【完結】君こそが僕の花 ーー ある騎士の恋

冬馬亮

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小瓶の毒

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「それから・・・ジョアンが監視下に置かれていたレオパーファ領邸に関してですが」


ランスロットはそこまで話すと、一瞬ヴィオレッタの方を見遣った。


ヴィオレッタが不思議そうに首を傾げると、ランスロットは次に視線をダビドたちに向け、言葉を続ける。


「・・・実は、ジョアンの証言によって、レオパーファ侯爵の隠していた罪が、もう一つ明らかになりました」


そランスロットの言葉に、ハロルドを除く全員が息を呑む。


「え、と、あの」


最初に口を開いたのはジェラルドだった。


「ランスロット卿。それはどういう事かな? 報告は俺にも届く筈だけど、何故俺はその事を聞いてないんだろう、父上は知っていたみたいだが」


ランスロットは緩く首を横に振る。


「隠していた訳ではありません。ただ全てが推測に過ぎず、確たる証拠もなかった為、本人に問いただすまでは迂闊に口にするのも憚られました。そしてトムスハット公爵は問いただすその場に居られた、だから予め話しておいた、それだけです」

「・・・それは、あの小瓶の事ですよね?」


そう問いかけたのはヴィオレッタだった。


「小瓶? ヴィオは何か知ってるの?」


訝しげに問うジェラルド、そして話が分からずに目を丸くするダビドとヨランダに順に視線を向け、ランスロットは頷いた。


「ヴィオレッタ嬢が仰っているのは、この小瓶の事です。先日、レオパーファ侯爵の前で、僕はこの瓶を出して彼に見せました」


ランスロットが懐から出したのは、あの時と同じ緑色の液体が中に入った小瓶。


「ええと、それ、その中身って・・・」


何事かを推測したのだろう、ジェラルドが口籠る。


「・・・そうですね。ではまず、レオパーファ侯爵とどんな話をしたのかを説明します」












「・・・なるほど、これを使って書類にサインをさせたって訳か。で、さっきランスロット卿は『確たる証拠がない』と言ってたけど、じゃあこの瓶の中身は・・・」


ジェラルドは納得した様に頷くが、ランスロットの手元にある小瓶を見て、続く言葉を呑み込んだ。

だが、ランスロットはその先を受け止めて、さらりと肯定する。


「はい、これは僕が用意した偽物です。ジョアンの証言をもとに調べていったら、ある薬に辿りつきました。それを模して作ったものなので、これそのものになんの効果もありません」

「あの、では・・・」


ここでダビドがおずおずと口を開く。


「公爵さま・・・その本物の薬とやらは、一体どんなものだったのでしょうか。まさかジョアンが何かの犯罪に関わっているなんて事は・・・」

「安心して下さい。それはありません」


ダビドとヨランダは、その言葉にあからさまにホッとした様子を見せる。

根から善良な人たちなのだろう、とランスロットは微笑ましく思った。


勿論ランスロットの言った事は慰めでも嘘でもない。
ジョアンは本当にこの小瓶の件には関わっていないのだ。


何故なら ーーー


「・・・ジョアンがあの屋敷で働き始めた時には、もうとっくにこの薬物を使わなくなっていましたから」

「え・・・?」

「前任のメイドとの会話で、ジョアンは小瓶の話を聞いたそうです。以前は毎食後必ず服用していた薬があったと」

「・・・」

「本物の方は遅効性の毒でした。微弱な毒で致死性は低く、長期服用により徐々に神経系統を麻痺させる効果があり、対象者の身体の麻痺範囲から判断するならば、毒の使用期間は凡そ五年から七年と・・・」

「・・・麻痺・・・」


ヴィオレッタが呆然と呟く。


「ランスロットさま、それではお父さまは・・・」


ランスロットは痛ましげにヴィオレッタを見た。


「お父さまは、お祖母さまに毒を・・・?」

「・・・理由は分かりませんが、どうやらその様です」


ランスロットはそこで口を噤む。


言えない、言える訳がない。これ以上は。


スタッドが用いたのは、じわじわと末端の神経から殺していく毒。

まず指先、そして手、足、腕、脚部と少しずつ服用した人物の身体を侵していく。


ーーー それは寧ろ殺すというより、長く苦しめる為の ーーー


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