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残ったもの
しおりを挟む俺は目を、二度、三度と瞬かせた。
それくらい、目の前にあるものが信じられなかった。
だって、いつもだったら前の今日のものは全部なくなるんだ。
何ひとつ残らない。
なのに今、俺の手の中には。
「どう見ても、あの時のペーパーナプキンだよなぁ・・・」
まじまじと。
それこそ穴が開くほど見つめてしまった。
俺の似顔絵が描かれたナプキンを。
街角のカフェで休憩しながら、ロクサーヌにタイムリープの話をした後のことだ。
彼女は、ちょっと頭を空っぽにして考えたいから、とペーパーナプキンを広げて、ペンでさらさらと絵を描き始めた。
なんでも集中したい時のクセなんだとか。
草木や動物、人の顔などを次々と、しかもほぼ修正なしに描き出す様子は、先ほど話したばかりのループの話を一瞬、忘れるくらいに見事だった。
そして最後に、ロクサーヌは俺の似顔絵を描いたのだ。
本物よりも少しイケメンに描いてくれたのは、きっと親切心なのだろう。
あまりの出来栄えに、俺はそのナプキンを両手に持ち、暫し鑑賞して。
そうして手元に置いたまま、ループの話に戻ったのだ。
毎回思うことだけど、その都度に説明するからいちいち時間がかかるんだよな。
まあ、だからループな訳だし、仕方ないんだけどさ。
昨日になった今日も、説明にあらかたの時間を取られ、その後の対策とかの話は一時間くらいしか出来なかった。
夜中の12時を回った時、ロクサーヌは俺が魔法か何かで立ちどころに消えるんじゃないかと思ってたらしく、不思議そうに見つめられてしまった。
そうか。
リセットされちゃうから、これについても覚えてないんだ。
だから補足情報として説明した。
「リセットのタイミングは夜中の12時じゃないらしいんだよな」
「え?」
それを聞いて、ロクサーヌは目を丸くする。
まあ、そういうイメージなのはよく分かるけど。
「じゃあ、いつ巻き戻るの?」
「それがさ、理由は分かんないけど、ハッキリと確かめられないんだよ」
「え?」
そう。
どうやっても、ループが始まる瞬間を確かめられないのだ。
12時ではない事は分かってる。
明け方の4時過ぎまで寝ずに頑張ったこともあったけど、その時点でもまだ時は巻き戻っていなかった。
でも、どうしてかいつも途中で意識がなくなっちゃうんだよね・・・。
そして目が覚めるとホテルのベッドの上・・・ってなるわけだ。
そして、巻き戻ってしまえば、前の日の今日に手に入れたものは全て消えてなくなっていて。
それが当たり前だった。
だから酷く驚いたんだ。
不思議、だけど。
なんとなくロクサーヌだから、と納得する自分がいて。
--- 決まってます! このループから抜け出す方法を考えるんです! ---
あの時伝えられた言葉が頭をよぎる。
あり得ない、そう諦めていたのに。
もしかしたら、なんて。
そんな希望を持ってしまう。
「・・・」
俺は、未だ強く握りしめたペーパーナプキンを、じっと見つめた。
やっと手に入れた宝物のように。
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