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それは、どういう

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ええと。

この人、今、噛んだよ、ね?


目の前の青年は、慌てているのか視線をあちこちに彷徨わせている。


眼鏡にかかるくらいの、少し長めの前髪。

銀縁の眼鏡の向こうに覗くのは、穏やかな茶色の瞳。


知的で、優しそうな面差し。


そして、細身だけど、ぴんと姿勢よく伸びた背筋。


見た目だけで判断するならば、控え目で、穏やかで、勉強も得意そうな好青年。


僕は社交にあまり熱心じゃないけど、確かに夜会かどこかで彼を見かけた事はあるかもしれない。


う~ん、でもなぁ。


その程度の知り合いでしかない僕に、わざわざ会いに来るって何の用だろう。


「あ、の」


思い当たる事がなさすぎて、いよいよ悩み始めた僕に、再びルドヴィック令息が声をかける。


「じ、実は、今日、お伺いしたのは、ノッガー令息にお願いがありまして」

「お願い、ですか?」

「はい」


それにしても、なぜ彼はこんなに緊張しているのだろうか。


さっきからずっと、膝の上で両手を組み、その指をもじもじと絡ませているのだ。


僕って、側の人たちから見るとそんなに怖いのだろうか、そんな不安さえ湧き上がる。


そうして、しばらくじっと待ち続けること数分。


やがて、ルドヴィックは意を決したかのように顔を上げた。


「・・・その、ノッガー令息には婚約者のご令嬢がいらっしゃいますよね」

「・・・ええ、おりますが」

「とても仲がよろしいとお聞きしております」

「まあ、そうですね」


確かに仲はいいよ。

だけど、それが君と何の関係があるの。


真っ赤な顔で、今ももじもじと恥じらいを見せながら話す令息の姿に、疑問符が浮かぶ。


「す、素敵なご令嬢ですよね。お相手の、婚約者の方は。お綺麗で、慎ましくていらっしゃって」

「・・・ありがとうございます」


今の言葉に、頭の中で警報が鳴り始めた。


嘘だろ、まさか。

ここに来て別のライバルが登場とかあり得ないんだけど。


「あの、それで」

「・・・はい」

「確か、一年半ほど前に、ノッガー令息が婚約者のご令嬢以外の方と噂になった事があったと思うのですが」

「・・・」

「と、とても可愛らしい、ヤンセン男爵令嬢という、方と」


やっぱり。

こいつ、横恋慕か。


僕がアデラインに相応しくないとか何とかって文句をつけてくる気かな。


そう思った僕が、膝の上に置いた拳をぐっと握りしめた、その時。


「・・・っ⁉︎」


ルドヴィック令息はテーブルに頭がぶつかりそうな程のもの凄い勢いで、深々と頭を下げた。


いや、小さくゴチ、と音がしたような気がするから、本当に頭をぶつけたのかもしれない。


そしてそのまま、そう、ルドヴィック令息が頭をテーブルに擦りつけたまま、時間が過ぎること更に数分。


「・・・」


なに、これ。

どういう状況?

誰か、この状況を説明してほしい。


訳がわからず、その場で固まっていた僕の耳に、ようやくか細い声が届いた。


「ぼ・・・僕に」


・・・君に?

君に、なんだい?


僕は、ごくりと唾を飲んだ。


「・・・僕に、ご教示ください。ノッガー令息から、こ、恋のご指南をお願いしたいので、しゅ・・・っ!」

「・・・は?」


なに?


え、この人、また噛んだ?


いや、ツッこむのはそこじゃないよね。


今この人、何て言った?




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