうこうありがとね、おじちゃん!」
「だから、おじちゃんじゃねぇ! お兄さんと呼べ。俺はまだ23だぞ!」
・・・23。
私は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
そっか、私と二つ違いなんだ。
なんとなく忘れたくなくて、頭の中にそっとメモしておいた。
「あれ? ロイ、お前まだ絆創膏を貼ったままにしてんのか? もう剥がしても大丈夫だぞ」
貼ったままにしておきたいなら、せめて新しいのに取り替えよう、と言いながら、ロイくんの膝の絆創膏を剥がそうとして・・・逃げられた。
「おい、ロイ。冗談じゃあないんだぞ?」
「やだ! これでいいもん! せっかくおじちゃんがはってくれたのに・・・あ、ねえ! おじちゃんたち、ちかくにひっこしてきたの?」
ここで彼の動きがぴたりと止まる。
「おじちゃん・・・たち?」
おうむ返しのようにそう呟くと、彼はゆっくりと私の方へと振り返った。
私も同じく首を傾げる。
そして、彼は唐突に、かけられた言葉の本当の意味に気づいたみたいだ。
慌てて首をぶんぶんと左右に激しく振ると、真っ赤になってこう叫んだ。
「いやいやいやいや! たちって何だよ、たちって! 別にロクサーヌと一緒に住んでるとか、そういうんじゃない! だいたい俺たちはどっちも旅行者だし、ここの人間じゃないし! そんな・・・ふ、夫婦じゃあるまいし!」
何をムキになっているんだろう。
別に普通に否定すれば済むことだよね?
でも、顔を真っ赤にして慌てる姿はちょっと可愛らしいとは思うけど。
あれ? じゃあこの人も旅行者なの?
それにしては随分とこの町に馴染んで見えたのはどうしてなんだろう。
「・・・あの、この町に滞在して長いんですか?」
「え? いや、来たのは昨日・・・になるかな、一応。ああ、それよりロイ、せっかくまた会えたんだし、ちょっと俺と遊ぶか?」
「え、いいの? やった~! なにする?」
「そうだな。せっかくの海だし、砂の城でも作るか」
「おしろ? すごい!」
彼は私の方へと振り向いてニコッと笑った。
「ロクサーヌもやる?」
「え?」
「ああ、それともスケッチの続きをしたいかな?」
「・・・ええと、そうね。私はここでスケッチしながらお城づくりを見学させてもらうわ」
「よし。じゃあロイ、あっちに行こう。そうだ。家に戻ってバケツ取って来てくれよ。近くだから大丈夫だよな? そこの角を曲がったとこだろ」
「わかった! ちょっとまっててね、おじちゃん!」
「だからお兄さんだって・・・もう、せめて名前で呼んでくれ。ダン。ほら言ってみろ」
「・・・だん?」
「そ。これからはそう呼んで」
「だん! わかった! じゃあ、ばけつもってくるね、だん!」
「おう。今度は転ぶなよ」
ロイという男の子を見送る目はとても優しくて。
本当。昨日来たばかりの人とは思えない。
家も知ってるんだ。
きっとこの子と昨日も遊んだんだろうな。
・・・ダン。ダンか。
小声でそっと呟く。
じわりと胸が熱くなった。
なんだろう。
どうしてだろう。
名前を聞いただけでどこか懐かしい気がするのは。
なんだか泣きたいような、もどかしい気持ちになるのは。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
花房ジュリー②
恋愛
現代日本のOL・忍は、不慮の事故で死亡。
目覚めたら、モルフォア王国の伯爵令嬢モニクになっていた。
……と思ったら、自分の婚約披露パーティーの最中だった。
そして目の前には何と、婚約者とその愛人の死体が。
このままでは、容疑者第一号になってしまうのは間違い無い!
そんな私に、思わぬ救いの手が差し伸べられる。
三歳年下のイケメン騎士、アルベール様だ。
「アリバイを作ればいい。今夜、ずっとあなたと一緒にいたと、証言しましょう……」
前世でも現世でも、自己主張ができなかった私。
運命は自分で切り開こうと、私は彼の提案に乗る。
こうして、アルベール様との偽装恋愛を始めた私。
が、彼は偽装とは思えないほどの情熱で迫ってきて。
私を容疑者扱いする人々から、あの手この手で守ってくれる彼に、私は次第に惹かれていく。
でもアルベール様は、私にこう告げた。
「俺は、あなたにはふさわしくない人間なのです」
そんな折、アルベール様こそが犯人ではという疑いが浮上する。
最愛の男性は、果たして殺人鬼だったのか……!?
※6/13~14 番外編追加(アルベール視点)。
※小説家になろう様、ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載中。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由
冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。
国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。
そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。
え? どうして?
獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。
ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。
※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。
時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる