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信頼度はマックス
しおりを挟む目が覚めて、いつもの朝。いつものホテルの天井。
だけど気分は今までで一番スッキリしていた。
ループするようになって、初めて心をさらけだすことが出来たせいかな。
・・・ロクサーヌ、君のお陰だよ。
俺一人が今日という無限ループに放り込まれ、ずっと孤独を味わっていた。
辛くても、寂しくても、誰にも打ち明けることが出来なくて。
だって誰が信じてくれるって思った?
まさか、ロクサーヌがあんなあっさり受け入れてくれるなんてさ。
そうだよ、思ってもいなかった。
「・・・今日のロクサーヌは、もう何も覚えてないんだろうけど」
それでも。
過ぎ去った今日に言ってくれた言葉は、紛れもなくロクサーヌ自身のもので。
それが、どれだけ俺に力をくれたことか。
--- 私とまた出会ってくださいね
絶対にダンさんの話を信じますから ---
「・・・はは」
嬉しくて泣いたのなんて、いつ振りだろう。
変な気分だ。
何も状況は変わってないのに。
こんな。
こんなに嬉しいなんて。
--- 絶対です。絶対に私はダンさんの味方です ---
「俺の味方・・・か」
今はもう、そんな言葉を俺にかけてくれた事も何も覚えていないだろうけど。
なんて頼もしい人なんだ。
そう思ったんだ。
「・・・って言っても、毎回カミングアウトするっていうのも、方法を考えるのに神経すり減らしそうだよな。・・・まあ、流れに任せるしかないか」
自然にふるまって、それでバレるのならその時に話せばいいよな。
きっと、どう転んだってロクサーヌは受け入れてくれるから。
そう思えるようになっただけで、随分と楽な気持ちだ。
少し前向きな気分になれた俺は、身支度をするといつものルーティンをこなすためにホテルを出た。
ループしている事を、ロクサーヌには別に隠さなくてもいい。
そう思えるようになっただけで自然とストレスが減った気がした。
そうして、これまでロクサーヌにループの話ができたのが7回、何も話さずに終わったのが52回。
当たり前と言えば当たり前だけど、やっぱりループにまで話がいかない日の方が圧倒的に多くて。
そんな中でも、話が出来た日にはいろいろと二人であれやこれやと話し合うことができた。
実際にこのループから抜け出せるかどうかは別として、その話題について話す相手がいるというだけで精神的に助けられていた。
そして「今日」は、まだその話が出来ていない方の日で。
今はその状態のまま、あの隠れ家風のバーで、ジャネットの代わりにピアノを弾いているところだ。
演奏時間が終わり、拍手を浴びながらロクサーヌの待つ席へと戻る。
「お疲れさま。素敵だったわ。凄い上手なのね」
「・・・前にちょっと習ってた事があるから」
「ピアノが弾けるのって羨ましいわ。私も習えばよかった」
「ギターが弾ければ十分じゃないか。そっちの方が持ち運びできるし、いいと思うけどな」
「・・・そう、かな」
喉が渇いていたから、頼んでおいたカクテルを一気に呷る。
そして同じくロクサーヌのグラスも空になっていることに気づいた。
「おかわりを頼もうか。ロクサーヌはもう二杯飲んだから、次は軽めのやつにしよう。柑橘系が好きだったよな。これなんてどう? オレンジを絞って香りづけに入れてるってさ」
「・・・じゃあそれを一つ」
そうしてアルコールを楽しんでから、俺たちはバーを出て酔い覚ましに歩き始めた。
「大丈夫か? ロクサーヌはあまりアルコールに強くないんだから、気分が悪くなったらすぐ言うんだぞ?」
「ふふ、心配症ね」
「そりゃ心配するさ。今夜は結局、4杯も飲んだんだ。3杯目から弱いのにしたけど、普段そんなに飲まないだろ」
「・・・そうね」
ロバートさんが事故を起こさずにすんだあの道路をのんびりと歩きながら、つらつらとお喋りをする。
ふと、ロクサーヌが口を開いた。
「アルコールの後だからかな。何かしょっぱいものが食べたいわ」
「へぇ? 珍しいな、ロクサーヌは甘党なのに。酒の後でも甘いものが欲しくなるんじゃなかったっけ?」
「・・・」
「ロクサーヌ?」
「・・・そうね。やっぱり甘いものの方がいいかも」
「だろ? そこの角を曲がったところにあるカフェならまだ開いてるから、そこに行ってみるか」
そう話しながら向かい側のブロックを指さした時だ。
「ダン」
ロクサーヌが俺を呼び止める。
振り返ると、ロクサーヌは真面目な顔でこちらを見つめていた。
「どうしてそんなに私のことを知ってるの? 私たちって今日会ったばかりよね? なのに、まるでもうずっと長い付き合いみたいに」
「・・・」
「この辺りの地理もそう。ダンは昨日ここに来たばかりよね? 店の人たちもそう言ってたもの」
「そうだよ。到着したのは昨日の午後だしね」
「でも随分とこの町のことを知ってるわ」
「そうかな。でも昨日着いたってのは本当だよ?」
ロクサーヌの眉が困ったように下がる。
「ねえ、ダン」
ロクサーヌは一歩近づくと、俺の腕を引いた。
「何か、私に話したい事はある?」
「・・・」
「何かあるのなら遠慮なく言ってほしいの。私は絶対に・・・」
俺は微笑んだ。
「『絶対にダンの味方』だから・・・?」
ロクサーヌの言葉を遮って、その先を口にする。
「え・・・? あ、いえ、まあ、そう言おうとしてたんだけど」
俺に先に言い当てられて、ロクサーヌは目を瞬かせた。
「分かるさ。君は前にもそう言ってくれたからな」
へ? と呆けた声がロクサーヌの口から漏れた。
「話したい事はあるかって言ってたね・・・うん、あるよ。ちょっと驚くとは思うけどロクサーヌなら大丈夫。前もそうだったから」
「・・・」
「今から話すよ。冗談でもなんでもないから、真面目に聞いてくれる?」
「・・・ええ」
そうして俺は、またロクサーヌに打ち明ける。
側からすれば、荒唐無稽でしかないタイムリープの話を。
だけど。
いつの今日でも、彼女なら大丈夫。
俺のロクサーヌへの信頼度はマックスだ。
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