上 下
11 / 27

近づきたくて、だけど君は遠くて

しおりを挟む

ロクサーヌと出会ってから、俺は更に分刻みでルーティンをこなすようになった。


これまでやって来た事はそのままに。

だけど、ロクサーヌとの出会いは何にも邪魔されないように。


今日一日しか知り合える時間がないから。


それでも、出来るだけ君の側にいたいから。

毎日毎日、繰り返す今日を俺たちは共に過ごす。


そうしてどれ程の時間、俺たちは一緒にいただろう。


だけど、今日という名の昨日に、楽しく笑い合った俺たちの記憶は彼女にはない。


だから、どれだけ愛おしくても、懐かしくても、初対面のフリをして俺たちは出会う。


ロクサーヌは俺の事情を何も知らない。

知らないから、いつも自然な出会いを心がける。


たった一日。

たった一日で構築される関係。

それに限りがあるのは仕方ない。
普通なら共に重ねていける筈の月日が、俺にだけはないんだから。


だから「今日」も俺は笑って彼女と出会う。

せめてこの一日だけでも、俺を好きでいて欲しい、と。


朝、ちょっと早起きしてローレンのゴミ拾いのボランティアを手伝う。

それから海辺沿いの道で、転んだジェイに絆創膏を貼ってあげる。

ロン爺ちゃんにインタビューして、帰り道で薬を調達。レストランに向かう途中で木から落っこちるアメリアを受け止める。

レストランを出て来たところで発作を起こしたロバートさんに薬を飲ませる。

その後、隣のブロックに移動して、車のタイヤがバンクして困ってるレミー夫人のためにスペアタイヤと交換してあげて。

それからは駅に直行。途中でゾイおばさんの荷物を運んでやる。

あ、あそこの信号の手前でショーンさんが段差で躓いて車道に入り込んじゃうんだよな。

車に轢かれないように支えてあげる。

そうして何事・・もなく駅に到着すれば。


ああ、ほら時間だ。今日も間に合った。

駅から出てきたよ、俺の大好きな人が。


今日はどうやって知り合おうか。


ロクサーヌ。


ちょっとずつ君を知っていった。

明るくて、笑顔が素敵で、動物が好きで。

甘いものに目がなくて、特にシフォンケーキが大好きで。

好きな色はブルー、絵を描くのが大好きで、それを仕事にまでしてしまった。

両親は田舎でのんびりスローライフを楽しんでいる。

兄は結婚、娘が一人いて、奥さんのお腹には赤ちゃんがいるんだよね。

そして、両親と兄夫婦の結婚記念日には欠かさずプレゼントを贈ってる。

そんな優しくて、素敵な人。


毎日毎日重ねていく「今日」で、俺は君のことをたくさん知っていって、「好き」もどんどん溜まっていく。

だけど、君が見せてくれる笑顔は、俺への好意は、その日の「今日」で終わってしまう。


それでもいい、君に出会えたんだからそれだけで。

そう思ってたけど。
そう思うようにしていたけど。


朝になって駅から出てくる君はまた、俺を知らない君に戻っていて。
そんなの最初から分かってたのに、何で今さら辛いだなんて思ったりして。

馬鹿だな、何を夢見てるんだ、自分でもそう思うけど。


それでも会いたいんだ。

もし君に好きだと言ったらどうなるかな。


せめてもう少し時間があれば、そう思ったこともある。

午後の2時20分からスタートするその日限定の恋なんて、本当にどんな罰ゲームだよ。

軽薄な男には思われたくない。
告白して引かれたら、それこそどん底まで落ち込むだろうから。


せめて無理のないシチュエーションで、君に好きだと伝えたいんだ。


君からの答えがどんなものであっても。


次の日の「今日」には、俺の告白がなかったものにされるとしても。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました

メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。 「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。 この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。 仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。 そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。 「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」

処理中です...