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永遠の日常の非日常
しおりを挟むゆっくりと景色を楽しみながら歩いていたから、ロン爺ちゃんのところに着くのが少し遅れた。
爺ちゃんは庭の大きな石に座って、煙草をふかしている。
年も年だし、煙草も控えた方がいいんだけどなぁ。
そう思いながら、声をかけた。
ロン爺ちゃんにとって初対面である俺は、名刺を出しながら自己紹介をした。
「ほうほう。都会からいらしたんかい。こんな海辺街までご苦労だったねぇ」
ぷかりと煙を吐きながら、にこにこと話しかけてくれる。
この瞬間だけは、いつも切なくて、いつまで経っても慣れることはない。
「そんじゃあ、わしは何を話したらいいんかのぅ」
力が強くて豪快な船長さんなのに、ロン爺ちゃんの口調はどこまでも穏やかなんだよな。
「ええと、それではですね・・・」
一通り取材が終わって、俺は遅い昼食を取ることにした。
あちこち見ながらゆっくり歩いてたから、もう昼の飯時はとっくに過ぎてて、空いている店もまばらになって。
とりあえずまだ開いていたレストランにて飛び込む。
ここはまだ二、三十回しか入った事がないな。
丁度いいや、まだ食べてないメニューがあるかもしれない。
「お待たせしました。ミラノ風カツレツです」
おお、美味そう。
久しぶりのこの新鮮な感じ。嬉しいねぇ。
ジューシーなカツレツをパクついていると、奥の席で同じく遅めの昼食を取っているらしい年配の男性が視界に入る。
あれ? なんか苦しそう?
食べるのを止めて、胸を抑えている。
大丈夫か?
胸が痛いのか?
心配になって立ち上がりかけたが、どうやらすぐに調子が戻ったらしい。
そのじいちゃんはまたナイフとフォークを握って食事を再開した。
気になってその後もちらちら様子を伺ったが、どうやらホントになんでもなかったらしい。
綺麗に食事を平らげると、レジで支払いをしてレストランから出て行った。
まあ、いいか。
そう思って、最後の一口を終えた瞬間。
鋭い悲鳴が耳を突き刺した。
すぐ近くで何かが起きたのか、大きな音と共にレストランの窓ガラスが衝撃でビリビリと振動する。
なんだ?
思わず立ち上がって窓から外を覗き込む。
「・・・」
事故だ。
白い乗用車が歩道に突っ込んだらしい。
車はガードレールを突き破って、建物の壁に激突したようだ。
車から煙が上がっている。
ぶつかる前に歩行者を巻き込んだのか、人が何人か道に倒れ込んでいるのが見えた。
歩道には血痕。
「うわ・・・」
その凄惨な光景にくらりと目眩を感じたが、今はへたっている暇などない。
現場はパニック状態だ。
支払いを済ませ、携帯で救急に連絡を入れながら、慌てて現場に向かう。
煙を上げる車を見た俺は、一瞬、息をするのを忘れた。
運転手の顔が見えたから。
頭から血を流してぴくりとも動かないその運転手は、さっきレストランで胸を抑えていたじいちゃんだった。
まさか、発作?
さっき胸を抑えてたのは、その前兆か何かだったのか?
頭からすーっと血の気が引いた。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきたけど、俺の耳にはどこか遠い世界の事のようだった。
その後、残りの時間をどう過ごしたのか、よく覚えていない。
でも、どうやらホテルには戻ってきていたようだった。
気がつけばまた、いつもの朝。
いつものホテルのベッド。
いつもの朝刊がドアの下に届いていた。
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