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近づきたくて、だけど君は遠くて
しおりを挟むロクサーヌと出会ってから、俺は更に分刻みでルーティンをこなすようになった。
これまでやって来た事はそのままに。
だけど、ロクサーヌとの出会いは何にも邪魔されないように。
今日一日しか知り合える時間がないから。
それでも、出来るだけ君の側にいたいから。
毎日毎日、繰り返す今日を俺たちは共に過ごす。
そうしてどれ程の時間、俺たちは一緒にいただろう。
だけど、今日という名の昨日に、楽しく笑い合った俺たちの記憶は彼女にはない。
だから、どれだけ愛おしくても、懐かしくても、初対面のフリをして俺たちは出会う。
ロクサーヌは俺の事情を何も知らない。
知らないから、いつも自然な出会いを心がける。
たった一日。
たった一日で構築される関係。
それに限りがあるのは仕方ない。
普通なら共に重ねていける筈の月日が、俺にだけはないんだから。
だから「今日」も俺は笑って彼女と出会う。
せめてこの一日だけでも、俺を好きでいて欲しい、と。
朝、ちょっと早起きしてローレンのゴミ拾いのボランティアを手伝う。
それから海辺沿いの道で、転んだジェイに絆創膏を貼ってあげる。
ロン爺ちゃんにインタビューして、帰り道で薬を調達。レストランに向かう途中で木から落っこちるアメリアを受け止める。
レストランを出て来たところで発作を起こしたロバートさんに薬を飲ませる。
その後、隣のブロックに移動して、車のタイヤがバンクして困ってるレミー夫人のためにスペアタイヤと交換してあげて。
それからは駅に直行。途中でゾイおばさんの荷物を運んでやる。
あ、あそこの信号の手前でショーンさんが段差で躓いて車道に入り込んじゃうんだよな。
車に轢かれないように支えてあげる。
そうして何事もなく駅に到着すれば。
ああ、ほら時間だ。今日も間に合った。
駅から出てきたよ、俺の大好きな人が。
今日はどうやって知り合おうか。
ロクサーヌ。
ちょっとずつ君を知っていった。
明るくて、笑顔が素敵で、動物が好きで。
甘いものに目がなくて、特にシフォンケーキが大好きで。
好きな色はブルー、絵を描くのが大好きで、それを仕事にまでしてしまった。
両親は田舎でのんびりスローライフを楽しんでいる。
兄は結婚、娘が一人いて、奥さんのお腹には赤ちゃんがいるんだよね。
そして、両親と兄夫婦の結婚記念日には欠かさずプレゼントを贈ってる。
そんな優しくて、素敵な人。
毎日毎日重ねていく「今日」で、俺は君のことをたくさん知っていって、「好き」もどんどん溜まっていく。
だけど、君が見せてくれる笑顔は、俺への好意は、その日の「今日」で終わってしまう。
それでもいい、君に出会えたんだからそれだけで。
そう思ってたけど。
そう思うようにしていたけど。
朝になって駅から出てくる君はまた、俺を知らない君に戻っていて。
そんなの最初から分かってたのに、何で今さら辛いだなんて思ったりして。
馬鹿だな、何を夢見てるんだ、自分でもそう思うけど。
それでも会いたいんだ。
もし君に好きだと言ったらどうなるかな。
せめてもう少し時間があれば、そう思ったこともある。
午後の2時20分からスタートするその日限定の恋なんて、本当にどんな罰ゲームだよ。
軽薄な男には思われたくない。
告白して引かれたら、それこそどん底まで落ち込むだろうから。
せめて無理のないシチュエーションで、君に好きだと伝えたいんだ。
君からの答えがどんなものであっても。
次の日の「今日」には、俺の告白がなかったものにされるとしても。
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