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ご褒美の時間

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僕たちからの結婚祝いの贈り物は、アンドレとエウセビアにたいそう喜ばれた。


アンドレに贈ったトリプト鉱石の剣のセットは、嬉々として剣の鍛錬時に使用してくれているらしい。

重さを感じさせないのに切れ味が他の剣よりも格段に素晴らしいとか、ジョルジオも触られてくれといつも煩いとか、アンドレはニコニコと報告してくれるけれど。


僕には護身程度の嗜みしかないから、ごめんね、そこのところはどれだけアンドレに力説されても分からない。


それに、エウセビア用に贈った香水も大好評らしい。

その香りを付け、アンドレから贈られた初めての花束の話をしては、夫を羞恥で固まらせるのが新妻の楽しみなんだとか。

そして、それをされるアンドレがまた妙に嬉しそうだという噂も聞いているが、恐ろしいからその真偽を確かめようとは思わない。


まあ、兎にも角にも、サシャの見立ては確かだったということだ。


さて、アンドレの結婚式以降、僕はとても忙しい。


少しずつ任されている後継としての仕事や責任もさることながら、結婚式の準備も大詰めなのだ。


大切なことだからもう一度言う。

結婚式の準備が大詰めを迎えている。


そう、結婚。ケッコン。結婚式。

もちろん僕とアデラインのだ。


式用に着用するドレスや礼服のデザインはもう終わった。

今はもう仮縫いに入っている。

アクセサリーなどの細かな装飾品は、まだ要調整の段階で。

警備関係の話し合いや、招待客の選定、リスト作り、パーティ会場の確保、提供する飲食の確認などなど。


義父も動いてくれてはいるし、ショーンも頑張ってくれている。

だけどやっぱり、当たり前だけど、僕もアデラインもなかなかに忙しいのだ。


嬉しい忙しさではあるけどね。


それと同時に、侯爵家関係で僕の責任下で進めている話とかもあって、それがまた忙しさに拍車をかけているんだ。


「はあ・・・」

「お疲れさま。セス」


という訳で、ただ今、絶賛アデラインを充電中。


膝枕を堪能させてもらっているのだ。


「ごめんね、アデルだって忙しいのに」

「セスほどではないわ。それに、こうしていてもリストの確認は出来るから大丈夫よ」


アデラインは、僕の頭を膝に乗せながらも、招待客のリストと書き上がった招待状の宛先とを照らし合わせる作業を行なっている。


それは僕たちの結婚式のための仕事。

僕たちの結婚式のための。


分かってるけど、今、僕の目の前で君の気が僕から逸れているのがちょっと悔しくて。


だからつい、僕の手が動いて。

アデラインの膝頭をするりと撫でた。


「ひゃ・・・っ」


うわ。

なんか可愛い声、出た。


ちら、と見上げると、リストから目を外し、僕のことを睨むようにして見下ろしている。


真っ赤な顔で、眼はちょっとうるうるしてて。

ちょっと怒ってるんだろうけど、ごめんね、ちっとも怖くないよ。


むしろ嬉しい。

やっと僕を見てくれた。


口元がふっと緩む。


でも、まだ足りない。

アデラインが足りないな。


「アデル、邪魔してごめんね。でも僕、もうちょっと癒しが欲しくて」

「癒し・・・?」

「うん。またはご褒美とも言うかな。ね、ほっぺでいいからキスして?」

「・・・っ!」

「お願い」


アデラインは、手からぱさりとリストを落とし、両手で顔を覆った。


でも隠しきれてない。白い肌が朱に染まってるのが丸わかりだ。


ごめんね。恥ずかしがらせたい訳じゃない。
本当に君とキスがしたかっただけなんだ。


唇だと難易度が高いだろうから、ほっぺでも十分だと、そう思って。


だからお願い。


「アデル・・・駄目?」

「・・・駄目、じゃなくて、は、恥ずかしい・・・から」

「ご褒美なんだもの。アデルからしてほしいな。ほっぺなら、いつもお休みの挨拶でもしてるし。ほら、恥ずかしいなら目を瞑るから」


そう言って、僕はそっと目を閉じて。

そしてじっと待つ。


「・・・」

「・・・」


・・・改めてだと恥ずかしいのかな。

やっぱり駄目、かな。


あまり無理強いしても良くないし、可愛い顔も見せてもらったし、それで良・・・


ちゅ


・・・え。


柔らかいものが触れた。

触れたけど。でも。


ほっぺじゃなくて。

ほっぺじゃなくて、唇に。


僕は、ぱちりと目を開けて手で唇を押さえる。


そして、僕の視界に映ったアデラインの顔は。


「・・・」


雷で打たれたような衝撃。

こんな可愛い表情、見たことない。


「こ、これで・・・癒しになったかしら」

「・・・」

「あの・・・セス?」

「・・・」


駄目だ。

言葉が出てこない。


こんな。

こんな、ご褒美。
あり得ない。


僕は恐らく顔を真っ赤にしているのだろう。


何も言えず、ただこくこくと頷くだけで精一杯だった。



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